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いくらで売るべきなのか?

4月にブログでこの記事を書いたけどnoteに移行しようと思い、2つに別れてた記事をまとめて一部修正してみた。

これを書こうと思ったきっかけは4月にAmazonプライムの年会費が3,900円から4,900円に値上げになり、Twitterでは賛否両論渦巻いていた事。

営業としては値段改定のタイミングに立ち会うケースは多く、その際最前線で説明責任を追わないといけないので、自分の考えを整理する目的でまとめてみた。

個人的にはこの値上げ金額は安いなと思った。
Primeビデオをよくみるので、それだけでも元が取れるし、送料無料とかお急ぎ便が使えるとか便利すぎて、提供価値的には月4,900円でも安いじゃないかと。

それでも値上げをすると不満はでる。
コストを最重要視するお客さんは安ければ安いほうがいいし、今回のAmazonのように事前のコミュニケーションが少ないとレピュテーションリスクが非常に高い。
でもそのリスクを判断した上で、企業として利益をあげるという観点であれば値上げしたほうがいいケースは多いし、業界や日本の為にも値上げした方がいいと思うケースは多い。
Amazonが(値上げしたとしても)この金額だと、有料動画サービス、ECサイト、小売等は、コスパ勝負は厳しいからよっぽど尖った強みがない限り収益性がどんどん悪くなると思う。
で収益性が下がると、投資も出来ないのでサービスの質が悪くなり、更に客離れが続くという悪循環が続いちゃうんじゃないかなーと危惧する。

いい機会なので、一度自分の値段に対する考えを整理しておこうと思う。

何故価値より安すぎる価格で売ると良くないのか?

何故価値より安すぎる価格で売ると良くないのか?
ご存知のように先進国の中でも日本はダントツでデフレが続いており、物価が上がっていない。
物価が上がらない理由は、人口が増えておらず需要が伸びないなどいろんな要因があるが、企業が値上げをしてこなかった、ユニクロや牛丼チェーンのように低価格で市場シェアを取る戦略を選んだ企業が多かった事などに起因していると思う。

資料:GLOBAL NOTE 出典:OECD

そして平均年収もG7で推移を見ると、軒並み上がっている中、日本とイタリアだけがあがっていない。

昔のように人口が増えていく局面では、需要も増え勝手に販売量が増えるという状況だったと思うが、今は勝手に需要が増えるというケースは少ない。
売上が上がらないとコストを抑えるしかないので、給料も下がっていく。
給料が安くても物価が安いなら別にいいんじゃないかと一瞬思うけど、海外と比較して相対的に低いと優秀な人材が外資に取られ、日本の会社の競争力がどんどん落ちていく。
また国内でも人の取り合いになって人件費が高騰すると、利益率の低い会社は赤字になるか質を下げるしかなくなる。
性能、品質、サポート等で劣ると値上げは難しく、更に値下げでしか対抗できなくなる。

値上げは出来るのか?

じゃあ値上げをすればいいじゃんと思うけど、値上げをするのは難しい。
自分は今まで所属した全ての会社で値上げのタイミングがあり、営業としてお客様に説明する立場だったから説明には非常に苦労したし、折角価値を理解いただき導入してもらったお客様に値段を上げますと言うのはとても心苦しかった。
特に値段のロジックが自分でも腹落ちしていないと説明は苦しく、外資の会社にいた時に、ヘッドクォーターから消費者物価指数に合わせて毎年保守料を値上げをするという話が来た際にはお客さんにどうやって説明しようかずっと悩んでいた。

でもうまく値上げしてるなという企業、業界はある。
先日日経で、外食業界はデフレから抜け出せていないが、カフェチェーンはうまく単価を上げているという記事を読んだ。

カフェ業界を引き上げたのはスタバだと思うけど、自分も行くと1000円弱使ってしまうし、コーヒーだけでなく、快適なスペースや色んなメニューで客単価を引き上げてるのは本当にうまいと思う。
単純にコーヒーの値段を上げているわけではないので納得度は高いし、それが高い思うお客さんはターゲットにしていない。
カフェチェーンは客単価や収益性を意識している企業が多く、各企業だけでなく業界としていい流れになっているのだと思う。

一方、ちょっと前に吉野家が最終赤字に転落という記事も見た。

人件費や原材料費が上がる中で、客単価が上げられておらず売上は好調なのに赤字になってしまっているとの事だった。
コストを自分達でコントロールできないかつ変動費が大きいので、構造的に赤字になっており売上が伸びるほど赤字が膨らんでしまうため、値上げ以外に手の打ちようが無いと思う。

でも値段をあげると今までのお客さんが離れて売上が落ちるので、中々踏み切れないたろうなとも思う。
全てのお客さんをターゲットにして利益をあげるという事は、高品質な製品を低価格で提供しコストも非常に安いという事なので、限りなくハードルが高いと思う。
AmazonやGoogleといった一部の企業を除いては、誰をターゲットにするのかを明確にして値付けをしたほうがいい。
売上を増やしてシェアを取るのか、利益を取るのかはどの会社にとっても大きな問題だと思うけど、資本力がそんなにない場合は利益を取るほうがいいと思う。

海外のプライシング

SAP時代、辞める直前ぐらいにVendavoという3rd partyのソリューションをOEMで販売し始めた。
どのくらいのプライスバンドで売るのが最適かマネージするソリューションで、製品毎、顧客毎等にどの金額範囲で販売されているのか、いくらで売った際に最大の利益が出るか分析できるようなソリューションだった。
非常に高額なソリューションだけど海外では普及しているらしく、日本は適切なプライシングが検討されていないという話を聞き、担当のお客さんにも何度か説明した。

この領域のソリューションは当時プレーヤーが少なく、マッキンゼーのソリューションがExcelのようなUIだがシェアが高いという話を聞いた。(誰かとの会話の中で聞いたので本当かどうかわからないけど。。。)
そこで当時この本を読んだ。


プライシングはロジックと現場感両方大事で、必ずしも書いてある通りじゃないと思ったが、ロジック面ではこの本の影響を大きく受けている。

ただ価格を上げる事はよくないが、価格を上げないといけないケースは多い。
営業としては何故価格を上げる必要があるのか、現在の状況を含めしっかり話せないといけないと思っている。
そうしないとお客様の信頼を失い、本当は価格が上がってもそのお客様にとってはその価値があるのに、お客さんが離れてしまいお客に損をさせる事にも繋がる。

自分の中でのプライシングのロジック

自分の中で価格について考えている事を箇条書きにしてみる。
売る側として書いてるけど、買う時にも同じように考えている。


価格の決め方と影響
・価格は価値によって決めるべきである。
・顧客認知価値が増えているのに価格を同じにするのは値引きと同じ効果がある。
・顧客認知価値を増やす事が出来ない競合は値下げで対抗してくる。結果業界全体の平均価格が下がってくる。
 何故今価格を上げるのか
・価値が上がる際に価格は上げないといけない。そうしないと結果的に業界全体の収益が上がらなくなり、投資ができなくなる。
・結果、品質、サービスの質が下がったり製品自体を提供できなくなり、結局はお客様も不幸になる。
・価格を上げる事により離れるお客様もいるが、全てのお客様を満足させる事は不可能なので、どんなお客様の役に立ちたいのか明確にする。
プライシングにおける営業の役割
・提供価値と顧客の認知価値は違う
・実際にその製品が提供できる価値よりお客様が認知している価値は低い事が多く、それを埋めるが営業の役割の一つ。
・特に複雑な製品ほどその傾向が強いので営業の介在価値が高く、営業が価値を説明できないと価値より安い価格で提供しないといけなくなる。(ドリルじゃなく穴を売る話やそもそも多機能すぎて全体を理解するのが難しい)
価格を上げる事の効果
・販売価格を上げる事は、販売数量を増やす事、コスト削減することより利益への影響が大きい。(S&P構成企業1500の売上数量、単価、コスト比率で考えると価格を1%引き上げると営業利益が8%増え、売上数量を1%増やした時の3倍の効果があるらしい)
・顧客の認知価値が変わらず価格だけが変わると、相対的に競合より高くなり切り替えるお客様が出てくる。特にスイッチングコストが低い製品は切り替えられてしまう。
・認知価値も変わると失われるお客様もいるが、新しく獲得できるお客様もいる。(安い物はそれだけの価値しかないと思われるケースがある)
お客様の種類
・お客様は一人一人、一社一社毎に考えが違うが、自身の状況に合わせて認知価格と認知価値の比例直線上で選ぶケースが多い。
・価格を最優先するお客様、一定の品質を満たす中で一番安い物を選ぶお客様、品質、スペックを最優先するお客様がいる。
・インターネットの普及で金額情報の格差がなくなり、こだわる物は高いコストを払い、それ以外はできるだけ安いものを買うケースが増えてきている。

キーエンスのプライスコントロール

私が新卒で入ったKeyenceという会社は、2018年の営業利益率55.6%と製造業としてはダントツで平均年収も2,088万とこちらもこの規模の会社ではダントツ高い。


私がいた頃より共に大きく伸びているので仕組みも更によくなっていると思うが、転職してみてプライスのコントロールが非常にうまかったと思ったので共有。

・営業の成績が売上じゃなくて利益。
・値引き承認が厳しく、競合より安い値段は承認されない。競合が値引いたから以外のしっかりした理由が必要。
・営業は機能ではなく、価値を伝えることが徹底され、毎日ロープレを実施する。

色々仕組みとしてすごいと思うところはあるんだけど、営業のプライスコントロールという観点では上の3つが大きかったと思う。

プライシング戦略を決めた後に、その価格でお客様が購入するかどうかは、お客様がその価格を払うに値する価値があると納得する必要がある。
その価値や価格を伝えるのは営業の仕事で、営業現場に浸透(腹落ち)させないといけない。
でも営業は売上を上げたいし、利益がなくても売りたいと考える。(自分もよくあります)

キーエンスの特徴の一つに成績が利益というのがあり、これが大きく貢献していると思う。
FA業界では場合によっては7割引、8割引というのが当たり前にある世界で、競合の定価もあってないようなものである。
キーエンスの場合製品毎に仕切り価格(材料費、人件費等の原価)が決められており、それを超えた金額が営業の成績になる。

例えば10,000円の製品の仕切り価格が2,000円で2,500円なら100個買うという人と8,000円で15個買うという人がいた場合、それぞれに売上と利益を比較すると


売上
100個の場合:250,000円
15個の場合:120,000円
利益
100個の場合:50,000円
15個の場合:90,000円

と成績は逆転するので安易な値引きが減る。

更に競合より安い値段や、競合が値引くから値引くという承認は通らない。
これは値段だけで判断されている場合、更に競合が値引くとまた値引かねばならず、業界にとってもよくないという考えがあると思う。

あとは本当にどれだけの価値があるか、お客様の状況に合わせて具体例で説明する練習をたくさんするので、実際の価値とお客様の認知価値のずれがなくなり、正当な価格で購入してもらえるのだと思う。

いくらで売るかというのは非常に難しく答えのないものだと思うが、営業としては何故その価格なのかはしっかり説明できないといけないと思い自分の考えを整理してみた。
また企業としてはプライシングは現場に浸透していなければならず、その理由を全員が腹落ちしており、かつそう動きやすいよう目標KPIにも反映させることが大事だと思う。

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しんり(鈴木眞理)
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