超優秀なエネルギー、石油 そして食料問題
私は、食料問題はエネルギー問題だと考えている。人類が80億人も増えることができたのは、「石油を食べる」技術が生まれたからだ。もちろん、石油をそのまま食べているわけではない。
石油など化石燃料のエネルギーで化学肥料を作る→化学肥料で食料を作る
ことで、大量の食料を作れるようになった。
しかし、非常に優秀で安価なエネルギーだった石油が、いよいよ採れづらくなってきた。採掘に1のエネルギーを投入したら200倍(EROI=200)の石油が採れていたのに、今は10倍を切るように。3倍を切ったらエネルギー的に赤字。ガソリンや軽油に変換するにもエネルギーが必要だから。
EROIが3倍を切る未来が見えてきた。そうなれば、人類は決定的なエネルギー不足を迎える恐れがある。世界中が一斉に電気自動車へのシフトをはじめ、太陽電池や風力の力を入れ、化石燃料からの脱却に真剣になり出したのは、「石油がエネルギーとして使えない」時代が見えてきたからだろう。
さて、代替エネルギーはあるのか、という問題。原子力は、意外にも資源量が限られている。現在の原発の数で、170年分。もし2倍に増設したら85年、4倍に増設したら40年余りしかない。資源に限りがあるという点では、石油とあまり変わらない問題がある。
プルトニウムで半永久的に発電する技術はある。しかしこれは高速増殖炉という特殊な原子炉が必要で、先進国で実用化できた国がない(ロシアができたと言っているけれど、情報を公開していないので本当かどうかわからない)。日本はナトリウム漏れを起こしてから事実上開発を断念している。実用化困難。
プルトニウムを通常の原子炉で燃やす方法(プルサーマル発電)。けれどこの場合、アメリシウムというゴミができて、核燃料として再生不可能になる。結局、原子力は「資源の限られたエネルギー」だという現実がある。
核融合への期待が大きい。けれど、これは石油産出国などへのけん制として持ち上げているという政治的なにおいがする。現実には、実用化するメドが立っていない。投入エネルギーより大きなエネルギーを取り出すことに成功した、というニュースがあったけれど、小さな水爆を爆発させた、という感じ。
核融合は1億℃もの超高温。しかし発電に適した100~数百度の温度に落とし込む技術のメドが立っていない。核融合でできる電気の渦を利用して、誘導電流で発電しよう、という話もあるけれど、効率よく発電する見込みが立つのかどうか。今のところ、核融合は、研究段階から抜け出していない。
日本は火山国だから地熱発電への期待が強い。けれど日本の温泉には硫黄が多く、これが硫酸に変化して配管をボロボロにしてしまう。このため頻繁に配管を交換せねばならず、採算が悪化。実は日本では、地熱発電は増えるどころか減っている状況。
水素エネルギーが期待されている。原子力で水から水素を作り、それを貯蔵すればいいじゃないか、と考えたくなる。しかし水素は貯蔵が難しいエネルギー。かなり低温に冷やしても液化せず、圧力かけないと液化しない。しかし水素は金属に染み込み、脆くする水素脆化という厄介な性質があり、金属タンクが劣化。
このため、水素はコンパクトに貯蔵することが難しい。石油はわずか1Lのサイズで約8000kcalものエネルギーを蓄えられる、超コンパクトなエネルギー。しかし水素はこれだけコンパクトにすることが技術的に困難。これが水素エネルギーの普及を難しくしている一因にもなっている。
バイオ燃料も望み薄。調べると、エネルギー的に黒字なバイオエタノールは、ブラジルでのサトウキビ由来のものだけ。アメリカのトウモロコシ由来のは、むしろ作れば作るほどエネルギー的に赤字。食用油から作るバイオディーゼルも同様。
日本は森林に恵まれているから、木を切って発電したらどうなるか。日本の山を丸裸にして電気に変えると、0.9年分発電できる。1年で増える森林分だけ発電すると、1週間足らず。木質バイオマス発電は、ごく限られた地域にでしかうまくいかない。
そんなこんなを考えると、石油がいかに優秀なエネルギーなのかがわかる。化石燃料には、石油のほかに石炭と天然ガスがあるが、使いやすさでは石油にかなわない。その証拠に、自動車や船、飛行機のエネルギーはほぼ完全に石油のみに依存している。
天然ガスは水素に似て、貯蔵が難しいエネルギー。超低温にしたうえに高圧にしないと、液化しない。コンパクトに運んだり貯めるのが難しいエネルギー。石炭は固形物だから、パイプで送るということが難しい。二酸化炭素も出過ぎる。いろんな面で、石油は突出して優れたエネルギー。
この突出して優れたエネルギーである石油が、だんだんと採れなくなり始めている。少なくとも、採算が合わなくなり始めている。シェールオイルだと、採掘に1のエネルギーを投入して、7倍の石油しか採れないことも。投資効率が悪いエネルギーとみなされ始めている。
かといって、太陽電池や風力発電にも難がある。太陽電池はお日様が照らないと発電しないし、風力発電は風任せ。何より、作った電気を貯める技術がイマイチ。現在開発されているリチウム電池は、石油と比べると20分の1~40分の1のエネルギーしか貯められない。
太陽電池が作った電気で水をくみ上げることでエネルギーを貯める揚力発電(水力発電)という技術があるけれど、ダムがないと使えない。日本はやまがちで、これ以上ダムを作ることは困難。大して電気を貯めることができない。
重力蓄電という技術がある。コンクリートブロックを上に持ち上げて、電気が欲しいときはそれを下すエネルギーで発電する技術。けれど、運輸部門のエネルギーをまかなうだけで250万基を設置しなければならない。1基がそこそこ規模がでかく(35MWh)、高価なのに、気が遠くなりそう。
つまり、石油に匹敵する優秀で低コストなエネルギーが、現時点で見当たらない。もし石油がエネルギーとして利用できない時代になった時、果たして80億人もの人類を養えるのか?まだしも石油がエネルギーとして利用できるうちに、必死になって技術とインフラを構築する必要がある。