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母と息子 166『魅惑の魂』第3巻 第2部 第94回

承前

 マルクはある夜に極端なことも思い浮かべていた。ああ! …彼は、彼女の顔全体に口づけしたい猛烈な欲求に駆られてしまった。それは彼の性的な欲求から生まれたものだった。だがその空想は、それを実際のものにすることなく時間が経ち彼の前を通り過ぎていった。彼の欲求は、そこでいったん途絶えた、自分を嘲笑するものは彼の芯まで突き刺さっていた。これは幻想なんかじゃない! 彼は彼女の視線の下で自分をまとも受け止めることができないことが腹立たしかった。憤慨した彼は笑った。だれかと一緒に笑い、その喜劇に興味を抱くことが、互いに理性を深める… それは、けっして直線的に進むものではない。だが送信あるからこそ人間の理性を深めるも野となる。すべての権利を利己的に主張すした者が、あるきっかけで自尊心を傷つけられ、失意のなかで彷徨うこともある… それこそが少年や少女が、青年に成長するための均衡を保つものなのだ。青年期の前に急速に成長しすぎた情熱は、彼ら自身が持っている自分を見つめる鏡に映し出される。そこに悲劇の影が観えることもあるだろう。けれども帽子のひだが熟練した職人から手直しされるように、多くの失意を体験した者はそこで得たものでその影を消すことさえできる。
 …余計なことだがこれに少しだけ付け加えておこう。ここまでに書いたことは、すべての人間に適応できるものではない。生き方も考え方も人それぞれであり、何が自分に合うのかを見つけるは自分でしかない。シルヴィは生来に手先が器用だった。彼女自身が早くからその活用に気づいたのは幸運ともいえる。だから多くがシルヴィを真似たとしても成功できる保証はない。 シルヴィの実力はパリの全体が認めていた… 国の保証はまったくなかったけれど…

つづく

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