ないものねだり
私の叔父、父の弟だが、もうだいぶ前に亡くなった。
真面目な父とは真逆で、のんべえで山師、ちょっと危険な香りのするいい男だった。
私はそんな叔父のことがなんとなく憎めなく、好きだった。
田舎からひと足先に都会に出てきた父を何かと頼りにしており、父もそんな叔父のことは心配でよく面倒を見ていた。
そう聞くと一見慎ましい兄弟愛のように聞こえるが、実質のところは恐らくそんな清々しいものではなく、もっとドロドロした愛想悲喜こもごもな関係だったのだと思う。いま思えば。
きちんとした父へのプレッシャーというか、反発は当然あっただろう。酒にもよくやられていた。
一度倒れてお見舞いに行った時、まだ錯乱状態にあった叔父は、父の顔を見るや「あ、金返さなきゃな」と言っては部屋中の棚、抽斗をひっくり返し、「あれ?どこだ?」と顔を引きつらせていた。
まだ十代の初めだった私には、その姿は衝撃映像だった。
今、実家に帰れば母が全く同じことをしている。
家中の棚、抽斗の中に、あるはずのないお金を探し求めている。
お金って凄い。人間が生み出したモノが、人間を縛り付けてしまった。
お金って凄い。欲しい。