山は巡る #16
私の就農予定地である中山間地域において農作物を栽培するには、クマやイノシシ、サル等の害獣から畑を守ることを考えなければなりません。
農作物を荒らす彼らが住処としているのは、雑草や木々が生い茂った鬱蒼とした森。そのため、中山間地域の農家は畑の周りの森や山々の環境を整え、彼らが暮らせる住処をなくすよう心掛ける必要があると、私は考えています。
そこで大事になってくるのが、定期的な草刈りと木々の伐採です。ただ、刈り取った草はまだいいとしても、木ってどうやって処分すればいいのだろう。大きくて場所も取るし、運ぶにも重くて大変だろうなあ。そもそも、処分というか何かに活用できないものだろうか。そんなことを悶々と考えていたある日、研修先の農園を通して出会ったのが山の師匠・菊地さんでした。
菊地さんについては、このnote(#10)でも紹介しましたが、80代にして20kgはあろうかという発電機を担いで雪山に入ってきのこの菌打ちをしていたり、山小屋で真っ黒になりながら炭を焼いているスーパーおじいちゃんです。
その菊地さんが、間伐した木は(※種類にもよりますが)きのこのホダ木として利用して、原木きのこを栽培することができると教えてくださったのです。山の木を切り倒すことで農作物も安心して生産でき、そしてきのこも栽培できるなんて私にとってはありがたい限りでした。
中山間地域は獣害はあるし、傾斜地も多いし、麓の平らな場所から比べるとデメリットしかないと言われがちですが、山には山の良いところがあり弱みを強みに変えられるポテンシャルを秘めているのだということに、改めて気づかされました。
また、菊地さんが栽培した原木なめこを食してみると、まず普段食べているなめことは見た目が全然違い、傘も大きく肉厚で宝石かのようにキラキラと光り輝いていました。そして、実際に食べてみると、芳しいなめこの香りが口から鼻にかけて爽やかに抜けていくのです。実に美味しい山の味でした。
これは、自分でも栽培したい!その瞬間に、独立したらきのこづくりに挑戦することを決めました。
さらに菊地さんは言います。きのこが取れなくなったホダ木は自然とボロボロになってくる。これを畑にまくと土が良くなるよ、と。まさに、山と畑の循環がそこにはあるのです。
どんなものも無駄にはしない。大変なことも多いけど、山を守り、山に生きる。いつもやさしく、物腰柔らかな菊地さんですが、生き様からそんな力強さを感じたのでした。