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母と息子 143『魅惑の魂』第3巻 第2部 第71回
あの幼い娘の悲劇的な死に見舞われてからのシルヴィは、彼女の人生のもっとも深い危機の中に潜んでいた。その落ち込みそうな気持を紛らわしために、刺激と享楽を求めていた。そして今は、世界中が大きな戦争を始めてしまい、その刺激と享楽はさらに大きくなっていた。
その渇望に駆り立てられていたこの女は、今、ちょうど現実に引き戻されていた。しかし彼女には混乱はなかった。彼女にはこれから起こるすべて悲劇を、すでに予想していたようなところもあった。
彼女の夫のレオポルドはドイツで捕虜となり、その地の病院に収容されていた。そして今、彼女のもとにその死が伝られる寸前だった。だがシルヴィはそれを知る前にレオポルドからの手紙を受け取っていた。レオポルドはその死の直前に、シルヴィに手紙を書いたのだろう。それは次のようなものだった。
愛しい妻へ、許してほしい。
もしもこの手紙が君を傷つけるようなことがあれば、ほんとうに許してほしい。言いたくはないけれど、いまのぼくはとても具合が悪い。負傷してこの病院に入れられたけど、ドイツ人たちは、とてもよくぼくに尽くしてくれている。感謝こそしても文句なんか一切言えない。