娘の生まれたところ
15年前。
私は人生最高の瞬間を迎えた。
映画などでよく観る、ガラス越しの感動の初対面。
あの瞬間は今でも忘れない。全世界に「この子を見てくれ」と叫びたかったあの日。あの場所。
それがなくなってしまった。
15年も経てば世の中のあらゆるものが変わる。15年とはそれだけの歳月だ。覚悟はしてる。
でもやっぱり一抹の寂しさは拭えない。
「明日には生まれるかも」と思いながら、妻を見舞った帰りに見上げた窓も、入り口の自動ドア手前の数ステップある急な階段も、先日通りかかってみたら跡形もなくなってた。
愛想のない、無骨な感じの先生だったが、高齢出産の妻に対してはとても優しく、丁寧に接してくれた。
看護師さんも皆頼りがいがあり、まさに無敵のチームだった。
娘が生まれたあとも、各種予防接種なんかも注射してもらいに行ったりしていた。娘が一番落ち着くと言うので、それ程近所でもないのだが、いそいそと出掛けていたものだ。子どもを見る時だけ、先生は本当に優しい目をしていた。
そこが、ない。娘のふるさとがなくなった。
諸行無常である。