『TECHNIUM』を読んで「IT系」とは何かを考える(14/50)
「IT系」を中心に企業を見ているという話をよく聞きます。「何をするにもITが関わってくる」だったり「これからも発展する分野がITであるから」だったりと、理由は多くありますが、特にどんな分野やプロダクトに興味があるのかと聞くと、明確な答えを持っていない方が多いように思います。確かに、ITという言葉が示すものが多すぎることもあり、ITとは何か、とあらためて考える機会も少ないように思います。そこで今回は、ITをどのように理解して、今後世界がどうなっていくかを解像する方法の1つを、Wired創刊編集長であるケビン・ケリー著『TECHNIUM~テクノロジーはどこへ向かうのか~』を参照しながら考察してみたいと思います。
まず、ITがよく分からないのはなぜなのか。これは、ITが発展した歴史に起因すると思っています。そもそもITとは、インフォメーション・テクノロジー(Information Technology=情報技術)の略称で、情報処理と情報通信をカバーする技術全般を指します。今はITと言えばウェブやインターネットの存在が前提にありますが、1960年代におけるITとは、紙に穴を開けることで高速の計算を可能にするパンチカードシステムでした。当時のITに情報通信という要素はあまりなく、むしろ情報処理や演算を効率的に行うという側面が強かったわけです。
ITに情報通信の要素が増してきたのは、インターネットの商業利用が活性化した1990年代以降です。インターネット技術により外部との通信基盤が整った後、Webというインターネット上の仮想現実世界が生み出され、その仮想現実世界を充実させる動きが盛り上がり始めました。
情報処理技術と情報通信技術は、互いにシナジー効果を持ちながら進歩してゆきます。より良い情報通信を行うためにより良い情報処理が必要になり、より良い情報処理ができるようになるに従って、より良い情報通信が行われるようになっていきました(例えば、高画質の動画をすぐに共有するには、一瞬で動画をダウンロードできるだけの処理能力を持ったソフトウェアが必要であり、高性能なソフトウェアが開発されると、クリエイターたちはより多くの動画を上げる、という流れなど)。
これら2つを起点としてITが進歩してゆく過程で、WebやAIなどの研究分野が流行し、それぞれの分野において企業群が生まれてはなくなりを繰り返しており、このサイクルの中の現時点における生き残りが、現存するIT企業群だというわけです。
本書『TECHNIUM』では、ITをテクノロジーの1カテゴリと位置づけ、宇宙誕生以来現在に至るまでのテクノロジーの発展の流れを見つめ直した上で、テクノロジーが今後どのように発展してゆくかについての仮説を述べています。
Windows1.0が発売されて以降、主要OSのプログラムにおける行数は増加の一途を辿っています。本書においては、1993年から2003年までの10年間でマイクロソフトが出荷したウィンドウズOSのプログラムの行数が10倍に増えたことが例示されていますが、プログラムを動作命令だと解釈した時、OSはこの40年間で加速度的に動作範囲、ないしは情報処理の範囲を広げていると解釈できます。
本書は、テクノロジーの進化において、この傾向が続くだろうと予測しています。テクノロジー、ないしインフォメーション・テクノロジーは、今後もっと効率的に、専門的に、複雑に、そして美しくに進化していくでしょう。それは現在までのテクノロジーの進化傾向からの予測であるわけですが、IT単体で見れば、複雑化に向かう大きなテクノロジーの流れに沿って情報処理や情報通信という支流が存在し、その中にAIやWebなどの分野が存在する。そして、各分野においてそれぞれ技術の発展という流れが存在し、その流れの上に、各企業や企業が運営するプロダクトが点として存在しているというわけです。
IT企業の分類において大切なことは、一口にAIやWebなどの分野を同列にカテゴライズするだけではなく、半世紀以上続くテクノロジーの流れを参照した上で、気になっている企業やプロダクトがそれぞれどの位置にあるのかをマッピングすることではないかと思っています。
これは企業分類に留まらず言えることですが、物事を見る際には、平面的に分類するだけでなく、歴史の流れや未来予測を参照しながら立体的に構造を捉えてみましょう。そうすることで今まで見えていなかった解像度で物事が見え、IT企業の分類においては、興味のある分野や、携わってゆこうと思える技術に出会えるのではないかと思っています。
テクニウムの長期的かつ広大な軌跡を意識することだ。テクニウムは進化によって生まれたものを欲している。テクノロジーは進化がたどってきたここ40億年の道すじをあらゆる方向に拡張していく。
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