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村上春樹で英語を極める~世界の終りとハードボイルドワンダーランド~(1)

村上春樹作品の英訳を精読して英語学習を続けてきた。英文翻訳を読み、その理解をオリジナルで確認する作業をしていると、よく様々な発見がある。『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』のチャプターごとに、超簡単な要約と、筆者の気づきを書いていきたい。

1 エレベーター、無音、肥満

【要約】
私は、上昇しているのか下降しているのかもわからないほど緩慢なエレベーターの中に長時間閉じ込められた。私を待っていたのは、若く美しい太った女であった。彼女の話す言葉はなぜか聞こえない。私は、いままでの太った女との体験を思い出しながら、長い廊下を先に立って案内する女の後をついていく。

【日英表現】

This was pretty much what I was thinking as I walked down the corridor behind this young, beautiful, fat woman.  A white scarf swirled around the collar of her chic pink earrings, glinting with every step she took. Actually, she moved quite lightly for her weight.  She may have strapped herself into a girdle or other paraphernalia for maximum visual effect, but that didn't alter the fact that her wiggle was tight and cute.  In fact, it turned me on.  She was my kind of chubby. 

translated by Alfred Birnbaum

太字は筆者によるものである。
オリジナルは次のような文章である。

私はその若くて太った女のうしろについて廊下を歩きながら、だいたいそんなことを考えていた。彼女はシックな色あいのピンクのスーツの襟もとに白いスカーフを巻いていた。肉付きの良い両方の耳たぶには長方形の金のイアリングがさがっていて、彼女が歩くにつれてそれが灯火信号みたいにちかちかと光った。全体的に見て、太っているわりに彼女の身のこなしは軽かった。もちろんかっちりとした下着か何かで効果的に見映えよくひきしめているのかもしれないけど、しかしその可能性を考慮にいれても彼女の腰の振りかたはタイトで小気味よかった。それで私は彼女に好感を持った。彼女の太り方は私の好みにあっているようだった。

p.19 『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』1

オリジナルとその英訳を見たとき、"it turned me on" という英語と、「それで私は彼女に興味を持った」という原文に、微妙なズレを感じた。”turn on” は、「性的に興奮する」というニュアンスを含めることができる表現である。原文にはそこまでのニュアンスは直接に表現してはいないのだが、
直前に太った女とセックスしたことがあるという記述があるので、訳者が、turn on を用いたのも理解できる。like や liking を使うと、性的なものを微妙に文脈に託した「好感」という言葉のニュアンスが、その時点で消えてしまう。このあたりが翻訳の妙なのであろう。


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