具体的なエピソードと、専門用語はカッコに入れて後ろに回す

私が文章を書くときに気をつけていることとして、プラス2つほど気がついたので、それも言語化してみる。

まず一つ目。私の文章をお読みの方はよくご存知の通り、具体的なエピソードをなるべく盛り込むようにしている。そうした方がかえって普遍的な理解ができるようだからだ。


知性の高さを誇る文章を書こうとすると、具体的なエピソードを避け、普遍的な表現にしようと努めてしまう。しかしこういう文章は小難しくて理解しづらい。このため、普遍を目指してかえって誰も読まない「普遍的でない」文章が出来上がる。せいぜいその手が趣味の少数の人に読まれるだけに終わる。


でも不思議なことに、具体的なエピソードは非常に多くの人の思考を揺さぶるらしい。そっくりの体験でなくても似たようなエピソードを思い出し、「そういえば」と、いろんな気づきが生まれるらしい。具体的なエピソードは普遍性がないように見えて、普遍的な反応を引き起こす、面白い特徴がある。


これは近年、人工知能で注目されている「深層学習」と同じ仕組みが、人間の脳でも働くからではないか。私が一つの具体的なエピソードから普遍的な法則を抽出しようとしてみせると、それを読む人は、自分の身に起きた具体的なエピソードを思い出し、「ビッグデータ解析」みたいなことが起きるらしい。


「たった一つのエピソードから普遍的な法則を語るなよ、n=1じゃん、全然科学的じゃない」とお叱りを受けることがある。それを承知でやってしまうのは、2つほど理由がある。一つは、紹介したエピソードは1つでも、私自身がかなりたくさんの事例を観察して導きだした法則性だから。実はn=複数。


もう一つはそうしたたくさんの観察結果から、一般の人にも同様の経験があると見越しているから。だから1つの具体的なエピソードを紹介するだけで、それぞれの人が様々なエピソードを思い出し、自然と「ビッグデータ解析」的なことが各人に起きることを期待している。


実際、私が具体的なエピソードを1つ紹介すると、「そういえば私も」と、たくさんの事例を思い出し、紹介してくれる人が多い。これだけ見てもたくさんの事例(n=たくさん)が出てきたことになると思う。不思議なもので、具体的エピソードは、こうしたことを引き起こすことで「普遍的」になりやすい。


他方、普遍的な表現って抽象的で、具体的なエピソードをちっとも思い出せないらしい。だから心に響かないし、思考を動かさない、退屈なものになりやすいらしい。せいぜい、普遍的(抽象的)表現に慣れてる人たちだけの限られた趣味に陥りがち。でも、具体性がないから応用力がないことしばしば。


具体的なエピソードから生まれた普遍性は、とても応用力が利くのに、抽象的な思考は現実の具体的な行動に結びつかないことが多い。もはや普遍的抽象的な世界に溺れて、具体の世界に戻ってこれなくなったかのよう。私は、これでは意味がないな、と思う。まるでラピュタ人。


ところが、具体的エピソードから普遍的法則性をつかんだ人は「あ!これあれに似てる!」と気がついて、応用を利かせやすい。具体的エピソードの方が似てる事例に気づきやすくし、普遍性のある応用力を引き上げるらしい。


さて、もう一つのコツは、「専門用語はカッコに入れる」ということ。たとえば、多くの文章は次のように、専門用語を書いてから、カッコ書きで説明を続ける。

「アンモニア化成(有機物をアンモニア態窒素に変換する微生物分解の過程)」

こういう書き方をすると、専門外の人は引っかかって読みづらくて仕方ない。


私は順番を逆にしてしまう。

「生ゴミみたいな有機物を、微生物の力でアンモニアに分解する(アンモニア化成)」

こうすると、カッコの中の専門用語を読まなくてもスルスルと理解できるし、ついでに専門用語の意味も理解できてしまう。私は、専門用語をカッコの中に入れたほうが読みやすいと考えてる。


以上、2つのコツを言語化してみた。まとめると

⑧具体的なエピソードを紹介することで、各人のエピソードを思い起こしやすくし、普遍的な法則を導きやすくする。

⑨専門用語をカッコに入れて後ろに回す。

こうしたことを心がけると、読みやすくて理解が深まりやすい文章になるように思う。

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