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大谷哲夫編著『永平廣録 大全 』読書ノート(1)

 昨年夏に出版予告がなされていて、注文していた大谷哲夫編著『永平廣録 大全』がついに出版された。僕の家には6月8日に、「重たいですよ~」と佐川急便さんが届けてくれた。

道元研究の第一人者が長年月かけて生み出した

 さっそく第一巻から読み始めたのだが、なんといっても現代日本で道元研究の第一人者、もっとも実力があり、実績がある大谷哲夫先生が、長い年月かけて現代語訳した道元和尚の語録である。
 出典考証が精密でわかりやすいことと、随所に補注参究と名づけられたテーマ別の追加説明があり、すばらしく楽しい。この出典考証と補修参究が後ろについていて、本文は各上堂語の①読み下し文、②漢文白文、③現代訳、④語義解説である。
 僕は、これまで、寺田透の道元和尚廣録(筑摩書房)、鏡島元隆の永平廣録(春秋社)で現代訳を読んできたが、本書はダントツに正確である。大谷先生が、ご自分で考えに考えた結果が書き著されているので、訳がよくこなれていて、読みやすい。
 

卍山本と略録との齟齬も示されている

 道元和尚廣録には、異本がある。もっとも道元の意志を尊重していて、オリジナルに近いと考えられているのが、祖山本(門鶴本とも呼ばれる)の廣録。本書はそれをベースにしている。
 そのほかに、道元が示寂したあと、弟子の寒厳義尹が入宋して、75の上堂語を抜き出してまとめてもらった通称「略録」というのがある。これは実はたくさんの改ざんがあり、道元の意志を尊重していない。
 その略録を尊重したうえで、江戸時代に卍山道白が上梓した卍山本の「永平廣録」もある。
 『永平廣録 大全』は、祖山本をベースにしているのだけれど、カッコ書きを利用して、異本の内容を( )内に示すことで、無慚な改ざんの現実も読めるようになっている。
 上堂語のなかには、祖山本にはあるものの、卍山本にはないものがある。つまり、江戸時代に曹洞宗宗門が検閲によって隠蔽した上堂語がいくつか存在しているということなのだが、それが何について論じたものかも、わかる仕組みになっている。
 上堂語67がそれにあたる。「はっきりと言わせてもらうが、悟れない輩は、入門した時点でそれがわかる。諸君がそうだ」 なるほどこれは江戸時代の曹洞宗の宗門にとってみれば、自分たちの恥である。隠蔽工作するしかない。
 また、「眼横鼻直」という言葉は、略録の改ざんにしかない言葉で、祖山本永平廣録には存在していない、つまり道元の言葉ではない。 


教外別伝も道元の教えではない(本文より)

道元の本当の教えに触れることができる

 道元が上堂語として残した言葉を解説と現代語訳を交えて読みながら、道元本人と対話することができるのが本書の特徴である。
 
 まだ読み始めて三日目で、上堂語75までしか読み進んでいないのだけど、仁治二年(1241)に日本達磨宗が宗派をあげて道元に弟子入りしたあとで、道元が行った上堂語のなかに、日本達磨宗の弟子たちへの批判や疑問や皮肉がたくさん混じっていた(ほとんどそればかりという感じ)ことに気がついた。これはオモシロイ。

 一日一回、その日の読書で感じたことを、これから報告していこうと思う。



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