飢えずに済む国にするには
日本は狭く、人口が多い。このため食料自給率100%は、人口がかなり減る遠い将来(2050年でもまだ1億人近くいる)まで、達成は極めて困難。国内農業も頑張ってもらいつつ、足りない食料(とエネルギー・資源)を輸入しなければならない。その輸入代金を支払えるだけの稼ぎがなければならない。
その稼ぎを得るには、ざっくり3つの方法があるように思う。貿易黒字を出すこと、外国人旅行客を増やすこと、金融で稼ぐこと。
ここしばらく、日本は貿易赤字になることが多い。昔は安く原材料を海外から購入して付加価値の高い工業製品にして輸出する加工貿易で儲けてきた。その仕組みが機能不全に。
円安とエネルギー・資源高で、原材料の輸入価格が高止まりするようになっている。他方、中国や韓国が工業国化し、安く工業製品を輸出するようになって、日本製品を高く輸出することが難しくなっている。しかも日本は中国や東南アジアに工場を移転し、日本で工業製品を作らなくなっている。
このため、今や日本では「売れるものがろくにない」状態。円安は輸出産業にとって追い風のはずなのに、一部を除いて「悪い円安」と言われている。日本国内にろくに工場が残っていないので、円安になっても売るものがない状態。自動車産業がかろうじて輸出して儲けてくれているけれど。
その自動車産業も、電気自動車の時代になって風前の灯。うっかりすると唯一の強みだった自動車産業までうまくいかなくなるかもしれない。日本は輸出するものがない、貿易赤字垂れ流しの国になる恐れがある。
外国人旅行客を増やすことは、比較的実現性があるかもしれない。円安のおかげで日本は割安な国になり、海外からの旅行客が再び増加してくれるかもしれない。しかし日本に排外的な気分が強まると、旅行客も敬遠するようになるかもしれない。これを回避できるかどうか。
ただ、海外からの旅行客がいつまで来てくれるか。石油が採れにくくなっている。かつては1の採掘エネルギーで200倍の石油が採れたのに、今は10倍を切るようになり、石油は効率の悪いエネルギーになりかけている。そして飛行機は原則、石油でないと飛ばせない。
食用油の廃油などから航空機燃料を作るSAFという技術が盛んに研究されているが、今の飛行機をすべて飛ばすだけの燃料を確保することは難しい。もしすべての飛行機を今まで通りSAFで飛ばそうとしたら、食料のかなりをSAFに回さねばならない。飛行機は遠くない将来、減便が避けられないだろう。
電気飛行機の開発も進められているが、バッテリーは重い割に大してエネルギーを積み込めない(エネルギー密度が低い)。石油で飛ぶ今の飛行機のように大人数を運ぶことは難しい。
こうして考えると、海外旅行を気軽に行えるのは、石油がまだしも安価な今のうちだけ、ということになる。
飛行機が高コストで贅沢な乗り物になれば、海外旅行客を当て込むのは次第に難しくなるかもしれない。のんびり船旅でも構わない、という時代にでもならない限り、海外旅行客に依存しすぎる経済も慎重さが求められる時代が来るかも。
第三の稼ぎ方に、金融がある。近年の日本は実は、貿易で儲けられなくなった分、経常黒字で稼いできた。海外に置いた工場の稼ぎは、日本に本社のある会社の場合、日本の稼ぎとして計上する。これが経常黒字となってきた。しかし。
それはあくまで帳簿上の話で、お金を日本に運ぶことは少なく、現地の工場で再投資されることが多いから、日本の稼ぎになってるとは言いにくい。
以上を考えると、貿易でも、海外からの旅行客でも、金融でも、日本は稼げなくなりつつある。
イギリスは海外に盛んに投資し、そのリターンで稼ぐ金融資本主義を確立している。しかし日本はそれだけの資力もなく、うまくいっていない。それに、世界で金融資本主義でやってけるのは、一部に限られる。誰かが働く上前をはねるのが金融資本主義だから、こんなやり方をとれるのはごく一部の国。
ならばもう一度、貿易黒字を稼げる国へと変わる努力をするのが妥当と思われる。世界に求められる製品を売り、それで食料やエネルギー、資源を購入する。そうした国造りをもう一度考え直す必要がある。
ドイツはうまくやった方。日本が工場を海外に移転させ、自分の技術を外に出す愚かな政策を取っている間にも自国で技術を磨き、高付加価値な製品を輸出するシステムを維持してきた。国民の給与も高く維持し、購買力のある消費者を維持してきた。それにより経済成長を確実に進めてきた。
日本はもう一度戦略を見直す必要がある。技術を外に出し、雇用を外に出し、海外の安い製品を国内で売り、技術をなくし、雇用をなくし、購買力のある消費者を潰し。日本の強みをことごとく潰してきた。競争原理の名のもとに、これらの力を養うことを怠ってきた。
ヨーロッパの国々はこんな愚かなことをしていない。だから日本と違って、低いなりにもちゃくじつな経済成長を遂げてきた。デフレ経済で苦しんできた日本とは対照的。
もう一度、貿易で稼げる国になる。そのためにできることを考える。それが必要なのだと思う。
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