パレスチナのヘブロンでカツアゲされた話
私は神様というものをあまり信じていない。
お盆には墓参りに行くし、初詣も行くし、クリスマスも祝う。
悪いことをすると罰当たりそうだなとも思うけど、神様が存在しないと思っている方が80%ぐらいかもしれない。
そんな私だけど人が宗教にのめり込むという事自体には興味があり、海外旅行に行くと信仰心あつい人に出会うので何がこの人をそんなに突き動かしてるのか考えたり、十字軍の本を読むと200年近く戦えた根源は何なのか考えたりしている。いつから神様って誕生してここまで命をかける人が出てきたのだろうというのは、子供の頃から興味を持っていた。
ちなみに、最近1万年以上分の世界史の定量データをビッグデータ解析したという研究成果の発表を読んだ。
その研究によると、今までは神が生まれたことにより社会が複雑化してきたと思われていたが、逆に社会が複雑化していく中で儀式が生まれ、その後に神が生まれた可能性が高いらしい。
イスラエルとパレスチナに行ってみる
2年半前、転職のタイミングで有休消化で長く時間が取れるのでどこか行こうと考えた時、イスラエルとパレスチナに行ってみたいと考えた。
中でも行ってみたかった都市がこの3つ
エルサレム:イエスが処刑された場所。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地。
ベツレヘム:イエスが生まれた場所。馬小屋の跡地は聖誕教会になっている。
ヘブロン:アブラハムの墓がある。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地。
このアブラハムというのは箱舟で有名なノアの11代下の子孫で、イエスの先祖にあたる人。イスラム教、ユダヤ教、キリスト教はアブラハム以降に別れたので、3つの宗教それぞれで崇められてる人。旧約聖書に登場する人物で本当にいたのかはわからない。
ヘブロンには絶対行きたかった。
でも問題が一つ。当時はガザ地区が封鎖されイスラエルが空爆したり、それに対してパレスチナがロケット弾で報復したりという事が発生していた関係で、ヨルダン川西岸地区にあるヘブロンもレベル3の渡航中止勧告になっていた。
ブログではヘブロンに行ったという記事をいくつか見つけたが、どれも少し前だったので今どうなってるのかがわからない。
そんなわけで不安はあったけど、とりあえず行ってみて考えようと思い、旅行先はイスラエル、パレスチナに決めた。
ベツレヘムで出会ったモタセム
イスラエルに入ってまずはテルアビブとエルサレムを観光した。
この2都市はイスラエルなので比較的安全で、テルアビブはITのスタートアップ企業が多く高層ビルが立ち並んでいた。
エルサレムは紀元30世紀ぐらいに出来た非常に歴史のある街で、旧市街は古い建物が多い。イエスが処刑に向かって十字架を背負って歩いた道ヴィア・ドロローサを歩く事ができる。
イエスが貼り付けにされたゴルゴタの丘があった場所と言われている聖墳墓教会。十字架がささっていたと言われる場所。
紀元前20世紀にヘロデ大王が作った神殿の壁、ユダヤ教の聖地嘆きの壁。
この2都市を観光した後バスでベツレヘムに向かった。
ベツレヘムは危険度レベル1でパレスチナだけど安全な街。
でもちょっと不安だったので、テルアビブとエルサレムではゲストハウスに泊まったけどここではちゃんとホテルを予約した。
ベツレヘムについてまずはホテルに向かった。
チェックインを済ませエレベーターの前に行くとThis Manに似たホテルスタッフのモタセムが荷物運ぶよと声を掛けてきた。
エレベーターの中でfacebookで友達になろうと言われ、断る理由もなかったので友達になった。彼はとてもフレンドリーに話しかけてきていい奴だなと思ったのとパレスチナということで少し緊張していた気持ちがほぐれた。
その日はその後、聖誕教会でイエスが産まれたと言われてる場所を見て、近くのカフェみたいなところで飲んだ後、聖誕教会のライトアップを見てホテルに戻った。
モタセムからのメッセージ
その夜ホテルに帰ってベットでくつろいでるとメッセンジャーにメッセージが来た。
誰からかと思ったら今日友達になったモタセムからだった。
私は英語が得意じゃないので、表現がよくわからないが、I miss youってさっきあったばっかやんけというのとハート連発してくるので、ちょっと違和感を覚えた。とりあえず当たり障りのない内容を返したところ
どういう事だ?オレを狙ってるのか?
LGBTの友達も周りに結構いるし友達としてはいいんだけど、私自身は女性が好きだし、パレスチナという異国で文化がわからないので部屋に訪ねてきたらどうしようと少し不安になってなかなか寝付けなかった。
結局朝まで何事もなく、朝はモタセムと普通に挨拶をして出かけた。
ヘブロンに向かう
この日はベツレヘムの街をぶらぶら歩いた。大学とかもあって普通の街だけど物価がエルサレムより全然安い。
また聖誕教会に行くと警備員が話しかけてきた。この警備員は日本に行った事があるらしく日本の話を色々聞いてきた。
これはチャンスだと思いヘブロンの事を聞いてみた。私は英語が苦手なのでなんとなくしかわからなかったが、とりあえず「ヘブロンは安全だ」と言っている事がわかった。
一度思うと行かないと気が済まないたちなので、ほぼ行く事は決まっていた気もするが、この言葉で明日ヘブロンに向かう事を決めた。バスがわからないと言ったら、明日ここへくればバス停まで連れてってくれるとの事。なんて親切な人だ。
次の日バス停に連れてってもらって、そこからマイクロバスみたいな小型のバスでヘブロンに向かった。途中止まった時に、銃を構えた兵士が車内に入ってきて乗客をチェックしていて、紛争は続いてるんだなというのを改めて実感した。
で、ヘブロンにきてみると、中心地は人が溢れててショッピングモールもあって拍子抜けした。雑多で安いファッションの店ばかりだったけど、雰囲気は心斎橋とかに近いなと感じた。
目的地のアブラハムモスクに向かって歩いてたら、写真撮ってくれと話しかけてきたり住民もかなりフレンドリー。
でもアブラハムモスクに近づくと警備が厳重になっていて、パスポートを見せないと通れないゲートがあったりする。
ゲートを通過したら背の高い痩せた男が話しかけてきた。彼はパレスチナの現状を知って欲しくて、外国人が来たら無料で案内しているらしい。ちょっと怪しいけどとりあえずついて行ってみることにした。
彼がいうには、ヘブロンはもともとパレスチナ人が住んでいたが、ユダヤ人が入植してきて嫌がらせを受けているらしい。
ヘブロンはヨルダン川西岸地区ではユダヤ人とアラブ人の対立が一番対立が激しい都市で、虐殺事件も起こっている。
彼はこの現状を日本に帰ったら広めてくれと言っていた。
入り口を石で防がれた家
この通りの家はもともとパレスチナ人が住んでいたらしいが追い出され、この道にパレスチナ人が入ると銃殺されるので誰も歩いてないという道。
一階がパレスチナ人の居住区になっていて、高層階にユダヤ人が住んでいて嫌がらせで上からゴミを捨ててくるのでネットでゴミを防いでいる道。
道の途中にはこんな落書きも
歩いてると子供達がパレスチナの国旗柄の腕輪を買ってくれと纏わり付いてくるけど、案内してくれる男が結構強引に追い払う。俺は学校の先生をしていてこいつらは生徒なんだと言っているが、本当なのか?
価格を聞いたら300円ぐらいだったので一個だけ買ってあげた。
痩せた男にカツアゲされる
一通り案内してくれたあと、お土産屋に行こうと言われた。
ついていくと、店の入り口で西洋人とパレスチナ人がお茶を飲んでいた。
お茶をすすめられ、座ると店員がfacebookを見せて、ダイスケを知ってるか?と聞いてくる。facebookをみると大阪に住んでるようだったがもちろん知らない。西洋人はヘブロンにしばらく住んでいるようで、先週撮ったというデモ隊が銃で撃たれている動画を見せてくれた。
そろそろ夜になるので何か買って戻ろうと思ったら、陶器をすすめてくるけどめちゃくちゃ高い。いらないというと案内してくれた男と西洋人と店員がめちゃくちゃプレッシャーをかけてきて、買わないと帰れない雰囲気を出してきた。
秋葉原でお姉さんが道行く人を勧誘して絵とか売ってるやつが思い浮かんだ。彼はさっきまであんないいこと言ってたのに、目的はこれかとショックを受けた。子供を追い払ったのも自分が金を得るためだったのか。
でも実際あまり金を持ってこなかったので、金がないというと一番安いマグネットで許してくれた。
この3個で約3000円のエルサレムの写真が印刷された、とても高いマグネットは今でも冷蔵庫の横で活躍している。
意気消沈して金を払うと案内してくれた男が急に笑顔になり、バスは大丈夫かと心配してくれた。現金なやつだw 時間を調べて伝えると、急がないとやばいぞと言ってバス停まで走って案内してくれた。
少しもやもやは残ったが、根はいいやつなんだなというのと、みんな生きるために必死なんだなと思い直して少し心が晴れた。
ベツレヘムで同じ過ちを犯す
次の日はベツレヘムでゆっくりしようと思い、STARBUCKSでコーヒーを飲んでいた。
パレスチナにはSTARS & BUCKSというパチモノのチェーンがあって、ベツレヘムにもあるが、聖誕教会の前にはちゃんとした?STARBUCKSもある。
このスタバはメニューや内装がオリジナルで、マグカップを2つ買うとコーヒーが無料という、こちらも本物か非常に怪しいスタバ。マグカップは今も愛用しているけどロゴがちょっと霞んでるし、裏は画質の荒い聖誕教会の写真が印刷してあるだけ。
ここで店員と仲よさそうに話していた常連ぽい男が声をかけてきた。
100NIS(3000円ぐらい)で俺の車でバンクシーとヘロデ王の墓案内してやるよとの事。
昨日の事もあるし不安にはなったが、痩せてて弱そうだし何かあっても大丈夫だろうと思って乗ることにした。
普通にヘロデ王の墓やバンクシーの絵を案内してくれて安心した。
金を払うタイミングで100NISを渡そうとするとこれじゃ足りないと言い出した。
ん?と思ってると、有り金を全部出せと言い出した。用心して最低限の金以外ホテルに置いてきたので、無いというとATMに連れてくからカードで降ろせと言い出した。
やっちまった。昨日人は信用できないと思ったのに、たった1日で忘れる自分のアホさ加減を悔やんだ。
体格を見て舐めていたけど、よくよく考えたらナイフとか銃を持ってるかもしれないし、溜まり場みたいな所に連れていかれる可能性も考えて、パレスチナという国をよく知らないぶん余計怖くなり、冷や汗が出てきた。
幸いカードも持っておらず、ホテルに行かないと無いと行ったらホテルまで行くという。
ホテルに着くとロビーで待つと言いだしたので、やべーと思って部屋に向かった。
部屋に向かう途中エレベーターでモタセムと会った。元気か?と聞かれたのでやばいと伝えると、俺が話すから部屋で待ってろと言われた。
しばらく経つと窓から男の車が去っていくのが見えて、モタセムから奴は帰ったというメッセージが来た。
このメッセージを読んだ時、ここ数年無いぐらい安堵して、モタセムにめちゃくちゃ感謝した。
私はモタセムに警戒心を持っていた事を恥じた。
2日間で人の善意は簡単に信用してはいけないという事と、本当の善意があるという事が学べて本当によかった。モタセムがいなかったら人間不信になって人の善意を全く信じなくなってたかもしれない。
モタセムはfacebookで反イスラエルの投稿ばかりしている。
パレスチナに行くとユダヤ人は酷いと感じる。でも紀元前からの歴史や、迫害されてきた歴史、1917年のバルフォア宣言におけるイギリスの三枚舌外交などイスラエルにも辛い歴史や騙された過去がある。
善意だけでは解決しない根深い問題だけど、パレスチナ国民にも幸せになって欲しい。
旅行から一年ぐらいしてモタセムから一通のメッセージが来た。
これは結婚相手を探しているという事なのか?
なぜ日本にいる私に聞くのか?
信じていいのかよくわからなくなったので、いいねマークを送っておいた。