【道元と宇宙】 9 道元の語録が2種類ある
2002年に永平寺で参禅する前から、
僕は道元に『道元和尚廣録』という
語録があることを知っていた。
道元の語録というと、
『正法眼蔵随聞記』が有名だが、
これは弟子がまとめたもので、
本人の語録は別にあると聞いて驚いた。
僕がそれを知ったのは、
文芸評論家の桶谷英昭の
評論集『天の河うつつの花』の中の、
寺田透への追悼文からだ。
寺田の『道元和尚廣録』の現代訳を
読んでみようと思い、
古書店に問い合わせると、
「そんな本、見たことも、聞いたこともない」
と言われた。
新刊書店に問い合わせると、
版元絶版で入手不可。
「ちなみにお値段は」と聞くと、
上下二冊だが、一冊2万4千円。
正直、買えなくてよかったと思った。
古書店のオヤジが
筑摩書房から聞いてきた話によれば、
寺田透は出版社泣かせ、
校正が四校、五校に及び、
コストがかさんだ。
それで初版は、
上巻800部、下巻700部だけ印刷し、
コストを割りかけして定価を決めて、
初版で絶版にしたのだという。
出版されたのは平成5年で、
活版の組版が、電子出版に切り替わるとき。
出版社が電子化を焦っていたという事情もあったらしい。
だがなぜ全国に1万以上ある
曹洞宗のお寺に営業しなかったのだろう。
そうすれば定価も抑えられただろうに。
富山県立図書館に蔵書されていたものを、
借りてきて一読したが、
道元が書き残したのは漢文白文。
それを寺田が読み下し、現代訳してある。
懇切丁寧な注もあったが、
文字通りチンプンカンプンで、
読んでもさっぱりわからなかった。
一方、道元の弟子の懐弉(えじょう)が書いたとされる、
『正法眼蔵随聞記』は、
岩波文庫で安価で手に入るし、安い。
仕方ない、弟子が記憶した道元の言葉に
触れてみるか。
そう思ってそちらを読んでみた。
ところが、
凡庸で、通俗的で、生ぬるくて、
鋭さの感じられない文章。
「道元は、この程度だったのか?」
と失望し、道元への興味を失った。
唯一、随聞記からいただいたフレーズは、
「無常迅速生死事大、
光陰空しく度るなかれ」
(むじょうじんそくしょうじじだい、
こういんむなしくわたるなかれ)
人生は短い、一生懸命に生きなさい。
悪い言葉ではないが、これも凡庸。
漢文で書かれていて、
中国の高僧の語録の格調高さを備えた廣録と、
日本語で書かれていて、
世俗的・日常的なことばかり並んでいる随聞記。
同じ著者が書いたとは思えないほど
根源的なギャップがあるのだけれど、
一度読んだくらいでは、そのことに気がつかない。
巷の道元論は、
道元研究家のものも含めて、
随聞記の記述を真に受けて
書いているものばかり。
廣録は読まなくてよいという決まりでもあるのか、
誰も廣録のことを論じない。
さらに、随聞記と廣録の比較をした先行研究は
どこにもなかった。
道元の著作をきちんと読み解いて、
随聞記と廣録を比較し、
道元が何を伝えようとしたのかを
解読する必要がある。
それが、僕に課された
前人未到の課題のひとつとなった。
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