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20241213アサヒビール社が輸入するビールを自主回収した件の解説 解説編

さて、前回の導入編(リンク)に続いて、解説編です。
どの添加物が法令に触れてしまったのか、です。
どの成文か公表されていない以上、詳細は神のみぞ知る、いや当該会社とその社員と当局のみぞ知る、なのですが、できる範囲で調べて推測してみましょう。

まずは、あらためてニュースリリースに触れておきます

>アサヒビール株式会社が輸入・販売する「グロールシュ プレミアム ラガー」で使用している原料(Rhoホップエキス)について「日本国内で使用が認められていない添加物」が使用されていることが明らかとなりました。
 この添加物は、原料(ホップエキス)および最終製品(ビール)に残っていませんが、食品衛生法上の解釈について管轄保健所に問い合わせたところ、「食品衛生法第12条違反(疑い)であり、自主回収が妥当と考えられる」との見解が示されましたので、下記対象商品を自主回収いたします。
(中略)
なお、Rhoホップエキスの使用は、アメリカ、ヨーロッパ等で認められており、海外ではRhoホップエキスを使用したビールは一般的に流通しております。また、これまで国内外を含め健康被害のお申し出はいただいておりません。

自主回収に関するお詫びとお知らせ

また、前回記事中(リンク)の重要な部分も引用しておきます。
>RHOホップとはホップの構造を変化させ、この日光臭につながる構造変化を起こしにくくしたホップエキスです。ホップ由来の成分のアルファ酸を化学反応でテトラヒドロイソα酸(THIAA)等に変換することで、光安定性が大幅に増しています(つまり光の作用で構造変化しにくい)

RHOホップには国内で使用を認められていない食品添加物が使用されている、ということですね。そしてそれはRHOホップ特有の造り方に由来しそうです。

①まずはRHOホップの製造元ホームページを見てみる


どの会社のものかわかりませんが、Hopsteiner社のHPを見ます
Rho Iso-Extract 30% - Hopsteiner

>Rho is a pure, aqueous solution of the potassium salts of rho-iso-alpha acids produced entirely from CO2-extract
(和訳)Rhoは、CO2抽出物から完全に生成されたrho-iso-α酸のカリウム塩の純粋な水溶液です

HP中に製法は書いてありません

HPにリンクのあるテクニカルプロダクトデータシートを見てみます
Rho Iso-Extract 30 %
製法に関する記載はありません(ちょっと期待した)

ついでに安全データシートを見てみます
Rho-Iso-Extract-30-Rho-Iso-Extract-35-V4.00-US-en_SDS.pdf
やはり製法に関する記述はありません。(そりゃSDSにはそこまで書いていないか)


ダメですね。そう簡単には見つかりませんでした。

実はHAAS社には名前が違うのですが、同じようなRHOhop製品があります。
REDIHOP® HOP EXTRACTといいます。こちらもHP上では有力な情報は見つかりませんでした。

②メーカーHPに無いのなら特許を見ればいいじゃない

技術系マリーアントワネットになってしまいましたが、そういうことです。
ということでRho hopに関する特許を検索します。

WO2002002497A1 - Rho-isoalpha acid hop products and methods - Google Patents

特許とは、先行する技術情報、その背景と課題、そしてそれをどのように乗り越えるのか、が書かれてあります。
英語で読めない!?大丈夫、ブラウザの翻訳で十分です。

The α-acids of this extract are then converted to r zo-iso-α-acids; for example, by a sequential process of isomerization of the α-acids, separation of the iso-α-acids from the β-acids and hop oils, followed by reduction of the iso-α-acids using the borohydride of an alkali metal, preferably sodium borohydride.

それらしい箇所を見つけました。どうやって見つけるかってそりゃ心の目です。(いろいろと化合物名は出てくるのですが、これは添加物と関係ないな、これは一般的に使うしな、とそんな感じです)

(和訳)
次に、この抽出物のα酸をr zo-iso-α-酸に変換します。例えば、α酸の異性化の逐次的なプロセスにより、β酸およびホップ油からのイソα酸の分離、続いてアルカリ金属の水素化ホウ素、好ましくは水素化ホウ素ナトリウムを用いてイソα酸の還元を行う。

「「「水酸化ホウ素、もしくは水酸化ホウ素ナトリウム」」」

これ怪しいですね。
(※注 あくまで推測ですので、これ以外の物質の可能性もあります)

詳細はここに書くと話がそれるので止めておきますが、RHO hopの製造では、このホップ由来成分を還元、する工程が重要です。還元することで将来的に紫外線により構造変化する部位を先に変化させておく、という感じです。


③おそろしく面倒くさい解釈、俺でなきゃ見逃しちゃうね(食品衛生法当該箇所のチェック)

さて、「水酸化ホウ素、もしくは水酸化ホウ素ナトリウム」は食品添加物として使用してよいのでしょうか?
これはリストから検索すれば一発でわかります。インドアフィッシュにやられた名もなき殺し屋の方でなくとも気づきます(ハンター×ハンター)

食品添加物 |厚生労働省

日本で使用が可能な添加物は、指定添加物、既存添加物、天然香料、一般飲食物添加物です。それぞれのリンクを見ますが水酸化ホウ素、もしくは水酸化ホウ素ナトリウムはありませんね。

ということで食品や食品原料に対して、水酸化ホウ素、もしくは水酸化ホウ素ナトリウムは食品や使用できない、となります。

④法解釈上の難しさはあったのか?

改めてアサヒ社のリリースを見るとこうあります。
>食品衛生法上の解釈について管轄保健所に問い合わせたところ、「食品衛生法第12条違反(疑い)であり、自主回収が妥当と考えられる」との見解が示されましたので

「解釈について」「疑い」

とありますね。どうもはっきり明確にNGというよりグレーな雰囲気も感じます。

それではもし水酸化ホウ素、もしくは水酸化ホウ素ナトリウムが原因だったとすると(※注 あくまで推測ですので、これ以外の物質の可能性もあります)、法令違反ではない可能性があるのか、について考察しようと思ったのですが、正直なところ私にはわかりませんでした。
法をその通り読むと、今回のアサヒ社の対応のように法令違反では?となるのですが、解釈の余地があるのか。勉強したいと思います。

※食品添加物には原料に含まれる添加物が商品では効果を及ぼさない場合は表示しなくてよい、というキャリーオーバーというルールがあるのですが、これはあくまで表示の話ですので、食品添加物として認められていない成分について適用されるものではない…はずです。

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今回の商品回収について、対象の物質を考察してみましたが、果たしてあっているのでしょうか。クラフトビールメーカーのなかにも使っている?もしくは使おうと思っていた会社もあるでしょうし、気になるところです。どこかで情報がオープンになるといいのですがね。

いったん解説はここで終わりますが、対象物質が私の予想通り水酸化ホウ素、もしくは水酸化ホウ素ナトリウムだというニュースがはいりましたら、追加の考察を出したいと思います。(そのようなニュースがなければお蔵入り予定です)
お蔵入りになりかもしれない考察は、これを未然に防ぐことはできなかったのか、どのような社内プロセスだったのだろうか、についてです。

それでは、お読みいただきありがとうございました。

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しん太/ビール醸造とエッセイ
お読みいただきありがとうございます。頂いたチップでビールを飲んで、執筆の励みにします^^