なぜ賃上げムードに空気が一斉に変わったのか

ほんの二年前くらい、「給料を上げることなんかできるはずがない」って批判してくる人、結構いた。
やればできるやんけ!とりあえず大企業だけとはいえ、かなりの会社が満額回答しとるやんか!下請けにも賃上げ原資となる購入額値上げを認めるよう、政府も働きかけてるやんか!やればできるやんか!

「この世は競争社会、これからますます厳しくなる」と散々脅して、「今の低賃金でも仕事があるだけマシ」と信じ込ませて、低賃金化を推し進めた竹中平蔵氏をはじめとする連中、何考えとってん!多くの人々を散々苦しめおって!なんで賃金下げてん!せんでええ苦労をさせおって!

今回の賃上げがうまくいったのは、「空気の変化」だと思う。賃金を上げるべきだ、という意見に対して当時の反論は「自分ところだけ上げて製品価格が上がったら他社に競争で負ける、むしろ賃下げして他社に負けないようにしなければならない、だから賃上げは不可能だ」というリクツだった。

それは悔しいが、現実でもあった。ならば社会が一斉に賃上げムードにならなければ実施できない。私はそうすべきだと主張していたが、「そんなのは社会主義だ、資本主義の否定だ、だから賃上げは不可能だ」と批判する人多数。

なぜ急に賃上げムードになったのだろう?一つのきっかけは、残念ながら安倍元首相射殺事件だろう。ただしこの事件は貧困から生まれた怨恨というより、旧統一教会のやり口に対する恨みという理解が広まった。事実、しばらくすると「能力のない人間は搾取されて当たり前」という言説が再び頭をもたげた。

私は、このままでは富裕層は身を守ろうにも守れない社会になってしまう、と警告した。当時、搾取を平気で口にする人間は、法律が自分たちを守ってくれると思っていたらしい。しかし戦前、女中が資産家の息子を床に叩きつけ、命はとりとめたものの背が伸びなくなった事例を私は紹介した。

また、小説の話ではあるが、日常の生活が牢獄より厳しい場合、法律を守る意味は失われる、と指摘した。もはやそうした社会になりつつある、と警告した。
ここでようやく、支配層の人たちは危険に気がついたらしい。その危険を裏付けるように、奇妙な犯罪が目につくようになった。

ネットで情報をやり取りしただけの連中が、凶悪犯罪を起こす事例が相次いだ。彼らに遵法意識は薄かった。真面目に働いてもどうにもならない、ならばいっそ犯罪であっても一攫千金したほうが、という犯罪が増える傾向を見せていた。

これでようやく、支配層も本気になったようだ。
サントリー社長の新浪氏は、以前から支配者層が何を考えているのかを如実に表す風見鶏としてわかりやすいが、経済同友会のトップに就任するにあたり、それまでの発言とは正反対のことを言い出した。「賃上げしなければ」。

恐らく、このままでは支配者層を狙い撃ちにした犯罪が多発するかもしれない、と強い懸念を持ったのだろう。この怨恨を解消するには、賃上げを行い、不満を薄めなければならない、と。
正直、もっと早くやれよという気がしないでもないけど、やらないよりはやったほうがよい。まずは良かった。

しかし労働者の7割が中小企業勤め。この人たちに賃上げの恩恵が行き渡らなければ、危険性は去らない。まだまだ油断はできない。政府は慎重に、しかし着実に賃上げを実行し、不必要に苦しむことのない生活を、多くの人たちが送れるようにしてほしい。困難はあるだろうが、頑張ってほしい。

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