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2025年版 最新B2B(BtoB)マーケティング大全
ChatGPTのDeep Researchで書いた書籍です。これまでに出版されてきたB2Bマーケティングに関する書籍18冊をで読み込みを行い、それらをキュレーション後、2025年版の最新トレンドを踏襲して一冊の書籍として取りまとめました。
内容は一通り監修しておりますが、記載内容に誤りがあった場合は訂正致します。
ーーーーーーー2025年2月18日追記ーーーーーーー
※一部から「盗用(コピー)コンテンツ」に該当するのでは?とのご指摘を頂いております。本記事はコンテンツ全執筆をAIのChat GPTとGensparkに書いてもらったテスト的な試みです。
内容に関しては解釈の幅が少ない一般的かつ普遍的な内容での記載にとどめておりますが、もし自身のオリジナルコンテンツである。または盗用に感じられる不快なケースがあればお申し付けください。内容削除致します。
また24時間以内あれば購入後の返金対応(note規定通り)には100%応じますのでお気軽にご購入ください。
AIを活用したテスト的な試みとしてご理解頂いてコンテンツをお楽しみ頂けるとうれしいです。
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序章 B2Bマーケティングのいま・これから
B2Bマーケティングの進化と変遷
2010年代後半~2020年代前半の主な変化(デジタルシフト、MA活用、ABMの普及 等)
日本市場固有の課題と世界的潮流の比較
2025年における主なトレンド
サブスクリプション/リカーリングモデルの定着
アカウントベース戦略やインサイドセールスの高度化
AI/データドリブンマーケティングの台頭
本書の目的・構成
本書を通じて得られる知識と実践ノウハウ
読者想定(マーケター、営業責任者、経営者 など)
1. B2Bマーケティングの進化と変遷
近年、B2B(企業間取引)マーケティングの世界は劇的な変化を遂げてきました。2010年代後半から2020年代前半にかけて、デジタル技術の浸透と顧客行動の変化に伴い、企業のマーケティング手法は従来のアナログ中心からデジタル中心へと大きくシフトしています。
特にデジタルシフト(マーケティング活動のオンライン化)とマーケティング・オートメーション(MA)ツールの普及は、B2B企業のリード獲得・育成プロセスに革命をもたらしました。例えば、日本市場では2013年に米国製MAツールのEloquaが本格展開を開始し、2014年にはMarketo(現Adobe)が日本法人を設立、その後国産MAも登場するなど、2010年代半ばにMAツール導入の波が押し寄せました。これにより、多くの企業で見込み顧客を効率的に獲得しナーチャリング(育成)するデマンドジェネレーションの考え方が浸透し始めました。
従来は単発の見込み客獲得と営業へのパスだけだったプロセスが、MAの登場によって「リードジェネレーション(見込み客獲得)→リードナーチャリング(見込み客の育成)→インサイドセールス(内勤営業による見込み客の絞り込み・関係構築)→フィールドセールス(訪問営業による契約)」という一連の流れに高度化したのです。特に2020年前後には新型コロナウイルス感染症の拡大により非対面での営業・マーケティング活動が否応なく必要となり、多くの企業がウェビナー(オンラインセミナー)やデジタルコンテンツを活用したリード獲得に舵を切りました。その結果、コロナ禍を契機として非対面の顧客体験をいかに創出し提供できるかが企業競争力の分水嶺となったのです。
また、2010年代にはソーシャルメディアのビジネス活用も加速しました。2011~2013年頃からFacebookやTwitter(現X)の企業利用が進み、B2B企業でも公式SNSアカウントを開設して情報発信・顧客とのエンゲージメント強化を図る動きが一般化しました。同時期にはコンテンツマーケティングにも注目が集まり、自社ブログやオウンドメディアで有益な情報発信を行って見込み客との関係を構築する戦略が広がりました。2014~2016年頃は「オウンドメディアブーム」とも言われ、多くの企業がSEOやブランディング目的で自社メディアに投資した時期でもあります。
さらに動画コンテンツの活用も2010年代後半に進み、製品紹介動画やウェビナーのオンデマンド配信などを通じて、テキストに留まらないリッチコンテンツで顧客に訴求する試みが増えました。これらデジタルチャネルの多様化に対応するため、マーケターには従来以上に幅広いスキルセット(SNS運用、SEO対策、コンテンツ制作、データ分析など)が要求されるようになっています。
こうしたデジタルマーケティングの浸透に加え、2010年代後半から注目を浴びたのが**アカウントベースドマーケティング(ABM)**です。ABMとは、自社にとって価値の高い特定の取引先企業(アカウント)を絞り込み、個別最適化したアプローチで関係構築と売上拡大を狙うマーケティング手法です。米国では2010年代中盤から後半にかけてABMがB2Bマーケティングの主流戦略の一つとなり、多くの企業がその効果を認識して実践してきました。
ABMの台頭により、「大量のリードを集めること」から「重要顧客との長期的関係を深耕すること」へとマーケティングの重心が移りつつあります。具体的には、営業とマーケティングが一丸となってターゲット企業ごとのカスタマージャーニーを設計し、個別の課題に応じたコンテンツ提供や提案活動を行うスタイルが広がりました。例えば、特定企業向けにカスタマイズしたホワイトペーパーを提供したり、その企業の意思決定者向け限定セミナーを開催するといった取り組みが典型例です。ABMを支えるテクノロジーも発展し、ターゲット企業のウェブ上の行動データや意図(インテント)データを収集して商機を予測するツール、ABM専用の広告プラットフォームなどが登場し、重要顧客へのピンポイントな働きかけが可能になっています。
以上のように、この10~15年でB2Bマーケティングは**「量から質へ」、「属人的経験からデータドリブンへ」、「単発取引から長期的リレーションシップへ」**と大きくパラダイムシフトしました。その変遷を整理すると、図表1のように四象限で捉えることもできます。例えば一軸を「ターゲティング範囲(マス vs アカウント特化)」、もう一軸を「主な顧客接点(対面中心 vs デジタル中心)」とすると、以下の4象限に分類できます。
従来型のマスマーケティング(広範囲×対面中心): 不特定多数の見込み客に対し、展示会出展やDM、テレビ・業界誌広告など主にオフラインでアプローチする手法。リード獲得数は多いものの一件あたりの関与は浅く、営業任せのフォローになりがちでした。
従来型のキーアカウント営業(特化×対面中心): 特定の大口顧客に絞り、担当営業が訪問による密接な関係構築を行う手法。いわゆる“大企業の御用聞き営業”スタイルで、深い関係は築けますが属人的で新規開拓には非効率でした。
デジタル時代のマスマーケティング(広範囲×デジタル中心): ウェブサイト、SEO、オンライン広告、SNS、メールマーケティングなどデジタルチャネルを活用して幅広い見込み客にリーチする手法。マーケティングオートメーションにより多数のリードをスコアリング・育成し、セミナーや資料ダウンロード経由で効率よく商談創出するアプローチです。
デジタル時代のアカウントベース戦略(特化×デジタル中心): ABMに代表されるように、特定企業ごとにカスタマイズしたコンテンツやオンライン接点を提供し、非対面でも重要顧客とのエンゲージメントを深める手法。ウェブ上での個社別広告配信や、ターゲット企業限定のウェビナー開催、関係者向けメールによる個別情報提供など、デジタルを駆使してスケーラブルにキーアカウント開拓・深耕を行います。
この図式からも分かるように、2010年代から現在に至る進化の方向性は**「右上(特化×デジタル)へのシフト」**でした。すなわち、不特定多数よりも特定有望顧客を重視し、対面よりもデジタルを駆使する流れです。現代の先進的なB2Bマーケティングは、右上の象限に位置する戦略(デジタル×アカウント特化)を中心に据えつつ、必要に応じて他の手法も組み合わせるハイブリッド型へと変容しています。
一方で、日本市場固有の課題も存在します。実は日本のB2Bマーケティングは欧米に比べ**「約15年遅れている」とも指摘されています。具体的には、欧米では2000年代に普及し始めたMAの概念が、日本に本格的に入ってきたのは2014年頃であり、その導入・定着もまだ十分とは言えない状況があります。
背景には、日本企業においてマーケティング部門が経営の中核として位置づけられてこなかった歴史があります。B2B企業では長らく「良い製品を作れば、あとは根性の営業で売れる」という文化が強く、マーケティングは営業支援や広告宣伝の補佐的機能と捉えられがちでした。そのため欧米企業のようにCMO(最高マーケティング責任者)**を置いて戦略的マーケティングを統括する体制が整っておらず、大企業であってもマーケティング専門部署が存在しないケースすら見られました。
さらに、日本市場は取引慣行や商習慣が独特で、既存顧客との長年の取引関係(いわゆる系列や顧客囲い込み)が重視されるあまり、新規顧客開拓や潜在需要の掘り起こしに十分な資源が割かれてこなかった面もあります。その結果、「現在の売上の大半は営業努力で既存顧客から生み出し、マーケティング由来の売上はごく一部」という企業が少なくありません。
しかし状況は近年変わりつつあります。国内でも2010年代後半からスタートアップ企業を中心にデジタルマーケティングの成功事例が増え、経営層の意識も変化してきました。たとえばSaaS企業の成長に伴い、「インバウンドマーケティングで見込み客を継続創出しなければ事業がスケールしない」ことが共有認識となりつつあります。また、2019年頃からはインサイドセールス(内勤による営業開拓手法)やカスタマーサクセス(顧客成功管理)といった新しい営業・顧客管理モデルも注目され始め、従来のフィールドセールス一辺倒から脱却する企業が増えてきました。もっとも、日本企業全体で見ればまだ過渡期にあります。ある調査によれば、2021年時点でインサイドセールスを導入済みの企業は約3割、カスタマーサクセス導入は約2割に留まっています。米国では2010年代に既に営業組織の中でインサイドセールスが占める割合が40~50%に達していたことを考えると、国内企業の取り組みは遅れているものの、確実に追随し始めている状況です。
加えて、ABMの浸透度にも差があります。前述のように米国では多くのB2B企業がABMを実践して成果を上げていますが、日本では**「ABM」という言葉の理解自体が十分でない企業もまだ多く存在します。実際、「日本企業はABMの取り組みが遅れているが、近年注目が高まっている」という指摘もあり、日本の市場環境に合わせた「日本式ABM」の模索が今まさに進められている段階です。
日本固有の課題としては、営業現場の感覚では大口顧客ほど属人的対応が必要と信じられており、「個別最適化=人海戦術」という発想から抜け出せないこと、データに基づく顧客選別や施策の最適化に抵抗感があることなどが挙げられます。また、社内の部署間連携(営業とマーケティングの連携)が縦割り組織の弊害で進まず、ABMを推進するクロスファンクショナルなデマンドセンター**(需要創出専任組織)の設置に踏み切れない企業も少なくありません。これらの課題により、日本ではせっかくMAツールを導入しても使いこなせなかったり、ABMの概念を知っても実行に移せないケースが散見されます。
とはいえ、日本企業もグローバルの潮流を無視できない時代に入っています。製造業であっても海外勢との競合が激化し、「良いモノを営業力で売る」だけでは通用しなくなっています。
マーケティングによって新規顧客を開拓し市場シェアを獲得していかなければ、既存顧客頼みのビジネスはやがて頭打ちになるでしょう。またデジタル時代の顧客は情報収集行動が大きく変化しており、売り手主導ではなく買い手主導の購買プロセスが一般化しています。顧客は営業担当と会う前にWebサイトや資料で下調べを済ませ、意思決定のかなり手前からベンダー選別を始めています。**「2025年までにB2Bの購買プロセスの80%はデジタルチャネル上で完結する」**との予測もあるほどで、日本企業もこの変化に対応すべくマーケティングと営業の在り方を再定義する必要に迫られているのです。
以上、2010年代後半から現在に至るB2Bマーケティングの進化を振り返りました。デジタルシフト、マーケティングオートメーションの台頭、ソーシャルやコンテンツの活用拡大、ABMの普及と営業・マーケティング融合といった潮流が確認できました。同時に、日本市場特有の遅れや課題も浮き彫りになりました。このような変遷を踏まえ、次節では2025年時点で押さえるべき最新トレンドに焦点を当て、現在進行形の変化とこれから数年間を見据えたマーケティング戦略の方向性について整理します。
2. 2025年における主なトレンド
2025年を迎えた今、B2Bマーケティングはさらに次のステージへ進もうとしています。本節では現在注目すべき主要トレンドとして、(1) サブスクリプション/リカーリングモデルの定着、(2) アカウントベース戦略やインサイドセールスの高度化、(3) AI(人工知能)活用・データドリブンマーケティングの台頭、の3つを取り上げます。いずれも過去数年の延長線上にある流れではありますが、2025年時点で多くの企業にとって無視できない戦略要素となっているポイントです。経験豊富なマーケターであれば既に取り組み始めているかもしれませんが、各トレンドの現状と今後の展望を整理しておきましょう。
サブスクリプション/リカーリングモデルの定着
まず、サブスクリプション型ビジネスモデルの定着です。サブスクリプションとは、製品やサービスを顧客に継続的に提供し、定期的な課金(リカーリング収益)を得るビジネスモデルです。従来B2Bでは大型機器の売り切りやソフトウェアのライセンス売切型が一般的でしたが、近年ほぼあらゆる業種で「サービス化」「継続課金モデル」への転換が進んでいます。例えばソフトウェア業界ではオンプレミスの永続ライセンス販売から**SaaS(月額課金のクラウドサービス)**への移行が主流になり、製造業でも製品本体ではなく利用時間や成果に対して料金をもらう「XaaS(X as a Service)」型の提供が増えています。身近な例としては工作機械メーカーが機械そのものではなく稼働時間に応じた料金を請求するサービスを始めたり、メーカー各社がアフターサービスやIoTによるモニタリングサービスをサブスク化しているケースがあります。
このサブスクリプションモデル定着の背景には、ベンダー・顧客双方にメリットが大きいことがあります。ベンダー側(提供企業側)にとっては、単発の売上ではなく継続課金による安定収益基盤を築けること、契約が積み上がることで将来の収益予測が立てやすくなること、顧客と長期関係を結ぶことで追加サービスのクロスセルやアップセルの機会を得られること、などが利点です。顧客側にとっても、大きな初期投資無しで必要な期間だけサービスを利用できる柔軟性や、常に最新の製品・機能を使える安心感、利用料が経費計上しやすい(CAPEXではなくOPEX化できる)といったメリットがあります。こうしたWin-Winの構造から、B2B取引でもサブスクモデルは「当たり前」の選択肢となりつつあります。
実際、**サブスクリプションエコノミー(継続課金経済)**の市場規模は近年飛躍的に拡大しています。米国Zuora社の調査によれば、サブスクリプション型企業の売上成長率は過去10年間でS&P500企業平均の4.6倍のスピードに達したことが報告されています。このデータはサブスク企業の成長力が従来型企業を大きく上回っていることを示しており、ビジネスモデル転換のインパクトを裏付けています。また別の調査では、「企業の収益の75%以上をリカーリング収益が占める企業」の割合が毎年増加しているとの報告もあります(※具体的な統計は業種によりますが、特にIT業界やサービス業で顕著です)。2020年のコロナ禍でもサブスク企業は解約率低下と成長継続が見られたという分析もあり、不況や市場変動に強いビジネスモデルとして改めて注目されました。
B2Bマーケティングにおいて、サブスクリプションモデルの定着はマーケターの役割を一層重要にしています。従来の一括販売型では「売って終わり」だったものが、継続利用が前提になることでライフサイクル全体にわたる顧客エンゲージメントが必要となるからです。契約後も顧客がサービスを使い続け価値を感じてもらわなければすぐに解約(チャーン)につながってしまいます。そのためマーケティング部門が営業・カスタマーサクセスと連携し、オンボーディング(導入支援)から利用促進、定着化、さらには契約更新や追加購入の訴求まで一貫して関与することが求められます。具体的な施策としては、契約顧客向けの定期ウェビナー開催や活用事例紹介コンテンツの提供、利用状況データに基づくヘルススコアのモニタリングとアラート、顧客満足度調査の実施とフィードバック反映などが考えられます。マーケティングKPIも新規リード数や商談数だけでなく、LTV(顧客生涯価値)や継続率、アップセル率など顧客維持・拡大指標が重視されるようになります。要するに、サブスクリプション時代のマーケターは**「継続的な価値提供の仕組みづくりの担い手」**へと役割がシフトしているのです。
アカウントベース戦略とインサイドセールスの高度化
次に、アカウントベース戦略(ABMを中心とした戦略)の深化とインサイドセールスの高度化についてです。前節でも触れたABMは、2025年現在ますます重要性を増しています。国内外問わずB2B企業は自社のリソースを最も収益インパクトの大きい顧客に集中させるべく、マーケティングと営業を統合したアカウント戦略を構築する流れにあります。それに伴い、**マーケティング&セールスのアラインメント(統合)**が経営課題として認識され、組織横断の取り組みが本格化しています。
アカウントベース戦略の高度化とは、単に特定顧客を狙うだけでなく、その質と精度を上げることです。具体的には以下のような進化が見られます。
ターゲット選定の科学化: 従来は営業現場の勘や経験に頼って「重要顧客リスト」を作成していた部分に、データドリブンのアプローチが導入されています。顧客企業の業種・規模・過去取引履歴だけでなく、ウェブ上の行動データや外部データ(業績動向、ニュース、採用情報など)を分析し、自社にとって本当に狙うべきアカウントをスコアリングで洗い出す試みが行われています。
パーソナライズとコンテンツ最適化: 選定したターゲット企業それぞれに対し、刺さるメッセージや提供価値をカスタマイズする手法が高度化しています。業界別・企業別の課題にフォーカスしたホワイトペーパー、担当者の役職や関心領域に合わせたケーススタディ資料、キーパーソン個人に向けたメールやDM(近年復活しているAccount Based Direct Mailと呼ばれる手紙・ギフトの活用)など、多彩な手段で“一社一社に響く”マーケティングを展開します。マーケティングオートメーションやウェブパーソナライゼーションツールも進化し、特定企業から自社サイトに訪問があればその企業向けに内容を出し分ける、といったリアルタイムパーソナライズも実現しつつあります。
組織横断チームによるアプローチ: ABM成功の鍵は組織横断の専任チーム(デマンドセンターやABMチーム)の存在と言われますが、まさに2020年代前半からそうした組織づくりが各社で進んでいます。
ABX(Account-Based Experience)への発展: ABMの考え方がさらに拡張し、ABXすなわちアカウント単位でマーケティング・営業・カスタマーサクセスのすべての顧客接点を最適化するという発想も注目されています。ABMが主に新規商談創出にフォーカスしていたのに対し、ABXは見込み客段階から契約・利用中・更新に至るまで、アカウントに関わる全プロセスで一貫した体験(エクスペリエンス)を提供することを目指します。これにより単発の売上ではなく、先述のサブスクリプションモデル下での長期的な顧客価値最大化に寄与するアプローチとなります。
一方、インサイドセールスの高度化も顕著です。インサイドセールス(内勤営業)は、見込み顧客と対面ではなく電話やメール、オンライン会議などで接点を持ち、商談化の前段階を担う専任営業機能です。日本でもここ数年で導入企業が急増し、「まずインサイドセールス組織を立ち上げてマーケと営業の橋渡しを強化する」動きが一般化してきました。2025年現在、インサイドセールスは単にアポイント獲得要員という位置づけから、データとツールを駆使した高度なリードマネジメント役割へと進化しつつあります。
具体的には、インサイドセールス担当者はMAやCRMに蓄積された見込み客の行動データ(メール開封履歴、サイト訪問履歴、資料請求状況など)を活用してコンタクトの優先度を判断し、スコアリングに基づく戦略的コール/メールを実施しています。単なる架電リスト消化ではなく、今まさに検討度の高いリードに集中してアプローチすることで効率的な商談創出を行います。また営業支援のテクノロジー(いわゆるSales Tech)の発達も追い風です。たとえば、コール内容を自動で文字起こし・分析して次の打ち手をAIが提案する通話解析ツールや、メールの反応率を高めるための送信タイミング・件名最適化ツールなどが実用化され、インサイドセールスの日々の活動を強力に支援しています。これにより各担当者がより少人数で多くの見込み客に継続フォローできるようになり、営業効率の飛躍的向上が図られています。
さらに、インサイドセールスはマーケティング部門と一体となってナーチャリング戦略を構築する役割も担います。マーケティング部門がメールマーケやコンテンツ提供でリード育成を行う際に、インサイドセールスからの直接ヒアリング情報(顧客の課題感や検討状況)をフィードバックし、コンテンツの質を高める協働も行われています。その結果、インサイドセールスは単なる「営業の前工程」ではなく、マーケティングと営業双方に価値を提供するハブ的存在となりつつあります。特にABMを実践する上でもインサイドセールスは重要なピースです。ターゲット企業の複数のキーパーソンにアプローチする際、外勤の営業担当だけでは手が足りませんが、インサイドセールスと連携すれば一人ひとりにきめ細かなフォローが可能です。例えば主要アカウントに対し、「営業担当が意思決定者と商談する傍ら、インサイドセールスが現場担当者や他部門担当者にアプローチして裾野を広げる」といった連携で、アカウント内の複数関係者を巻き込むことができます。これにより単独の人脈に依存せず、アカウント全体を攻略する戦術が実現します。
なお、日本におけるインサイドセールス活用はようやく軌道に乗り始めた段階ですが、米国では既に**「デジタルセールス」**などとも呼ばれ、外勤営業を置かずオンライン完結で売上を上げるモデルも一般化しています。ガートナーの調査が示すように「2025年までにB2Bの購買担当者とサプライヤー側営業のやり取りの80%はデジタル上で完結する」見通しであり、将来的には日本企業でもインサイドセールス主導で営業プロセスが進む割合が飛躍的に高まる可能性があります。対面商談は高度で複雑な案件や関係構築に限られ、標準的な提案や製品説明はオンラインで済ませる――そうした営業スタイルへのシフトは避けられないでしょう。
AIとデータドリブンマーケティングの台頭
最後に、AI技術の活用拡大とデータドリブンマーケティングの台頭について述べます。2020年代に入りAI(人工知能)、特に機械学習や深層学習の実用化が進み、マーケティング領域でもAIを取り入れる企業が急増しています。マーケティング部門が扱うデータ量は膨大で(Webアクセスログ、メール開封率、商談確度、顧客属性情報、SNSの反応など)、従来は担当者の分析や経験則に頼っていた部分も、AIを用いることでより高度な洞察を得ることが可能になっています。
とりわけ近年注目なのが生成AIの登場です。2022年末に公開されたChatGPTに代表される高度な自然言語生成AIは、マーケティングコンテンツ制作の在り方に大きなインパクトを与えました。文章や画像をAIが生成できるようになったことで、ブログ記事の下書き作成、広告コピーのアイデア出し、SNS投稿文の最適化、あるいは画像クリエイティブの自動生成まで、コンテンツ制作のスピードと量産性が飛躍的に向上しています。もちろん完全に人間のクリエイティビティを代替するものではありませんが、補助ツールとして活用することでマーケターの生産性を高め、より戦略的な業務に時間を割けるようになります。実際、ある調査ではマーケターの約70%が既に何らかの形でAIツールをマーケティング活動に活用しているとの結果も出ています。例えばメールマーケティングでは件名のABテストをAIが自動生成・実行して開封率を最適化したり、ウェブ広告ではAIがユーザーごとに最適なクリエイティブをリアルタイムに選択するといったことが行われています。またチャットボットによる顧客対応も一般化し、営業リードの一次対応をAIチャットボットが24時間行うことで機会損失を防ぐケースも増えました。
AI活用とともに重要性が高まるのがデータドリブンマーケティングです。経験や勘ではなくデータに基づいて意思決定するマーケティング手法ですが、これ自体は目新しい言葉ではありません。ただ2025年現在、その実践レベルが大きく向上している点に注目が必要です。かつてはアクセス解析ツールやExcelでの集計程度だったデータ分析が、今やBIツールや機械学習を用いた高度な分析に発展しています。具体例として、以下のような取り組みが広がっています。
リードスコアリングの高精度化: 従来型のルールベース(属性に点数付与)のリードスコアリングから、機械学習モデルを用いた予測リードスコアリングへの移行です。過去に成約した顧客のデータを学習し、見込み客が成約に至る確率をAIが算出することで、営業に引き渡す優先度を客観的に判断します。これにより見込み客フォローの効率が上がり、営業リソースを本当に可能性の高い案件に集中できます。
チャーン予測と顧客維持施策: 定常収益化モデルの普及で、契約顧客の解約リスクを予測する分析も重視されています。利用頻度やサポートへの問い合わせ状況、NPS(顧客推奨意向)スコアなどのデータから、契約更新されない可能性が高い顧客をAIがリストアップします。マーケティングとカスタマーサクセスはその兆候を捉えて早期にフォローアップ(追加トレーニングの提案や契約プラン見直し提案など)を実施し、解約防止につなげます。
パーソナライズドマーケティングの深化: Webサイトのコンテンツやメールの内容をデータに基づき細かく出し分けるリアルタイム・パーソナライゼーションも一般化しています。顧客の閲覧履歴や業種に応じてWebページ上の事例表示を切り替えたり、メールキャンペーンでセグメントごとに異なる製品訴求ポイントを盛り込んだりと、一人ひとりに近い体験を提供します。約80%の企業がパーソナライズされたエクスペリエンス提供に注力しているとも言われています。
マーケティングROIの可視化と最適化: マルチチャネルで展開するマーケティング施策の費用対効果を正確に測定し、次の投資配分をデータで決める動きも進んでいます。マーケティングミックスモデリング(MMM)やアトリビューション分析といった手法を駆使し、オフラインも含めたチャネル横断でのROIを算出します。例えば、展示会・ウェビナー・広告・メールといった複数接点の中でどれが最終的な商談獲得に寄与したかを統計モデルで分析し、翌年の予算配分を調整するといった具合です。これにより感覚ではなく根拠ある予算策定と施策選択が可能になります。
こうしたAI・データ活用の広がりにより、マーケターにはよりテクノロジーリテラシーと分析スキルが求められるようになっています。マーケティング部門内にデータアナリスト職種を設けたり、データサイエンスに強い人材を採用する企業も増えました。また、分析結果を現場の施策に落とし込みPDCAを回すアジャイルマーケティングの考え方も定着しつつあります。小さく実験し(例えばランディングページのデザインを2種類テストする)、データで良し悪しを判断して改善する、このサイクルを高速で回すことで成果を最大化する手法です。AIはこの実験と学習を支援し、人間には発見できないパターンや相関関係を示唆してくれるため、経験豊富なマーケターにとっても意思決定の強力なパートナーとなっています。
以上、2025年時点で見逃せない3つのトレンドを概観しました。サブスクリプションモデルの定着は収益モデルとマーケティングKPIを変革し、ABMを核とするアカウント戦略とインサイドセールスの高度化は組織体制と営業プロセスを再構築させ、AI・データドリブンのマーケティングは戦術レベルの日々の意思決定からチーム編成に至るまでマーケターの仕事のあり方を塗り替えています。これらはすべて、経験者である読者の皆さんにとって他人事ではなく、自社で既に直面しているか近い将来取り組むべきテーマでしょう。本書ではこれらトレンドそれぞれについて、さらに深掘りした解説や具体的な実践ノウハウを提供していきます。
3. 本書の目的・構成
以上のように、B2Bマーケティングはダイナミックに進化し続けており、経験豊富なマーケターであっても常に最新動向をキャッチアップし、自社に適用する知見が求められます。本書の目的は、2025年時点でのB2Bマーケティング最前線の知見を体系立てて整理し、実務に役立つ形で提供することです。単なる概念や流行語の紹介に留まらず、筆者自身の実務経験や国内外の最新事例、データを交えながら、明日からの戦略立案や施策実行に役立つ具体的なノウハウを提示していきます。特に以下のポイントを重視して執筆しました。
最新トレンドの体系的理解: 序章で述べたようなマーケティング手法の進化や現時点での主要トレンドを俯瞰し、読者の知識をアップデートします。ただ新しい用語を紹介するだけでなく、その背景にある市場環境の変化や技術革新、海外での先行事例なども含めて解説することで、トレンドを単なる流行ではなく自分ごととして捉えられるようになります。
実践的なフレームワークと戦略策定法: 経験者の方に向けて、現場ですぐ使えるフレームワークや意思決定の考え方を提示します。例えばABMを導入する際のステップや組織体制のチェックリスト、インサイドセールスとマーケティングの連携プロセスモデル、コンテンツ戦略立案の4象限マトリクスなど、読んで理解するだけでなく実務に落とし込めるツールを数多く紹介します。紙面の都合上、図表(マトリクス図やプロセスフロー図など)も適宜織り交ぜ、視覚的にも整理しやすいよう工夫しています。
データに裏付けられた意思決定: 本書では可能な限り統計データや調査結果を引用し、客観的な裏付けをもって議論を進めています。マーケティング施策の効果や市場の動向について、具体的な数字を示すことで説得力を高めています。例えば「●●を導入した企業は売上成長率がXX%向上した」という海外調査結果や、「国内における●●の導入率はYY%である」といった統計を随所に盛り込みました
日本企業の文脈に合わせた考察: 海外事例だけでなく、日本市場特有の事情を踏まえた解説にも力を入れています。前述したように日本のB2Bマーケティングは組織風土や商習慣の点で独自の課題があります。本書では各トピックについて、日本企業が陥りがちなポイントやそれを克服するためのヒントを提示します。例えば「日本企業でABMを成功させるための留意点」や「自社にマーケティング文化を根付かせるには」など、著者が実際に支援してきた企業のケースも交えながら、日本の読者が直面する現実的な疑問に答えていきます。
本書の構成は大きく三部に分かれています。**第1部(第1~3章)**ではB2Bマーケティング戦略の全体像と最新トレンドを概観します。市場環境の変化を踏まえ、デジタルシフトやABM、顧客体験の重要性など、経営レベルで押さえておくべきポイントを整理します。**第2部(第4~6章)**では具体的な実践論に踏み込みます。デジタルマーケティング施策の計画と運用(コンテンツマーケティング、SEO/広告、マーケティングオートメーション活用)、営業との連携(インサイドセールス立ち上げ、ABM実行プロセス)、そしてAIやデータ分析の活用方法について、それぞれ実務で使えるノウハウを詳細に解説します。**第3部(第7~8章)**では組織論や今後の展望を扱います。マーケティング組織の構築・人材育成、KPIマネジメントと予算策定、さらには将来を見据えたマーケティングの在り方(例:Web3やDXとB2Bマーケティングの関係など)について言及し、読者が長期的視座でマーケティング戦略を描けるような示唆を提供します。最後に付録として主要なマーケティングツール一覧や用語集も設け、日々参照できるリファレンス資料として活用いただけるよう配慮しました。
最後に、本書を手に取ってくださった皆様が得られる価値について述べます。本書を読み終えたとき、読者はB2Bマーケティングの現在地と行くべき未来像をクリアに描けるようになるでしょう。単に知識が増えるだけでなく、「自社では何が足りておらず、何を強化すべきか」「明日からどのような施策を講じるべきか」のヒントを持ち帰っていただくことが本書のゴールです。経験者ゆえに陥りがちなマンネリや思い込みを打破し、新たな発想や戦略を生み出す刺激になれば幸いです。本書で紹介するフレームワークや事例は、ぜひ自社の状況に合わせてカスタマイズし、実践に移してみてください。B2Bマーケティングは正解が一つではなく、常に試行錯誤と改善の連続です。本書が皆様のその挑戦の一助となり、ひいては皆様のビジネスの成長に貢献できることを心より願っています。
それでは、本編に進みましょう。これから始まる章では、まずデジタル時代におけるマーケティング戦略の土台について深掘りしていきます。本書の旅路が、読者の皆様にとって実り多いものとなりますように。
第1章 B2Bマーケティング基礎フレームワーク
B2BとB2Cの違い:購買プロセスの特徴
複数の意思決定者・長期検討・高額商材 など
マーケティングと営業の関係性
従来型の「営業中心」モデルとデジタル時代の「連携」モデル
主要なフレームワークの比較
「THE MODEL」の概念
インバウンド×アウトバウンド、ファネルやカスタマージャーニーの考え方
用語解説(入門編)
リードジェネレーション、リードナーチャリング、SQL/SDR/ABM など
本章では、B2Bマーケティングの全体像と基本的な考え方を整理し、以降の章で扱う各種戦略や施策の前提となる概念を明らかにする。まずはB2BとB2Cの違いを購買プロセスの観点から比較し、B2B特有の特徴がどのようにマーケティング活動へ影響しているかを確認する。次に、企業の組織内においてしばしば対立関係にあると捉えられがちなマーケティングと営業の役割分担と連携モデルについて考察し、デジタル化の進展がもたらす新しい協業の在り方を示す。さらに、代表的なB2Bマーケティングフレームワークである**「THE MODEL」**や、インバウンドとアウトバウンドの融合、カスタマージャーニーといった考え方を比較しながら、どのように自社の状況や目標に合わせて選択・適用すべきかを解説する。最後に、B2Bマーケティングの基本用語をまとめて整理し、本章の締めくくりとする。
1. B2BとB2Cの違い:購買プロセスの特徴
1.1 意思決定プロセスの多層化と複数ステークホルダー
B2B(Business to Business)マーケティングにおいて最も重要なポイントの一つは、購買意思決定が複数のステークホルダーによって行われることである。B2C(Business to Consumer)の場合、最終的な購買意思決定者は個人消費者であり、その個人の心理・感情的要素や価格・ブランド認知などが意思決定を左右する。一方B2Bの場合は、購買を実行する企業内に複数の意思決定者や影響者が存在する。例えばITソリューションの導入検討では、次のような関係者が登場し得る。
経営層(決裁権者): 導入の最終判断、投資額の決裁を下す。
現場管理職(ユーザー部門責任者): 実際のニーズを持ち、業務要件を明確化する。
財務部門: 投資対効果や予算枠、支払い条件などを管理。
情報システム部門: 技術的適合性、セキュリティ要件、運用上の可否を判断。
現場担当者(エンドユーザー): 日常的に使う立場としての使い勝手や業務改善効果を評価。
このように、B2Bの購買プロセスでは、単に「経営層を口説けば終わり」でもなければ「現場の使い勝手だけを満たせばいい」わけでもない。それぞれのステークホルダーが抱える視点やニーズに対応し、導入メリットを説得的に示す必要がある。さらに、企業規模が大きいほど承認フローも階層化し、関係者が増加する傾向がある。これが、B2BマーケティングがB2Cに比べて複雑化する要因の一つである。
1.2 長期検討サイクルと高額商材
B2B商材は高額な製品やサービスが多く、導入による影響範囲も大きい。例えば製造設備や基幹システム、コンサルティング契約などは、契約金額が数百万円から数億円にのぼるケースも珍しくない。そのため、企業としては導入ミスが大きな損失につながりかねず、より慎重な検討を要する。結果として、B2Cに比べ購買サイクルが長期化しやすい。検討期間が数ヶ月から1年を超えることもあり、見込み顧客とのコミュニケーションを継続的に行い、必要に応じた情報提供やコンテンツ配信(ナーチャリング)を通じて信頼関係を築く必要がある。
加えて、B2Cよりも導入後のサポート体制やアップデート計画、カスタマイズの可否といった要素が重視される。B2B顧客は製品・サービス単体だけでなく、長期的に提供される価値(継続サポートや費用対効果など)を総合的に評価する傾向が強い。このような長期的・包括的な視点が、B2Bマーケティングでの提案やコミュニケーション手法に影響を与えている。
1.3 リレーションシップとブランドの重要性
B2Cでは大量の消費者を相手にするため、マス広告やSNSを通じた認知拡大が重視される。一方B2Bでは、少数の大口顧客を相手にするケースが多く、個別のリレーションシップ構築がより重要となる。これはABM(Account Based Marketing)のように、特定企業ごとに施策をカスタマイズして深い関係性を築く考え方にも表れている。
一方で、B2B商材においてもブランド構築は無視できない。購買意思決定が複数人で行われるため、誰もが知っている実績あるベンダーであれば社内稟議も通りやすくリスクが低いと判断される。特に日本企業においては、大手SIerや大手メーカー、海外の有名ソフトウェアベンダーなどの「ブランド力」を重視する傾向が根強い。これは調達に伴う個人リスク回避(失敗したときの社内批判を避けたい、実績ある企業に任せておけば上層部からも理解が得やすい)という心理が働くためでもある。B2B企業が認知度・評判を高めるためにブランディング施策へ注力するのはこのような背景が大きい。
1.4 価格交渉とカスタム要件
B2Cであれば値札が明示され、原則的に一律価格で取引される。しかしB2Bでは商材の複雑性から価格交渉が行われることが多く、見積もりベースで最終価格が決定するケースが一般的だ。また顧客企業の要望に応じて製品やサービスをカスタマイズすることも頻繁に行われるため、一律の提案ではなく個別調整が必要となる。
これはマーケティングの段階でも、見込み顧客に対して**「弊社はあなたの企業の具体的課題や要望に応えられる」**というアピールが求められることを意味する。定型化された商品説明だけでなく、導入事例・ユーザーケースの提示やROIシミュレーション、導入後サポート内容の詳細な説明など、パーソナライズされたアプローチが必要になる。
1.5 まとめ
このように、B2BとB2Cの違いは、購買プロセスの長さ、意思決定者の多さ、高額商材とリスク回避思考、リレーションシップとブランド力、価格や仕様の柔軟な調整など、多岐にわたる。B2Bマーケティングでは、単に「大量に認知度を高めれば売れる」という単純図式ではなく、顧客企業の状況や意向を深く理解し、多面的なアプローチを行う必要がある。この点を踏まえて、マーケティングと営業がどのような役割を担い、どのように連携すべきかを次項で見ていく。
2. マーケティングと営業の関係性
2.1 従来型の「営業中心」モデル
日本企業のB2Bビジネスにおいては、従来「営業中心」モデルが主流であった。製造業を例にとると、優れた技術力や製品力を背景に、営業担当者が既存顧客との関係性を維持・深耕することで受注を獲得してきた歴史がある。新規開拓については展示会や紹介、代理店ネットワークなど比較的アナログな手法で行われ、マーケティング部門は宣伝広告やパンフレット・カタログ作成、展示会運営のサポート役に留まることが多かった。
このモデルでは、**「優れた製品力 × 営業担当者の人間関係・根性」**が売上を支える主軸となる。一方でマーケティング部門は「パンフやWEBサイトの更新担当」「展示会のブース運営スタッフ」「営業が必要とする資料の作成係」などと捉えられ、戦略的な役割が確立していなかったケースが少なくない。市場の情報収集や顧客セグメントの分析、ブランド戦略なども、営業現場が属人的に行うか、あるいはほとんど行われないままになることもしばしばであった。
このような構造が長らく維持された背景には、日本企業特有の既存顧客との長期取引志向や系列関係が影響している。既存顧客からのリピート受注や内示によって安定した売上を確保できるため、新規顧客開拓を大々的に行う必要性が低かったこともある。また大企業では営業部門の力が強く、マーケティング部門を設置しても予算や組織が小規模で、営業活動の支援しかできないといった体制不備も見られた。
2.2 デジタル時代の「連携」モデル
ところが近年、前章でも触れたように市場や顧客の購買行動がデジタル化することで、従来の営業中心モデルは限界に直面している。オンライン上で情報収集を済ませ、比較検討を行い、購買のかなり手前の段階からベンダー選定を進める顧客が増加しているため、「足で稼ぐ営業」だけでは時代に追いつかなくなっているのだ。その結果、営業部門は「有力なリード(見込み顧客)」がどこから生まれてくるか分からず、案件化のチャンスを失うリスクが高まる。一方でマーケティング部門はデジタルチャネルを通じてリードを獲得し、コンテンツ提供や広告配信を行っているが、営業部門と情報が共有されず、成果が売上に結び付かないという問題が発生する。
このような課題を解消するため、デジタル時代の「連携」モデルが重要視されている。具体的には、マーケティング部門がWebサイトやSNS、ウェビナー、コンテンツなどを活用して潜在顧客を引き付け、リードジェネレーションを行う。続いて、MA(マーケティングオートメーション)ツールやCRM(顧客関係管理)システムと連動してリードをスコアリングし、ある程度購買意欲の高い見込み客(MQL:Marketing Qualified Lead)を営業部門へトスアップする流れである。営業部門は受け取ったMQLに対し、インサイドセールスやフィールドセールスを通じて具体的な提案や商談化を進める。そして一定の確度を持った商談(SQL:Sales Qualified Lead)に発展すればクロージングを目指すというプロセスが整備される。
このモデルが機能するためには、マーケティングと営業のKPIを連動させること、そして顧客データベースを一元管理することが不可欠である。例えば「MQL転換数」「SQL転換率」「商談からの受注率」などを両部門でモニターし、定期的なミーティングやSLA(Service Level Agreement)の取り決めで認識を共有する。結果として、デジタルを活用した新規顧客開拓が高効率化し、営業現場も“質の高い案件”に集中できる利点がある。
2.3 セールス×マーケティング×CSの三位一体化
さらに近年では、**カスタマーサクセス(CS)**の機能を加えた三位一体の連携モデルも注目されている。サブスクリプション型ビジネスが増える中、契約後の顧客との継続関係(オンボーディング、利用促進、解約防止、アップセル)を担うCS部門が新たな“売上拡大の源泉”として位置付けられるようになった。具体的には、マーケティングが獲得した顧客の購買データや利用状況データをCSが活用し、早期アクションでエンゲージメントを高める。そのプロセスで新たなニーズが顕在化すれば、営業と連携してクロスセル提案を行う、といったフローである。こうしたモデルでは、マーケ・セールス・CSの各部門がバラバラに活動するのではなく、顧客ライフサイクル全体を通じた一貫した体験を提供することが理想とされる。
このように、従来の営業主導モデルから脱却し、マーケティングとの連携・さらにはCSも巻き込んだ三位一体化へと進化する企業が増えている。その背景には、デジタル時代の顧客行動変化に加え、継続収益モデルや高度なデータ活用といったトレンドがある。本書でも後述するように、この三位一体モデルを構築するには統合的な組織デザインやデマンドセンター(需要創出を司る司令塔組織)の整備が鍵となる。
2.4 まとめ
B2B企業におけるマーケティングと営業の関係性は、歴史的には営業が主役でマーケティングが補佐に回る構図が一般的だった。しかし顧客購買行動のデジタル化によって、マーケティングが上流段階でリードを獲得し、営業との緊密な連携によって商談化・受注へつなげる仕組みが重要視されるようになっている。さらにカスタマーサクセスも含めた一気通貫の顧客管理モデルが台頭しており、企業全体としては「営業 vs マーケ」という対立ではなく「営業 + マーケ + CS」という協働が求められる時代となった。この関係性を理解したうえで、次項ではそれを具現化する代表的なフレームワークについて紹介する。
3. 主要なフレームワークの比較
3.1 「THE MODEL」の概念
3.1.1 THE MODELとは
B2BマーケティングやInside Salesの文脈で著名なフレームワークが**「THE MODEL」である。これは、米国SaaS企業が実践してきた組織間連携モデルやプロセスを体系化したもの。「THE MODEL」は大きく「マーケティング → インサイドセールス → フィールドセールス → カスタマーサクセス」**という流れを一連のプロセスとして捉え、それぞれの役割と連携ポイントを明確化する。
マーケティング: 潜在顧客からのリード獲得(リードジェネレーション)およびリードナーチャリングの設計・運用
インサイドセールス: マーケティングが獲得・育成したリードのうち、購買意欲が高いものを見極めて商談化(フィールドセールスへの引き渡し)を促進
フィールドセールス: 対面またはオンライン商談で具体的提案を行い、受注獲得を目指す
カスタマーサクセス: 受注後の顧客オンボーディングや利用促進、アップセル・クロスセルの支援を行い、解約防止とLTV最大化を図る
3.1.2 THE MODELの狙い
THE MODELが提唱された背景には、従来の営業中心主義では取りこぼしていた潜在顧客をデジタルマーケティングで拾い上げ、インサイドセールスによる継続的なフォローアップで商談化率を高める狙いがある。さらに、受注後もカスタマーサクセスで継続的に顧客満足度を高め、解約や競合への乗り換えを最小化する。これにより、企業が持つリソースを最適な形で配置し、需要創出から収益拡大までの全工程を統合管理する考え方が、THE MODELの中核である。
3.1.3 日本企業への導入上の留意点
日本企業がTHE MODELを導入する際に注意すべき点として、組織カルチャーや人材配置が挙げられる。上述のマーケ・インサイドセールス・フィールドセールス・CSが明確に機能分担している企業はまだ少なく、従来の営業部門がほぼすべてを担っているケースも多い。そのためTHE MODELを導入する際には、担当者の配置転換や新部署の設立、評価制度の見直しなど、根本的な組織改革が必要となる。これが成功すれば、顧客エンゲージメントを全社横断で高める強力な仕組みを得られるが、十分な経営のコミットメントがないと形骸化するリスクがある。
3.2 インバウンド×アウトバウンド
B2Bマーケティングを語るうえで欠かせない概念が**インバウンド(Inbound)とアウトバウンド(Outbound)**である。近年は、デジタルマーケティングによるインバウンドの重要性が高まり、インバウンド中心とする企業が増えている。しかし一方で、テレアポや展示会参加などのアウトバウンド施策も依然として効果を発揮するシーンがある。以下のように、それぞれの特徴を把握したうえで、両者を組み合わせるハイブリッド戦略が求められる。
インバウンド(Inbound)
主にコンテンツマーケティングやSEO、SNS発信、ホワイトペーパー、ウェビナーなどによって見込み顧客が自主的に問い合わせや資料請求を行うよう導く方法
企業からのプッシュではなく顧客のプルを引き起こすため、自発的な検討度の高いリードが集まる傾向
長期的な取り組みが必要だが、一度仕組みが回り始めるとコスト効率が高く持続的にリードを生む
アウトバウンド(Outbound)
テレマーケティング、飛び込み営業、DM、展示会ブース、リスティング広告、SNS広告など、企業側から見込み顧客にアプローチする方法
ターゲットをある程度制御できるため、確度の高い層に集中して営業をかけられる利点がある
ただし拒否感を持たれやすく、リードの質や商談化率がインバウンドに比べて下がりやすい場合もある
ABMの手法を使って特定企業に狙い撃ちをするケースや、展示会・セミナーで直接名刺交換するケースなどは今も高い効果が期待される
インバウンドとアウトバウンドは対立関係ではなく、補完的に活用するのが現実的である。自社の商材や顧客層に応じてバランスを調整し、適切なチャネルを組み合わせる戦略が重要だ。
3.3 ファネルやカスタマージャーニーの考え方
3.3.1 マーケティングファネル
B2Bマーケティングでは、潜在顧客が購買プロセスを進むにつれて段階的に母数が絞られていく「ファネル(Funnel)」モデルがよく用いられる。一般的には**認知(Awareness)→興味・関心(Interest)→比較検討(Consideration)→購買(Purchase)というステップであり、B2Bではさらに商談化などの細かいステージを追加して定義する場合もある。ファネルモデルは、各ステージの転換率(Conversion Rate)**を把握し、ボトルネックとなっているステージを特定・改善するための指標として機能する。
3.3.2 カスタマージャーニー
ファネルと似た概念にカスタマージャーニー(Customer Journey)がある。カスタマージャーニーは顧客が認知してから購入・利用に至るまでの全接点(タッチポイント)をマッピングし、それぞれの接点で顧客がどんな行動や感情を持つのかを可視化するフレームワークである。B2Bでは「ウェブ検索 → ホワイトペーパーDL → ウェビナー参加 → インサイドセールスからのフォローコール → デモ依頼 → 経営層へのプレゼン → 発注決定」といった具体的なステップを洗い出す。ここで顧客視点の課題やニーズがどこで発生し、どのように解消されるかを一連の流れとして把握することで、必要なコンテンツやアクションを計画的に配置できるようになる。
3.3.3 ファネルとジャーニーの使い分け
ファネルは企業側視点で「リード数 → MQL数 → SQL数 → 受注数」という数値管理に適しており、ボトルネック分析やKPI計測に用いられる。一方、カスタマージャーニーマップは顧客体験の可視化に強く、提供すべきコンテンツや施策のアイデア創出に役立つ。両者は補完関係にあり、ファネル指標で定量的に管理しつつ、ジャーニー視点で定性的に施策を検討することが望ましい。
3.4 まとめ
ここまでTHE MODEL、インバウンド×アウトバウンド、ファネル・カスタマージャーニーといった代表的なフレームワークや考え方を紹介してきた。これらを上手く組み合わせることで、企業は需要創出(デマンドジェネレーション)から商談化、受注、アフターサポートまでの一貫した仕組みを構築できるようになる。各フレームワークの特性やメリット・デメリットを理解し、自社のビジネスモデルや組織状況に合わせて適切に応用することが重要だ。
4. 用語解説(入門編)
最後に、本章の締めくくりとして、B2Bマーケティングで頻出する主要キーワードを簡単に整理しておく。読者の多くは既に馴染みがあるかもしれないが、あらためて定義を確認することで、以降の章での理解を深めていただきたい。
4.1 リードジェネレーション(Lead Generation)
リードとは見込み顧客を指し、リードジェネレーションは「新規見込み顧客を獲得すること」を意味する。B2Bの場合、展示会、セミナー、ウェブフォーム登録、資料DL、広告反応など様々なチャネルがリード獲得源となる。リードジェネレーション施策の成果は「リード獲得数」や「CPA(Cost per Acquisition)」などで評価される。
4.2 リードナーチャリング(Lead Nurturing)
リードナーチャリングは「獲得した見込み顧客を育成し、購買意欲の高い顧客へと導く活動」を指す。具体的にはMAツールやメールマーケティング、ウェビナー、ホワイトペーパー配布などを通じて、顧客の関心領域に合致した情報を継続的に提供する。購買検討の段階を徐々に引き上げるための施策であり、購買意欲が成熟したタイミングで営業に引き継ぐことで商談化率を高める。
4.3 MQL/SQL
MQL(Marketing Qualified Lead): マーケティング活動を通じて見込み顧客がある程度の興味関心を示し、購買候補として有望と判断される段階。営業トスアップ対象。
SQL(Sales Qualified Lead): 営業がアプローチした結果、実際に商談やプレゼン検討が進んだ段階。さらに購買の具体度が増している。
両者の定義は企業によって異なるが、MQL→SQL→受注という流れは多くのB2B企業で採用される指標。
4.4 SDR(Sales Development Representative)
SDRはインサイドセールスとして、MQLに対して電話やメールで接触し、商談機会(SQL)へ育てる役割を担う。SDRチームを設けることで、営業(フィールドセールス)が高度な商談やクロージングに注力でき、組織的に効率を高める。海外SaaS企業で発展し、日本でも近年普及が進んでいる。
4.5 ABM(Account Based Marketing)
**ABM(Account Based Marketing)**は、特定の重要顧客企業(アカウント)を選定し、個別最適化した施策で深耕するマーケティング戦略。大量のリード獲得を狙うマスマーケティングとは対極に位置し、高単価かつ長期取引が期待できるアカウントへピンポイントでリソースを集中させる。インサイドセールスや営業と一体となった組織横断の取り組みが必要とされる。
まとめ
本章では、まずB2Cと比較した際のB2Bマーケティング固有の特性を整理し、購買プロセスの多層性や高額・長期検討といった要素が、マーケティング戦略にどのような影響を与えるかを解説した。続いて、従来型の営業主導モデルがデジタル時代の顧客行動変化に適応するために、マーケティングと営業、さらにはカスタマーサクセスの連携モデルへと進化する背景を示した。さらに、主要なフレームワークとしてTHE MODELやインバウンド×アウトバウンド、ファネルやカスタマージャーニーの考え方を説明し、最後に基本的な用語を定義した。
これらの概念は以降の章で扱う戦略立案(第2章)、ブランディング(第3章)、デジタル施策(第4章)、インサイドセールス(第5章)、ABM(第6章)、MA導入(第7章)といったより具体的な内容を理解する土台となる。B2Bマーケティングにおいては、プロセス設計や組織体制、顧客コミュニケーションのすべてが複雑に絡み合う。だからこそ、各フレームワークの基本を押さえつつ、自社の置かれた状況に合わせて柔軟に応用することが求められる。
次章以降では、まず市場分析と戦略設計(第2章)、続いてブランディングや第一想起の獲得(第3章)へと進み、より具体的な実務スキルを深掘りしていく。B2Bマーケティングの基礎をより実践的な形で身に付けるため、引き続き本書を活用いただきたい。
第2章 市場分析と戦略設計
ターゲットセグメンテーションとペルソナ設計
業種別・役職別ペルソナ設定の手順
プロダクト/サービスのポジショニング
差別化要素の明確化と訴求軸の整理
競合・市場環境分析
キャズム理論応用:アーリーアダプターからメインストリームへの橋渡し
主要マーケティングフレームワークの活用
3C分析・SWOT分析・4P分析・4C分析の概要と使いどころ
KPI・KGIの設定方法
マーケ施策と営業成果を結びつける指標設計
LTV(ライフタイムバリュー)・CAC(顧客獲得コスト) 等
本章では、B2Bマーケティングの要となる「市場分析」と「戦略設計」について解説する。いくら優れた製品・サービスを持っていても、ターゲット顧客を正しく絞り込み、彼らのニーズに合ったポジショニングを行わなければ、効果的に市場を攻略できない。そこで本章では以下の流れで、戦略策定に欠かせないステップを順を追って整理する。
ターゲットセグメンテーションとペルソナ設計
業種別・役職別ペルソナ設定の手順
セグメンテーションの具体的な基準
プロダクト/サービスのポジショニング
差別化要素の明確化と訴求軸の整理
価値提案の一貫性を高めるポイント
競合・市場環境分析
キャズム理論応用:アーリーアダプターからメインストリームへの橋渡し
市場ステージと競合状況の把握
主要マーケティングフレームワークの活用
3C分析・SWOT分析・4P分析・4C分析の概要と使いどころ
フレームワーク相互の関連性・使い分け
KPI・KGIの設定方法
マーケ施策と営業成果を結びつける指標設計
LTV(ライフタイムバリュー)・CAC(顧客獲得コスト)などの活用
これらのステップを踏むことで、企業が狙うべき市場やターゲット層、提供すべき価値が明確になり、後続のマーケティング・営業施策の軸が定まる。本章は「ビジネスの目的達成に直結する戦略設計」を重視し、具体的なフレームワークの使い方や分析のポイントを掘り下げる構成としている。
1. ターゲットセグメンテーションとペルソナ設計
1.1 セグメンテーションの重要性
B2Bにおいて最初に考えるべきは「どの市場・どの顧客層を狙うのか」というターゲティングである。B2Cと異なり、B2Bは商材が高額かつ複雑であり、全企業に等しく訴求できるわけではない。むしろ、特定の業種や規模、用途などを絞り込むことで、自社の優位性を最大限に活かしやすくなる。ここで重要なのがセグメンテーション(市場細分化)であり、一般的には以下の軸で市場を分割して分析することが多い。
業種・業界
製造業、IT・通信、金融、サービス業、建設、不動産、医療 など
企業規模
大企業、中堅企業、中小企業、スタートアップ など
事業形態・ビジネスモデル
B2B/B2Cの別、サブスク型か単発売り切り型か など
導入目的・用途
コスト削減(効率化)、売上拡大(新規事業支援)、品質向上、リスク管理 など
企業カルチャー・デジタル成熟度
DX推進企業、保守的企業 など
多くの場合、複数の切り口を掛け合わせて自社が「勝ち筋」を持ちやすいセグメントを抽出する。例えば「製造業×中堅企業×生産管理の効率化を目指す企業」や「IT業界×中小企業×サブスク型ビジネスで急成長中」など、詳細にセグメントを定義すればするほど、後のマーケティング施策や営業アプローチにおけるメッセージをカスタマイズしやすくなる。
ポイント
セグメンテーションは細かくしすぎると市場規模が小さくなりすぎるが、大まかすぎると差別化が困難になる。
事業計画やリソースに照らし合わせ、適切な規模感のセグメントを選ぶ。
市場データ(統計、業界レポートなど)を活用し、選んだセグメントが実際に成長可能性や収益性を持つかを検証する。
1.2 ペルソナ設計の基本
セグメントを定義したら、そのセグメント内の「典型的な顧客像」を具体的に描くためにペルソナ設計を行う。ペルソナ(Persona)とは、ターゲット顧客を代表する「架空の具体的人物像」であり、名前や役職、年齢、職務内容、抱えている課題・KPI、情報収集方法などを詳細に設定する。B2Bの場合は、以下のような切り口で情報を整理するとよい。
企業属性と個人属性の両面
企業規模、所属部門、役職、決裁権の有無
年齢、キャリア背景、仕事上の目標、評価指標
業務で直面している課題・痛み(ペインポイント)
例えば「受注管理に時間がかかりすぎる」「顧客満足度が低下傾向」など
情報収集チャネル・購買プロセス
オンライン検索をするか、業界団体セミナーに参加するか、導入の最終決裁者は誰か など
導入検討時の懸念事項・失敗リスク
コスト、上司の承認、運用負荷、導入後のサポート など
心理的背景・モチベーション
仕事で達成したい目標、評価されたい指標、会社の指示で仕方なく導入検討しているか、本人のキャリアアップのために積極的か など
B2Bでは1社内に複数の意思決定者・関与者がいるため、複数のペルソナを設定することが多い。例えば「経営層ペルソナ」「現場担当者ペルソナ」「情報システム部門ペルソナ」「財務部門ペルソナ」といった形で、各々がどのような価値基準やニーズを持っているかを洗い出す。こうすることで、提案資料やウェブコンテンツ、営業トークなどをカスタマイズしやすくなる。
ポイント
ペルソナ設計は表面的なプロフィール作りで終わらせず、**「この人が最も困っていること」「どんな情報なら興味を引くのか」**など具体的な行動・感情をイメージできるレベルまで落とし込む。
ペルソナを作る際は実在顧客へのインタビューやアンケート結果を参考にするとリアリティが増す。
経験則や社内の営業担当の声も活用し、複数視点で検証することが重要。
1.3 業種別・役職別ペルソナ設定の手順
実際にペルソナ設計を進める際の手順例を示す。
主要セグメントの決定
既存顧客の売上上位や新たに参入したい市場など、最も優先度が高いセグメントを選定する。
顧客インタビュー・調査
そのセグメント内の既存顧客や見込み顧客に対し、課題や購買プロセスをヒアリングしたり、展示会・ウェビナーの参加者へのアンケートを行ったりする。
共通点の抽出
収集したデータから「よくある課題」「よくある導入理由」を整理し、ペルソナの核となる要素を抽出する。
ペルソナプロファイルの作成
「経営層Aさん(50代、ビジネス革新に積極的)」「人事部長Bさん(40代、社員満足度向上をKPIとする)」など具体的な名前・背景設定を付与し、1ページまたは2ページにまとめたペルソナシートを作成する。
チーム内共有・フィードバック
マーケティング、営業、CSなど関連部署でペルソナを共有し、追加の知見や修正案を反映する。
施策設計への反映
ウェブコンテンツやメール施策、営業資料など、どのペルソナに対してどの切り口で価値を訴求するかを具体的に検討する。
複数ペルソナを作成すると、それぞれに適したコンテンツやコミュニケーション手法が見えてくる。例えば「現場担当者ペルソナ」には実用的な操作マニュアルや短時間で理解できる動画コンテンツを、「経営層ペルソナ」にはROIを示す資料や戦略的メリットにフォーカスしたエグゼクティブサマリーを提供する、といった具合である。これにより顧客企業内の複数ステークホルダーを効果的に説得できる環境が整う。
2. プロダクト/サービスのポジショニング
2.1 ポジショニングとは
「ポジショニング」とは、自社の製品・サービスが顧客の心の中で「どのように位置づけられるか」を戦略的に定めることを指す。端的に言えば、競合他社と比べて何が違い、どのような価値を提供するのかを明確化し、顧客が想起しやすく理解しやすい形で伝える行為である。B2Bにおいては、技術的な差異、導入後のサポート体制、ROIの高さ、業務知識の深さなど、さまざまな切り口で差別化要素が生まれる。
ポジショニングを明確にするメリットは以下の通り。
競合との差別化
多くの類似製品・サービスが乱立する中で、顧客が「なぜ貴社を選ぶのか」の理由を明快に説明できる。
ターゲット顧客とのコミュニケーション効率アップ
明確な価値訴求軸があれば、コンテンツ制作や営業トークが一貫性をもって展開できる。
ブランド形成への基盤
「こういう製品ならあの会社」という想起を促進し、市場でのブランド認知を育む。
一方でポジショニングが曖昧だと、「何でもできます」「どんな企業にも合います」という訴求になりがちで、結局はどこにも響かないという事態に陥る。特にB2Bの複雑な商材ほど、**「何ができるか」ではなく「顧客にとってどんな価値をもたらすか」**を絞り込んで伝える必要がある。
2.2 差別化要素の明確化
具体的にどのような観点で差別化要素を見出すか、以下にいくつかの例を挙げる。
機能・技術的優位性
他社にない特許技術、高い性能(処理速度・精度など)、独自のアルゴリズム など
サービス・サポート体制
導入支援コンサルティング、24時間365日の問い合わせ対応、専任担当によるオンボーディング支援 など
価格・コスト優位性
同等の機能をより安価に提供、定額使い放題プラン、利用実績ベース課金 など
導入実績・専門性
同業界での豊富な導入実績、法規制対応ノウハウ、専門特化したコンサルタントチーム など
ブランディング・企業信頼性
長年の歴史、上場企業であること、大手企業との提携、海外でも実績豊富 など
これらの要素を総合して、ターゲット顧客が感じる便益(Benefi)を核にポジショニングを設計する。その際、**「誰にとって(対象顧客)」「何を提供し(主たる価値)」「どのように優れているのか(差別化要素)」**を明文化すると整理が進めやすい。
2.3 訴求軸の整理:バリュープロポジション
ポジショニングをさらに分かりやすくするために、バリュープロポジション(Value Proposition)のフレームワークを活用する方法がある。これは「顧客は何を求めているか」「自社はどんな価値を提供できるか」「それをどのように独自に実現しているか」を一つの文章で表す手法だ。
例えば典型的な形としては以下のようになる。
「我々は、(特定の顧客セグメント)が抱える(主要な課題)を解決するために、(具体的なソリューション)を提供します。他社にはない(差別化要素)によって、顧客は(明確な便益)を得ることができます。」
この文章をさらに短縮・要約して、“誰に何をどのように”を明確に定義する。B2Bの場合は「技術面の優位性」「業務ノウハウ」「導入サポート」などが差別化になりやすいが、これもターゲットの課題や特性次第で変わってくる。重要なのは顧客が真に価値を感じる要素にフォーカスし、余計な情報や自己満足的なスペック列挙を排除することである。
2.4 ポジショニングマップ(2軸・4象限)の活用
ポジショニングを検討する上で、しばしば「ポジショニングマップ」と呼ばれる2軸・4象限の図が用いられる。横軸・縦軸に自社が差別化可能な要素を設定し(例:価格×技術レベル、導入サポート充実度×製品汎用性など)、市場内に存在する競合他社や代替手段をプロットして比較する手法だ。
例:価格(高い/安い)×サービスサポート(充実/最低限)で4象限を作成
左下:安い×最低限サポート
「低価格重視だが、導入後の手厚い支援はない」というポジション
右下:安い×充実サポート
「低価格ながら、導入支援やカスタマーサクセスが充実」
左上:高い×最低限サポート
「高価格にも関わらずサポートは少ない(競合環境では不利になりやすい)」
右上:高い×充実サポート
「プレミアム価格帯で手厚いサポートを提供するハイエンド路線」
このマップによって、どの象限に自社や競合が位置し、自分たちがどこを目指すのかが一目でわかる。もしある象限に競合が密集しているなら、そこはレッドオーシャン化している可能性が高い。逆に空白地帯を狙えそうなら、そこにチャンスがあるかもしれない。こうした視覚化を通じて、市場での自社の立ち位置をクリアに把握し、差別化戦略を具体化できる。
3. 競合・市場環境分析
3.1 キャズム理論とB2Bマーケティング
B2B企業が市場に新しい製品・サービスを投入する際、特に技術革新型の商材では**「キャズム(Chasm)」**理論がよく取り上げられる。キャズムとはジェフリー・ムーアが提唱した概念で、技術革新における採用者モデルを以下のように区分する。
イノベーター(Innovators): 新しいもの好きな先駆者層
アーリーアダプター(Early Adopters): 流行の先頭に立ち、積極的に新技術を活用する層
アーリーマジョリティ(Early Majority): 一定の実績が確認されてから取り入れる慎重派
レイトマジョリティ(Late Majority): 市場で確固たる標準や安全性が確認されてから導入する層
ラガード(Laggards): 新しい技術導入には消極的で、最後まで変化を嫌う層
このモデルにおいてアーリーアダプターからアーリーマジョリティへ移行する際に超えなければならない深い溝がキャズムと呼ばれる。多くの新興企業や新技術はアーリーアダプターの小規模成功で止まり、大衆市場(マジョリティ)に広がらず終わってしまう。これを回避するには、アーリーマジョリティが求める安心感や実績・事例を提示するなど、次の層に響くアプローチが欠かせない。
B2Bでも同様で、新技術・新製品に飛びつく企業は全体のごく一部であり、大半は**「慎重に導入を検討する層」**である。そこでキャズムを超えるために、以下のような施策が有効とされる。
有力企業やリーダー企業の導入事例を作り、広く公開・宣伝する。
導入ノウハウや成功パターンを確立し、いかにリスクを低減できるかを示す。
業界標準や規格への対応、外部専門家によるお墨付き(認定、アワード受賞)を得る。
導入後のサポート体制を強化し「失敗が少ない」「業務にすぐ馴染む」ことを訴求する。
3.2 市場ステージの見極め
キャズム理論を踏まえると、同じ市場でも製品・サービスのライフサイクルステージに応じた戦略が異なる。たとえば新しい技術領域(DX関連やAI関連など)では、アーリーアダプターを狙ったパイロット導入やケーススタディが重要となる。一方、既に成熟して競合が多い領域では、差別化要素を明確に打ち出しながら、保守的な企業にも導入しやすい信頼感や、コスト優位性などを訴求する必要がある。
また、自社が参入する市場が「成長期」にあるのか「成熟期」にあるのかを見極めることも大切だ。成長期であれば市場拡大の勢いに乗ってシェアを取りに行く戦略が有効だが、成熟期で需要が横ばいまたは縮小しているなら、他社との価格競争に陥るリスクがある。こうした市場のライフサイクル評価により、短期的な利益確保か長期的な投資かを判断する際の指針となる。
3.3 競合分析の視点:直接・間接競合
B2Bの競合分析では、単に「同じ業種の同じカテゴリ製品を作っている会社」だけがライバルとは限らない。顧客の課題を別の手段で解決している**「間接競合」**も視野に入れる必要がある。例えば以下のようなケースが該当する。
ERP導入 vs. Excel管理 + 人海戦術
企業システム導入の競合相手は、必ずしも同業他社のERPベンダーだけではなく「今のままExcelで回す」「アウトソーシングする」などの選択肢がある。
自社開発 vs. 外部ソリューション
企業がシステムを内製化してしまうパターンも考慮する必要がある。
複数システムを組み合わせる vs. オールインワンパッケージ
他社の組み合わせソリューションやAPI連携で同様の問題が解決できる場合もある。
このように、顧客が抱える課題をどんな方法で解決しようとしているかを幅広く見渡すと、想定外のプレイヤーやソリューションが浮かび上がることが多い。これらも含めた**「課題解決の選択肢」**として、自社がどこに優位性を持ち得るかを考察することが競合分析の要点となる。
3.4 まとめ:競合・市場環境分析の手順
以下は市場環境を分析する際の一連の流れの例である。
市場概要の把握
市場規模、成長率、主要なプレイヤー、技術トレンドなどをリサーチする。
顧客の採用ステージ確認(キャズム理論等)
ターゲット市場がイノベーターやアーリーアダプター中心なのか、既にマジョリティに広がっているのかを見極める。
直接競合の洗い出し
同一カテゴリの主要ベンダーや製品の機能比較、価格帯、導入実績などを調査する。
間接競合・代替手段の考慮
同じ顧客課題を別のアプローチで解決する手段(内製、代替技術、アウトソーシング等)を検討し、優位性・不利性を評価する。
市場ライフサイクルや競合状況に合わせた戦略立案
成長市場なら先行者メリットを狙う、成熟市場なら差別化とコスト構造の最適化を図る、など。
こうした分析を踏まえて、自社が狙うべき顧客層や訴求ポイントを具体化し、次項で扱うフレームワークを活用して戦略全体を整理していく。
4. 主要マーケティングフレームワークの活用
市場分析や競合調査を踏まえた上で戦略を体系立てる際、クラシックなマーケティングフレームワークが非常に有用である。本節では3C分析・SWOT分析・4P分析・4C分析を中心に、それぞれの概要と使いどころを解説し、相互の関連性を示す。
4.1 3C分析
3C分析は、マーケティング戦略立案の基本フレームワークとして広く知られる。**Customer(顧客)・Company(自社)・Competitor(競合)**の3つの視点から市場を俯瞰し、成功要因を導き出す手法である。
Customer(顧客)
ターゲット顧客は誰か? 彼らはどんな課題を抱え、どんな価値を求めるか?
Company(自社)
自社の強み・弱みは何か? 経営資源・組織能力・技術優位性などを把握する。
Competitor(競合)
競合他社はどのような強みを持ち、どんな戦略をとっているか? 価格帯・製品特徴・顧客層などを分析する。
3C分析は、まず市場全体を俯瞰しながら「顧客が求める価値と自社が提供できる価値の合致」「競合との差別化ポイント」を明確化する目的で使われる。B2Bであれば「どの業種・規模の顧客が、どのような課題に直面しており、自社がそこへどんな強みを持っているか」を見極め、さらに「競合がすでに強い市場なのか、手薄な市場なのか」を整理する作業が重要となる。
4.2 SWOT分析
SWOT分析は、**Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)**の4象限で現状を把握し、戦略の方向性を検討するフレームワークである。一般的な手順としては以下の通り。
内部環境(S, W)
自社の強み・弱み(技術、ブランド、リソース、組織能力など)
外部環境(O, T)
市場の成長率、法規制、経済動向、競合状況、顧客ニーズの変化など
SWOT分析では、それぞれの要素を以下のように掛け合わせて戦略アイデアを出す。
SO戦略: 自社の強みを活かし、市場の機会を積極的に取り込む。
WO戦略: 自社の弱みを克服または補強して、市場の機会に対応する。
ST戦略: 自社の強みを活かし、市場の脅威を回避または最小化する。
WT戦略: 弱みと脅威の両方に対して、防御的・撤退戦略も検討する。
例えば「自社が特定業種向けのカスタマイズノウハウに強み(S)を持つが、開発リソースが不足している(W)。一方でDX化ニーズが高まる(O)反面、大手競合が参入準備を進めている(T)」というような状況で、どう戦うかを具体的な施策に落とし込むのがポイントである。
4.3 4P分析
4P分析は、**Product(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(プロモーション)**の4要素でマーケティング施策を設計する伝統的な手法だ。B2Bにおいても、それぞれを以下のように考えると整理しやすい。
Product(製品・サービス)
提供する機能・性能、付随サービス、カスタマイズ性、サポート内容 など
Price(価格)
課金形態(買い切り、サブスク、従量課金)、割引や初期費用の扱い、競合比較 など
Place(流通・チャネル)
直接販売、代理店販売、オンライン販売、営業チーム体制 など
Promotion(プロモーション)
広告宣伝、展示会、ウェビナー、コンテンツマーケ、インサイドセールス など
B2Bマーケティングでは「Place(流通)」と「Promotion(プロモーション)」がしばしば混同されがちだが、前者は主に顧客への提供ルート(直販か代理店経由か、オンライン直販か、など)、後者は販促施策(広告やセミナーなど)に焦点を当てている点が異なる。4P分析によって、自社のプロダクトが「どの価格帯で、どのチャネルを通じて、どのように訴求されるか」を総合的にデザインできる。
4.4 4C分析
4P分析を顧客視点に変換したものが4C分析である。4Cは**Customer Value(顧客価値)、Cost(顧客が負担するコスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)**を示し、特にB2Bでは「顧客にとって本質的な価値は何か」「導入コストだけでなく運用コストやリスクはどうか」「調達の利便性やサポート体制はどうか」「顧客との継続的な対話・関係構築はどう進めるか」といった観点で検討することが重要となる。
例えば4Pで「自社製品の価格は月額10万円(Price)」「販売チャネルは代理店(Place)」と定義しても、4Cの視点では「顧客が10万円を高いと感じるか安いと感じるか(Cost)」「導入から運用に至るまでサポートが手厚くて安心できるか(Convenience)」「導入後に担当者とチャットや電話ですぐ相談できるのか(Communication)」など、より顧客視点に近い切り口で問題提起ができる。B2Bの長期的関係構築では、とりわけCommunicationの要素が大きな差別化ポイントとなる。
4.5 フレームワーク相互の関連性
ここで紹介した4つのフレームワーク(3C、SWOT、4P、4C)は、それぞれ異なる視点からマーケティング戦略を整理するツールであり、互いに補完関係にある。一般的には、3C分析やSWOTでマクロかつ包括的に状況を把握した上で、4Pや4Cで施策レベルを具体化するという流れが多い。
3Cで顧客・自社・競合を俯瞰し、差別化ポイントや機会を発見
SWOTで内部・外部環境を掛け合わせ、戦略オプションを検討
4Pまたは4Cで、製品・価格・流通・コミュニケーションを詳細設計
それぞれのフレームワークを使いこなすには、机上の空論で終わらず、実際の数値データや顧客インタビューなどの定性情報を組み合わせて分析することが必須である。
5. KPI・KGIの設定方法
5.1 マーケ施策と営業成果を結びつける指標設計
市場分析や戦略設計を行った後、具体的なマーケティング施策を動かす段階で重要となるのが**KPI(Key Performance Indicator)とKGI(Key Goal Indicator)**の設定である。KGIは最終的に達成すべきゴールを示し、KPIはそのゴールに至る道筋を測る中間指標として機能する。
B2Bマーケティングにおいては、多くの場合**「売上(または受注金額)」がKGI**となりうる。ただし、マーケティング単独では売上を直接コントロールしにくいので、営業・インサイドセールス・カスタマーサクセスなど各部門で一貫した指標を分解して管理することが欠かせない。典型的な指標例は以下の通り。
リード数(マーケ施策の上流成果)
MQL数(マーケ施策から営業移管対象へ至る見込み顧客の数)
SQL数(インサイドセールスや営業が商談化できた件数)
商談成功率(SQLから受注に至る割合)
平均契約金額
売上総額(または受注総額)
この一連の指標を「マーケティングファネル」や「営業ファネル」で可視化し、各ステージごとに**目標数値(KPI)**を設定する。例えば「月間リード獲得数を1,000件」「MQL転換率を10%」「SQL転換率を30%」などであれば、受注件数の最終目標につながるシミュレーションを立てやすい。
**SLA(Service Level Agreement)**という考え方を導入して、マーケ部門・営業部門間で「一定品質・一定量のリードを月●件提供する」「営業はMQLを受け取ってから●日以内にフォローし、SQL化率●%を目指す」などの合意を結ぶ企業も増えている。これにより、部門間の目標が整合性を持ち、互いに責任を共有できる体制が作られる。
5.2 LTV(ライフタイムバリュー)・CAC(顧客獲得コスト)などの活用
サブスクリプション型ビジネスや長期契約型のB2Bでは、**LTV(Customer Lifetime Value)やCAC(Customer Acquisition Cost)**といった指標が特に重要視される。
LTV(ライフタイムバリュー)
顧客が自社と取引を続ける期間中に生み出す総利益を推定したもの。
例えば月額課金サービスであれば「一顧客当たりの月間利益 × 平均継続月数」で算出される。
B2Bの場合、追加購入やアップセル・クロスセル、契約更新率なども考慮に入れる。
CAC(顧客獲得コスト)
一件の新規顧客を獲得するためにかかるマーケティングや営業の費用(人件費、広告費、イベント費など)。
LTVと対比することで、投資回収に要する期間や収益性を評価できる。
「CAC回収期間」が短いほど、ビジネスモデルが健全とされる。
これらの指標を用いると、単に「月次の売上目標を達成したかどうか」ではなく、顧客1件あたりの獲得コストと生涯価値のバランスを戦略的に考えられるようになる。特にサブスクビジネスでは、初年度は赤字(CAC > 売上)でも、長期的なLTVが高ければ十分にペイするケースが多い。そのため、マーケティング投資をどの程度行うか、どのような施策にリソースを振り分けるかを判断する際には、LTVとCACの関係を精緻にモデリングすることが求められる。
5.3 指標設計の落とし穴と注意点
KPI/KGIを設定する際に起こりやすい失敗例をいくつか挙げる。
指標が多すぎて管理が煩雑になる
すべての数値を追いかけようとすると、かえって現場が混乱しアクションがブレる。最重要指標を3~5個に絞り込み、その他はサブ指標として補足的に見るなどの工夫が必要。
現場の実態とかけ離れた数値目標
経営陣がトップダウンで無理な目標を設定すると、現場は形だけの報告や「やったフリ」をするケースに陥りやすい。実行可能性とストレッチ性のバランスが大切。
定期的なモニタリング・改善サイクルの欠如
KPIを設定しても、四半期や月次でレビューされなければ意味がない。データをダッシュボード化し、定期ミーティングで分析し、迅速に施策を修正する体制が不可欠。
部門間で目標が不整合
マーケ部門は「リード数」を重視、営業部門は「受注金額のみ」を重視というように評価基準がズレていると、両者が協力し合えない。SLAや組織横断KPIの設計が必要。
5.4 マーケティングROIの可視化
B2Bマーケティングでは、展示会・広告・ウェビナー・コンテンツ制作などさまざまな施策に投資する。これらの費用対効果を測り、最適な配分を判断するための指標がマーケティングROI(Return on Investment)である。定義の仕方はいくつかあるが、シンプルには**「施策に投じたコストと、それによって獲得できた利益の比率」**として表す。
ROI = (売上 - 原価) / 投資コスト × 100(%)
ただしB2Bの場合は、施策実施から受注までに時間差があるため、厳密にはアトリビューション分析(どの施策がどの程度商談・受注に貢献したかを数値化)を行う必要がある。例えばインバウンド経由で獲得したリードが1ヶ月後にウェビナーに参加し、さらに2ヶ月後に商談して3ヶ月後に受注した、というようにマルチタッチポイントが存在するため、単純に最後の施策だけに功績を帰すのは不正確である。
このあたりの分析を正確に行うには、MAツールやCRMを使って各リードの接触履歴や商談履歴をトラッキングし、施策ごとの貢献度を評価する仕組みが求められる。本書の後半でも取り上げるが、デジタルマーケティングとツール連携が進んだ企業ほど、マーケティングROIを精緻に測定し、投資配分を柔軟に最適化できるようになっている。
まとめ
本章では、B2Bマーケティングの戦略設計における重要ステップを体系的に示してきた。まずはターゲットセグメンテーションとペルソナ設計によって「誰に」「どんな価値を」「どのように提供するのか」を明確にし、それに基づいてプロダクト・サービスのポジショニングを定める。さらに、競合・市場環境分析ではキャズム理論や市場ライフサイクル、間接競合などの観点を考慮し、自社が勝てる領域や採るべき戦略を探る。その上で、3C・SWOT・4P・4Cといったフレームワークを活用して分析結果を整理し、具現化する。最後に、実行段階ではKPI・KGIを設定し、LTVやCACなどの指標も踏まえながら、マーケ施策と営業成果を結びつけてPDCAを回す体制を整える必要がある。
B2Bでは商談発生から受注、さらには契約継続に至るまでの時間が長く、関係者も多い。だからこそ、市場と自社の強み・差別化を的確に見極め、適切な顧客層を狙って施策を展開することが成果創出のカギとなる。本章で解説した分析・設計プロセスは、どの業種・業界のB2Bビジネスにおいても通用するベースとなる考え方だ。ただし机上のフレームワークや数値分析だけでは不十分で、実際に顧客との対話やテストマーケティングを通じた検証を並行して行うことも忘れてはならない。
次章(第3章)では、こうした市場戦略の土台をさらに強固なものにするためのブランディングや第一想起・想起集団の獲得戦略について掘り下げる。B2Bでもブランドが果たす役割が年々増している中、どのようにして企業や製品の存在感を高め、ターゲットの“頭の片隅”に常に居続けるか。より上位の戦略テーマを取り扱うので、引き続き参照していただきたい。
第3章 ブランディングと第一想起・想起集団の獲得戦略
B2Bにおけるブランドの重要性
B2Cとの違いとB2Bブランドの価値
信頼構築と認知拡大の相乗効果
ブランド・エクイティと第一想起(Top of Mind Awareness)の関係
第一想起を狙う意義と競合優位
想起集団(Consideration Set)に入るための施策
ブランド戦略の設計プロセス
ブランドアイデンティティ確立
ブランドメッセージ・ストーリーテリングの構築
B2Bブランドの評価指標と測定方法
ブランドリフト調査、NPSなどの活用
デジタル×オフラインでのブランディング効果測定
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