西粟倉村から学ぶ投資家の理想像

福田安武「これ、いなかからのお裾分けです。」読了。

今は結婚されて姓が変わった熱田さんの、学生の頃に書かれた本。大学には、熱田さんの真価に気づく人がいて、この本になったことがよくわかった。まだ三十代なのかあ。すごいなあ。しかもまだ伸びしろ持ってるんだから、底しれない。

熱田さんやエーゼロの牧さん、道端さんからは、今回ものすごく刺激を受けたのだけど、御三方の生き方、取り組みは「投資家」として理想形じゃないか、ということに思い至った。
ただし、御三方はいずれも投資家ではない。では「理想の投資家像」とはどういう意味か。

「豊かにしてお裾分け」精神。

御三方は、生命あふれる生態系を取り戻し、それによって「お裾分け」を頂こう、という姿勢が非常に明確。「お裾分け」を増やすには生態系を豊かにし、生命がピチピチとあふれかえるほど増えてもらう必要がある。御三方は、コンクリートで固められた川に、一工夫して生命あふれる川に変えようと模索。

御三方とも生物への知識、生態系への見識が飛び抜けている。いかにして生態系を豊かにし、生命であふれさせることができるか、常に考え、試行し、検証し、新たな工夫を考える。これはまさに「投資家」として理想の姿ではないだろうか。

御三方ともウナギを捕ったり魚を釣ったり、自然の恵みのお裾分けをもらうことをためらわない。それらを楽しませてもらうことをためらわない。ただし、今後も楽しみたいからこそ、子どもたちにもこの楽しさを知ってほしいからこそ、生命を、生態系を豊かにしたいと願い、そのための「投資」をしている。

私が驚いたのは、そうした改善が実り、実際に生き物で溢れかえっていること。そのおかげで、ウナギを「お裾分け」として少々頂いても、ウナギは減るどころか増えること。これって、「投資家」として素晴らしい姿ではなかろうか。
ところで、熱田さんはこれまで何度も痛い目にあったことがあるという。

熱田さんは若い頃、みんなが喜んでくれるのが嬉しくて、生き物のあふれる場所をよく教えていたのだという。その結果、お金にしようとする人が現れ、全てを根こそぎに持っていかれたことが何度もあるという。増えるどころか、回復不能なまでに荒らされてしまうことも。

これって、株主至上主義、株主原理主義の動きとよく似ている。短期的に儲かるなら、その企業で働く人たちがどんなに困苦に陥ろうと容赦しない。むしろ労働者から金をむしり取り、あとはその企業が弱体化しようと潰れようと知ったことではない、という姿勢。こんなのは投資ではない。ただの盗賊。

投資とは、それによって生命が豊かに、生態系が豊かになるようそっと手助けすること。そして投資の見返りとは、豊かになった生命、生態系の一部を「お裾分け」として頂くこと。こうすると、生命も、「投資家」も両方豊かになる。これが本当の投資だろう。

日本は2000年代に入ってから、株主至上主義、株主原理主義による「盗賊的強奪」ばかり見てきて二十年にもなる。このため、投資とはワナをたくさん仕掛け、全てを根こそぎにする盗賊的行為しか知らない人も少なくないかもしれない。しかしそれはあまりにも不毛。あまりにも冷酷。

熱田さんや、エーゼロの牧さん、道端さんら御三方の姿勢から「投資家」のあり方を学ぶことは大きいように思う。投資で手助けし、それで人々が豊かになり、そのお裾分けを頂く。ともに笑顔になれて、投資による達成感、喜びは何よりも代えがたいものになるだろう。

豊かな漁場を荒らされる経験を何度も味わってきた熱田さん、牧さん、道端さんが、私たち家族には惜しみなく教えてくださった。なぜですか?と訊くと、「生命が満ち溢れる喜びを知る人にしか教えないことにしている」と。御三方のお眼鏡にかなうことができて、こんな光栄なことはない。

川で遊べば遊ぶほど、生命が豊かになる。そんな向き合い方、「投資」の仕方が大切だと思う。投資を目指している人達は、西粟倉村の熱田さんやエーゼロの人達の活動を大いに参考にするとよいように思う。

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