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今も心にあの一冊 「有夫恋」 時実新子

今は亡き時実新子さん。この本のページをめくる度に走る衝撃的川柳の数々。今も定期的にページをめくって心をザワザワさせたくなってしまう。

去っていく足に乱れのない憎さ
みな善人で銃殺刑である
男の嘘に敏感なふしあわせ
投げられた茶碗を拾うわたしを拾う

初めて読んだ時は、な、なにこれ?川柳ってなに?と戸惑った。そして短い句が放つ心えぐる爆薬の数々にすっかりやられていた。

25年前、中日新聞の夕刊で時実新子さんが読者投稿川柳を選評するコーナーがあ理、憧れの作家に自作を選んでもらおうと何度もハガキで投稿した。箸にも棒にもかからなかったが10数回目に「般若面 ずれてああ今 わたしです」という句が選ばれ、「作者は毎週ハガキを送ってきている。この方は心に根深い闇を抱えている。そして闇を見つめることができる強い人」と評されていた。鳥肌。

当時は大学卒業し名古屋で勤務医。福岡の彼女と遠距離になり2週間に一度は会いに行っていたが、1年半過ぎたあたりで彼女と心通わせる浸透度が低下してきているようで怖くなった。勤務先の院長に「福岡の彼女が気になりまして・・・すみません!仕事はやめさせてください!」と言って親の反対も他所に2年で職場を離れ、さまざまな信頼も失ってまで福岡へ行ってしまった。「きたぜ!」と彼女にいうと「なにしに来たの?」あれ?あれ?
いざ職場を探すも断られ断られ、春だというのにお金も底をつきそうで寒気が止まらない。歯科医師にこだわらず数日日雇いバイトで凌いだ。本職はもちろん幸せからも遠ざかる自覚の中、時実新子さんのコメントがふと頭に浮かび静に支えらえた。彼女にとってはヤバいストーカーで、この文章を読む皆さんにとってもなかなかヤバい私です。が、その後色々あって挽回して今は結婚24年なのでした。

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