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『翁』正月特別公演

 新年あけましておめでとうございます。昨年は日本だけでなく、世界中で、災害、事故、戦争、政変と様々なことがありました。
 日本の伝統、歴史などの良さに気付くことができるのも素晴らしいですが、世界の素晴らしさを知ることができるような平和な世の中であって欲しいものです。
 
 おそらく昔の人もそういう厳粛な思いと、そして新年の目出度く、うきうきした思いを皆で愉しむために、お正月には猿楽や能などを楽しんだのではないでしょうか。
 あまりお正月以外では観ることができない『翁』。今回はなんとかチケットを取ることができましたので、行って参りました。初めて観るのでどんなものなんだろうと楽しみにしていました。

『翁』は五流それぞれがありますが、今回は観世流です。
 演じる能楽師の方も流派によっていろいろなしきたりがあるようです。

「翁」は舞台上演前に始まります。「翁」を勤める役者は、上演前に一定期間、精進潔斎の生活を送り、心と体を整えて舞台に臨みます。
上演当日は、多くの場合、舞台上部に注連縄(しめなわ)を張って場を清め、鏡の間には祭壇を設け、使用面を納めた面箱、神酒(みき)などを供えて儀式を行います。

『能・演目事典』翁

 それぞれの流派で少しずつ異なりますが、だいたい謡いはじめは同じです。

 とうとうたらりたらりら、たらりあがりららりとう

『翁と観阿弥』角川学芸出版

 きっと何かの呪文なんでしょうね…平安時代以前の修正会、修二会(有名なのは東大寺のお水取り)ではすでに「翁」が演じられていた、と言われているので、その始まりは歴史の遥か彼方です。

 村上天皇は申楽をもって天下泰平の御祈祷とするべきだと御考えになりーその時代、例の河勝がこの芸能を伝えた遠い子孫に秦の氏安というものがあって、それがー六十六番の申楽を紫宸殿で演じた。そのころ紀権守という人
があって、才智にすぐれていた。この人は、氏安の妹婿であった。これも、氏安と共に申楽を奏した。
 その後、六十六番もとうてい一日では演じきれないというので、その中から選んで、稲積の翁〈翁面のこと〉・代経の翁〈三番申楽のこと〉・父の尉と、この三番を定めた。現代の式三番というのが、これである。つまり、この三番は、法身・報身・応身の如来を象徴するものである。

『風姿花伝・花鏡』 世阿弥
タチバナ教養文庫

 翁面は、宮崎駿氏の『千と千尋の神隠し』で、”オクサレ様”として出てきた神様の最後に顕れる姿が、印象的ですよね。
 
 千歳の舞で始まります。

鳴るは滝の水、鳴るは滝の水 日は照とも

『翁と観阿弥』角川学芸出版

 次いで、面を付けた翁の舞。

 総角やとんどや 尋ばかりやとんどや

『翁と観阿弥』角川学芸出版

いつも見る能の舞の型と全然違うのでびっくりしました。また、小鼓、大鼓の数や打ち方、地謡も違う。これが申楽、つまり能の原型なのでしょう。ずっと伝承されてきた舞楽やダンスというのはやはり興味深いですね。
 

 最後は三番叟。これもまた不思議な舞でした。所作は田植えに見えました…種を蒔いて、それを祈祷しているのでしょうか。

 この三番叟、伊豆半島の多くの神社で伝承されているそうです。人間が演じるだけではなく、人形が演じるものもあるとか。
 


 これは、徳川家康に重用された大久保長安が伊豆へもたらしたと言われています。
 大久保長安は、もともと金春流の狂言方の出身で、大蔵大夫家系図にもその名がある猿楽師でした。父とともに、甲斐武田家に猿楽師として仕えたようですが、その才覚で出世。武士として重用されましたが、武田家滅亡とともに徳川家へ武田残党とともに召し替えとなりました。以後、江戸幕府初期に金山奉行として、石見、佐渡、伊豆の金山経営を任せられ、その才覚で江戸繁栄の土台を作ったと言われます。死後に名誉を傷つけられ、近代まで逆賊として歴史の彼方に葬られていましたが、近年、その研究が進んでいます。彼もまた、秦氏の末裔であるという伝説があり、芸能的にも研究が進んで欲しいです。(『大久保長安に迫る』揺籃社ブックレット10)

 後半の、狂言『宝の槌』や、能『吉野天人』は前日の夜更かしがたたってほぼ傾眠状態でした…申し訳ない…

 『翁』で新年を始めることができましたので、今年は良いことがありますように。