親の自慢より子どもに驚く

「信じてもらえないといけないから」と、母は中高の成績を残していた。6年間、全教科ほぼ100点、学年一位をキープ。母の口ぐせは「お母さんにできたんだからあなた達にもできる」。
かたや、父は。

勉強しなかった、できなかったエピソード満載。まず入学のエピソード。鹿児島への疎開から大阪に戻り、小学校に。「田舎と違って大阪は難しいよ」と母親に脅されつつ、校長先生と面談、そして問題「板とガラスの違いは?」黙る少年の父。「トンボと蚊の違いは?」ナントカ目とか知らんし、沈黙。

帰り道、母親から「ガラスは割れるけど板は割れにくい、蚊は小さいけどトンボは大きい、これくらいのことわかるやろ!なんで答えへんねん」と叱られた少年の父は、「都会の小学校は性に合わん」と思い定め、一切勉強しないと心に決めた。

家に帰ると宿題しろ、勉強しろと言われるので、ランドセルをブンブン振って、数メートル先の開いてる玄関に向けて投げ込み、走って逃げた。後ろで何か怒鳴り声が聞こえるが、無視して一目散に遊びに出かけた。

授業中は後ろの友達とばかり話していた。「そんなに後ろを向くのが好きなら先生の横に来なさい」と、教壇の真横に机を。それでも平気なもので、「おい、つぎお前が答えろ!」と先生と一緒になってクラスメートに指示。

夏休みの宿題はもちろんやらない。全く。体の前と後ろに「僕は夏休みの宿題をしませんでした」というプラカードをぶら下げて運動場10周。こっちの方がラクだから。そしたら「確かに」と、翌年は父のマネをして宿題せずに運動場10周走る仲間が増えたとか。

まだ建てかけの家をジャングルジム代わりにして遊んで家が傾いた。3、4階の建物の屋上から落ちたけど、壁にあるものガンガン手で叩いていったらストッと立てた。そしたら屋上から落ちて遊ぶのが始まった。
五年生のときに六年生に馬乗りで殴られ、泣かずにいて血だらけなったらガキ大将が泣き出した。

ガキ大将泣かしたということで尾ひれがつき、ガキ大将に。翌年には隣の小学校も従え、二校のガキ大将に。
というように、一向に勉強の話が父からは聞かれなかった。
秀才の母、悪ガキの父、どっちの話を聞いて勉強する気になったかと言うと。

圧倒的に父の方だった。
私はとうとう、母のような立派な成績を収めたことが一度もなかった。正直、劣等感しか持てなかった。「私でもやれた、あなたにもできる」と言われても、「そんなに努力せなあかんのしんどい」と、ため息つくしかなかった。

他方、「父には勝てる」と思えた。大人の父はいろんなことを知っていて、どうやら賢いけど、悪ガキだった父には勝てる!
実際、父は、子どもの頃の自分よりよくできると感心してくれた。子どもの頃の父にだけは負けるまい、と考えていた。

私は子育てにおいて、父のマネをしている。私は大学こそ京大に進んだものの、小学校、中学校はひどい成績だったので、主にその話をしている。息子も娘も小学校の私には負けまいと思うらしく、よく私のエピソードを聞きたがる。私のマヌケな小学生体験談を話して聞かせるようにしている。

母には申し訳ないが、親の成績良かった自慢は、子育てにおいて不要だと思う。特にあまりにも良すぎる成績は、とてもマネできなさすぎてしんどい。それよりは、「子どもの頃の親なら勝てるかも」くらいの話の方が、子どもは負けるまいと思うようになるらしい。

問題は子どもたち。私のアホさ加減を話して聞かせてきたからか、子どもたち、異様に成績がよく、学習意欲が高い。子どもたちが将来大人になり、親になったとき、「いかにお父さん(お母さん)はアホだったか」という話ができない恐れがある。

ということは、私とはまた異なるアプローチをする必要が出てくるだろう。それは少々、難しい。私は子供の頃、できない子どもでよかったとつくづく思う。おかげで子育てがラク。しかし子どもたちは、出来のよい子ども時代を過ごすために将来子育てで苦労するかもしれない。なかなか難しい問題。

とりあえず、子どもの学習意欲を固めるのに、親が勉強できたかどうかは関係ないように思う。むしろ勉強できた親は子どもの学習意欲を削ぎかねない恐れがある。「お父さん(お母さん)は成績優秀だった」という話をしてしまうならなおさら。

親が漁師で中卒だったという人が旧帝大へ。親御さんはどうしてたの?と話を聞くと、「トンビがタカを生んだ」と言い、子どもの様子に驚き、よく感心していたという。それでますます学習意欲を燃やしたそうな。その人は、親のことをとても尊敬し、感謝していた。

その人の話によると、親が本を読んでることも、必ずしも必要ではないらしい。親は本を読む人では無かったという。しかし子どもである自分が本を読むのはよく感心し、読みたい本は進んで買ってくれたという。「もうそんな本を読むのか!」と驚きながら。親を驚かし、感心させるのが楽しかったらしい。

その親御さんは学歴こそなかったかもしれないが、とても賢い方なのだろう、と思った。親が子どもの様子に驚き、感心するのは、子どもの意欲をとても高めるもののように思う。子育てで必要なのは親の学歴ではなく、子どもの成長を喜び、驚き、感心する様子なのかもしれない。

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