
【詩】記憶の中の金魚
(はじめに)
皆さまは、生き物を飼ったことがあります
でしょうか。現在では「ペット」という言い
方よりも「家族」と表現したほうが相応しい
のではないでしょうか。愛情を注げば注いだ
ぶん、いいえ、それ以上にかえしてくれる。
今回はそんな作品を書きました。
記憶の中の金魚
ピシャリ
水面をたたく音
記憶の中で息をする
その金魚は
暖かいところ 冷たいところを
熟知しているようで
ときおり 顔をのぞかせては
――だいじょうぶ と言わんばかり
飼い主だった わたしの前に現れる
きまって 下を向いて歩くとき
こころの奥で ひるがえる
魚の動きを感じては
まだ 飼っていることに気づかされる
夏祭り
縁日の屋台で手に入れた
いっぴきの金魚には
大きすぎる水槽で
五百円玉ほどの小さないのちは
尾ひれを優雅に揺らめかせていた
(長くは生きられなかった)
水面をたたく音がする
微かに聞こえる音量で
ちょっぴり顔を出し ふたたび潜る
以前に比べ
切れが悪いように思うのは
記憶の中でも年をとるのか
澄んでいた目玉は確実に
白く濁りを見せている
還るべき場所があるはずなのに
水草もない ろ過装置もない
わたしの中だけで生き続けるのは
飼い主としての責任を
果たしていないことになるのだろうか
わたし自身でわたしの殻を
破ることができたとき
金魚は記憶の水流を 勢いよく
成仏に向かって泳ぎはじめる
……………・…………・…………・…………
小々露 さま。
イラストお借りいたしました
…………・…………・…………・…………・
(ちょっとだけ解説)
子供の頃、金魚を飼っていました。学校か
ら帰ってくると、ごはんを与えるのが習慣に
なり、嫌なことがあった日、こころにふぁっ
と冬の日溜まりのような温もりをくれる存在
となっていた気がします。水槽に顔を近づけ
眺めていますと、いつの間にか情は膨らみ、
魂の交流する瞬間があったのかもしれません。
情は、巡りめぐってかえってくる。ちょっ
とだけ信じてみるのも素敵な時間の過ごし方
だと思います。
お読みくださいまして、ありがとうござい
ました。