秋の雨
部屋の中で聴く雨音は
規則正しくて儚げで冷たい印象がある。
自分の心に開いている穴が、どうしたら埋められるのか分からない夜は、どうやったら越えられる?
古いスピーカーから流れるクラシックも、洒落たジャズだって今の自分にはあまり似合わなくて。
ガラスの中でハイボールが氷を溶かして乾いた音を立てた。
忘れられない人がいる。
今となっては、どこが好きだったのか思い出せない。
真夜中の12時ごろ、丘の上から一緒に見下ろした夜景は、宝石箱の中身みたいだった。
鼻につくタバコの匂いも、空中に上がっていく煙の形も、全部ちゃんと覚えてる。
わたしは大人になったから、いつでも君を忘れる準備はできてるよ。
どうしようもない虚しさを秋の風が運んで行ってくれることを、どのくらいの人が期待しているかな。
心の中に宿ってる悲しさに気が付いているから、人は金木犀に取り憑かれる。
同じ季節の中に居られるだけで、さほど遠くはないのかもしれないってことに
自ずと気がついているからかもしれない。
忘れたいとは思わないから、
いつか、
忘れたいと思っていたことすらも
忘れられたらいいな。って。
いろんな人の寂しさを乗せて、もうすぐ白黒の冬がやってくる。