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母と息子 95『魅惑の魂』第3巻 第2部 第23回

承前

「あなたができないのなら、いったいだれが、できるってことなの?」
 意外なアネットの言葉に彼は、驚いてしまった。
「ふぅん、そうだね。俺たちの指揮官、そのあたりじゃないかい」
 これ以上は話しても無駄なことがアネットにも解ってきた。だがこの一言だけは、言わなければならなかった。
「あなたたちの指揮官が指導者でいられるのは、あなたたちがいるからなんです。あなたち自身が指揮官を指名することを、これからは考えてほしいものです…」
 だがその夜だった。アネットに、コルヴォがまた駄洒落を話しているのが聞こえていた。彼にとってはそれは、必要なことだった。彼が欺きたかったのは他人ではなかった。自分自身だった。
 彼は戦場でも真実が見えなかった、そして望むこともできなかった。それなら戦場を知らない少年たちに、真実を話して何を期待すると言えるだろうか?
 彼らはいまのほんとうの戦況すら知っていない。だから言葉の餌食になってしまう。言葉が派手であれば、意味を考えなくても興じることもできるのだろう。

つづく

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