日本の国土は狭すぎる

日本の食料安全保障を考える際、厄介なのが「農業のことだけ考えればよい」わけではないこと。日本の国土は狭く、全人口(1億二千五百万人)を養うだけの食料生産が困難なこと。全人口を養うためには、現在の耕地面積の約4倍ほどが必要。最大の耕地面積だった600万haの3倍が必要。耕地が不足。

足りない食料は海外から輸入しなければならない。輸入するためには、貿易なり投資なりの海外とのやり取りで外貨を稼がなきゃいけない。その外貨の稼ぎで海外の食料を買いつける必要がある。そのためには海外の人々にとって魅力的な商品・サービスを生み続ける必要がある。

ところが日本から「稼ぐ力」が失われつつある。貿易赤字はもうしばらく前からすっかり定着した。海外に工場を移転させたり海外企業を買収するなどして得られた金融的な儲けでなんとかトータルの黒字(経常黒字)を確保している格好。しかし輸入石油などが高騰し、黒字を保つのが苦しくなっている。

「果たしてアメリカが食料を安く輸出してくれるのか?」という点も不安。食料を安く作れるのは化学肥料をふんだんに使えるから。化学肥料をふんだんに使えるのは、石油など化石燃料が安くていくらでも化学肥料を製造できたから。しかし石油が高騰すれば、化学肥料も高騰せざるを得なくなる。

肝心の石油が採れにくくなっている。かつては噴水のように吹き上がり、採掘に1のエネルギーを消費しても、その200倍のエネルギーになる石油が採れた(EROI=200)。ところが今は10倍を切るようになり、投資家も二の足を踏む、投資効率の悪いエネルギーになり始めた。

ロシアによるウクライナ危機で石油が高騰しているにも関わらず、設備投資が進みにくくなっている。設備投資しても以前のようには石油が採れなくなり、「座礁資産」になる恐れを感じ始めた投資家が、石油から離れようとしている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0349P0T00C23A3000000/

しかし大型トラックやトラクターは、石油でないと動かせないのが現状。乗用車なら電気自動車が普及しつつあるが、それでもほぼ百%に近い形で輸送機械は石油に依存している。石油でないと動かせない。田畑を耕し、食料を都会に運ぶ手段を今後も維持できるのか?

船を動かすのも石油。アメリカで食料を安く作るにも、化石燃料で製造した化学肥料が必要。石油が採れづらくなり、高騰すれば、食料を安く作り、安く運ぶという経済生態系が維持できるか分からない。だとしたら、日本は将来、海外から安く食料を購入することが難しくなる。

だとすれば、輸入では不足する食料を国内で補う必要がある。
つまり日本は、国内だけで食料すべてを賄うことも難しく、さりとて海外から食料を必ず確保できるとも限らない時代に突入する。農業は農業で生産を頑張り、非農業は非農業で稼いで食料を輸入する、双方の努力が必要な時代となる。

農業が非農業を「理解がない」と罵るゆとりはない。非農業が農業を「だらしない」とけなす余裕もない。農業と非農業が手を取り合い、協力し、ともにこの国に決して飢餓をもたらさない、という覚悟をもって努力する必要がある。

非農業は、貿易などで稼げる新商品やサービスを開発し、海外とのやり取りで儲けることを考えねばならない。
農業は、輸入では不足する食料を国内で賄えるよう、国内生産を増やす必要がある。農業と非農業がいがみ合っている場合ではない。持てる力をそれぞれに活かし合うことが大切になる。

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