12月7日講演
食料問題を語るとなると、「ともかくたくさん食料を作れ」という話になる。でも、これだけ自給率を上げようとかみんなが言っている割にはそうはならない。だとすれば、単純に食料をたくさん作るというだけではうまくいかない理由が現実にはあるのではないか?
農業の問題、食料問題では、鈴木宣弘氏と山下一仁氏が双璧となっている。ちなみにお二人は犬猿の仲。むっちゃ仲悪い。ただお二人とも、著書では農業の話ばかり。農協とか農水省の話は出ても、それらも農業関係。農業以外のことを農業問題の場で語られることは、まずない。
しかし、今や日本の農家は152万人に過ぎず、国民の99%近くが非農家。農業問題は、本当に農業の世界の中だけで解決できるものなのだろうか?という点が疑問。で、私は食料問題を解決する、というテーマ設定をしたうえで、あえて農業に問題を絞らずに思考を広げてみた。すると、まあ出てくる出てくる。
調べてみると、「食糧をたくさん作ると餓死者が出る」という奇妙な経済現象に気がついた。アメリカやフランスは、自国だけでは食べきれないほどの小麦やトウモロコシなどの食料を作っている。余るから、海外に売る。格安で。すると。
アフリカの貧しい農家でも価格で太刀打ちできないほど、それら先進国が輸出する食料は安い。そんな安値で売られたら、アフリカの農家は鎌を買い替えるお金も工面できなくなって、生活できなくなってしまう。やむなく、西欧人が経営するコーヒー園やカカオ園で賃仕事せざるを得なくなる。
もしコーヒーやカカオの価格が暴落すると、賃金が減る。すると、世界一安いはずのアメリカの小麦さえ買えなくなってしまう。その結果、飢えてしまいかねない。アフリカでしばしば飢餓が発生する理由、それは安すぎる食料を大量に作り過ぎるから。たくさん作るから飢える人が出る皮肉。
ではなぜ日本は飢えないのか?それは、非農業が元気だから。自動車を製造したりなど、日本では非農業が盛ん。そこで働き、賃金をもらう人が多い。そのお金でアメリカの安い食料を買えばいい。だから日本は飢えずに済む。なら、アフリカでも非農業で働けばよさそうなものだが。
アフリカの多くの国は、農業以外の産業がろくに育っていない。だから、農家をやめて働こうとしても、コーヒー園やカカオ園などの農業関係で働くしかなかった。発展途上国は、非農業の産業がないから飢えてしまうことがある、農業しか頑張る道がないから飢える、という皮肉な状況がある。
また、今の農業は「石油」に大きく依存している。トラクターなどの馬力がいる機械は、いまだに石油でないとろくに動かせない。電動にすると、電池が重すぎるし、すぐにバッテリー切れを起こす。石油が手に入らなければ、田畑を耕すことは困難になる。
それに、石油はエネルギーとしては採れづらくなりつつある。「枯渇する」のではない。
石油の埋蔵量は、2020年の石油の消費量の50倍、つまり50年分はある。だから、まだまだ石油は枯渇しない、というふうに言うことができる。しかし「埋蔵量」という表現が実は曲者。
いくら石油が地下に存在しても、石油を掘るために要したエネルギー以上に石油が採れなければ意味がない。石油を掘るために消耗したエネルギーの何倍の石油が採れたか、という数字をEROIというが、石油文明開始時は、これが200倍にもなった。ところが近年は10倍を切りつつある。
石油は、原油のままでは自動車を走らせることができない。ガソリンや軽油に加工し、ガススタンドにまで運ぶつ必要もある。このため、EROIが3倍以上ないと、石油を掘ることは、エネルギーを得るという点では意味がなくなってしまう。そしてその3倍に向かって、EROIは悪化し続けている。
2020年のコロナ禍が始まるまで、アメリカや中国は地球温暖化なんか気にしていない国だったのに、急に脱炭素だ!電気自動車だ!と言い出したのは、このEROIの数値が急速に悪化していることを、中東の支配者から告げられたからではないか、と私は推測している。証拠があいにくないのだけれど。
ただ、日本も2020年以降、何の前触れもなく「緑の食料システム戦略」を検討し始め、化学肥料を減らせ、という話になった。化学肥料の製造は非常にエネルギー食いで、原料の一つであるアンモニアを作るだけで世界のエネルギー消費の2%を使っていると言われている。おそらくこれも、関係している。
ということは、そう遠からず、石油をエネルギーとして使えなくなる時代が来る可能性がある。そのとき、日本は何人分の食料を生産できるのだろうか?いろいろ調べた結果、3000万人分ではないか、と考えている。1億2500万人が今の人口だから、9500万人分の食料が足りない。
このように、食料問題一つとっても、経済の奇妙な動きや、非農業が餓死者を減らすという皮肉な現象や、エネルギーがないと食料を作れないなど、農業とは一見関係なさそうな分野が、食料問題と深くかかわっていることが見えてきた。それを私は、「その時、日本は何人養える?」という本にまとめた。
12月7日に、京都大学で、この本の第1章を基礎にして講演する予定。zoom配信もあるので、よかったら視聴してみて頂きたい。
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