見出し画像

塩、にがり、製塩法、焼き塩について

4種類の塩の原材料

塩は大きく分けて以下の4つの原材料から作られます。

1.岩塩
採掘された岩塩。ヨーロッパ・北アメリカなどで行われています。岩塩の製法は、溶解採掘法と乾式採掘法があります。溶解採掘法は一度水に溶かし、煮詰めて塩を取り出す方法。不純物が少なく欧米では食用として一般的に用いられる製法。一方、乾式採掘は直接掘り出す方法で、不純物が混じりやすく、また硬いので食用には適さないが、ヒマラヤ産などの結晶が大きく塊で取り出せるものの場合、そのまま風味のある岩塩として食用に用いられます。

2.海塩(天日塩など)
海水からとりだした塩。西ヨーロッパ、メキシコやオーストラリアなどで行われています。海塩は、主に天日製塩法。この製塩法は、海水を塩田に引き込み、1 - 2年ほどの期間で塩田内の細分化された濃縮池を巡回しながら太陽と風で海水を濃縮していき採塩池で結晶化した塩を収穫する方法です。アメリカの一部の州や韓国では好塩菌混入などの問題から天日塩の直接の食用使用を制限し禁止しています。処理法として海塩を焼成(しょうせい)して焼塩として食用に供する方法もあります。

3.湖塩
塩湖が干上がって出来た塩類平原などから採取する塩。ボリビアのウユニなどで採取されています。

4.井塩(山塩、地下塩水塩)
大陸の内陸部である中国四川盆地富順県、古代に苦灰統海という塩湖があったドイツなどで、塩を含んだ塩化物泉の温泉・地下水からの製塩(塩井)が行われ、井塩(せいえん)が製造されています。日本では、福島県の大塩裏磐梯温泉や長野県の鹿塩温泉などで小規模ながら温泉から製塩が行われています。

その他
灰塩。 雨が多い地域や内陸部で見られる塩分を含んだ海藻や植物を焼いた灰から塩分を採取する方法。藻塩焼き。

世界の塩の生産量は2008年で2億650万トンと言われており、そのうち天日塩が約36%。

にがり

「にがり」とは、漢字では苦汁、滷汁と書きます。海水から塩を採るときにできる残りの液体です。にがりは、文字通り、苦い。主成分は、塩化マグネシウム。その他の成分は、ナトリウム、カリウム。ちなみに「にがり」は英語では「bittern」または「brine」。

塩化マグネシウムとは、マグネシウムの塩化物。無機化合物であり、化学式は、MgCl2•6H2O。潮解性(ちょうかいせい)があります。

潮解とは、物質が空気中の水蒸気をとりこんで自発的に水溶液となる現象。 結晶表面に微小体積の飽和水溶液があり、その飽和蒸気圧が大気中の水蒸気圧より小さいときに起こります。大気中の水蒸気が飽和水溶液表面に取り込まれ、飽和水溶液が薄まります。しかし結晶の物質量は十分に大きく多少の水が結晶を溶かしても結晶が溶け尽くすことはありません。したがって飽和水溶液の量は増え続け、やがてすべての結晶を溶かし、さらにその溶液の水蒸気圧が大気中の水蒸気圧と等しくなるまで薄まっていきます。そうなると、それ以上の水の吸収は停止します。
潮解性のある物質
クエン酸 (C6H8O7)、水酸化ナトリウム (NaOH) 、炭酸カリウム (K2CO3)、塩化マグネシウム(MgCl2) 、塩化カルシウム (CaCl2)。市販の乾燥剤は、塩化カルシウムを主体とし、空中の水分を吸収して生じる飽和水溶液が下部の受器にたまるようになっています。そのため、いつも結晶表面が露出するので吸湿能力が一定。この種の乾燥剤は、密閉性の高い空間においては効果を発揮するが、開放的な空間の除湿には効果が薄いそうです。塩化カルシウムは、化学式 CaCl2 で示されるカルシウムの塩化物。

話は、塩化マグネシウムにもどり、これは飲みすぎると下痢になります。

にがりは、食品添加物です。しかし食品添加物には、天然の動植物から加工して作られるものと化学合成で作られるものがあり、よく「添加物」と言われているのは、この化学合成で作られたもの。天然由来の食品添加物は、食品衛生法では「既存添加物」と呼ばれています。既存添加物には、にがりのほかに、かんすい、活性炭があります。

粗製海水塩化マグネシウム

にがりは、食品衛生法(日本において飲食によって生ずる危害の発生を防止するための日本の法律)では、「粗製海水塩化マグネシウム」という名称で、既存添加物として載っています。おもしろいことに、豆腐の凝固剤と食用塩の材料につかわれるときのみ「粗製海水塩化マグネシウム」のあとに、「(にがり)」と付記して良いことになっています。

豆腐の凝固剤には、にがりのほかに焼石膏やグルコノデルタラクトンが使われることがあるようです。

用途

たけのこなどのアク抜きに使われます。

製法

天日採塩法で塩を得る場合、完全に水分を蒸発させると出来上がった塩にマグネシウム分が多く残って苦味が出てしまいます。塩化マグネシウム(にがりの主成分)は塩化ナトリウムより溶解度が高いので、塩化ナトリウムが析出(せきしゅつ)したあと、まだマグネシウム分が結晶化してしまう前のタイミングで塩を収穫すます。収穫した塩は湿っているので、これを高床にした小屋に運び込むとマグネシウム分に富んだ水分がにがりとして床下にしたたり落ちます。日本では、1972年にイオン交換膜法による製塩に切り替わるまで煎熬採塩法が広く行われていました。この場合は鹹水(「かんすい」塩分を含んだ水。海水など)を煮詰めて析出した塩を採った残りの液体としてにがりが得られます。なお、出来上がった塩にもマグネシウム分が含まれているので、これを叺(かます)などに詰めて置いておくとにがりがしたたり落ちてくきます。

画像1

叺(かます)
袋の一種。「かます」は蒲簀の意。藁蓆(わらむしろ)を二つ折りにし、相対する2縁を縄で縫い閉じて、輪を底部とし、袋状としたもの。

National Institute of Korean Language - https://krdict.korean.go.kr/eng/dicSearch/viewImageConfirm?nation=eng&searchKindValue=image&ParaWordNo=15371&ParaSenseSeq=1&multiMediaSeq=1, CC BY-SA 2.0 kr, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=61544000による

にがり成分をしたたり出させる工程を「枯らし」といいます。塩を2、3年に渡って枯らした塩は珍重されました。今日では伝統的製法を謳う食塩でも「枯らし」を行うものはほとんどないようです。多くの製品は海水を加熱して煮詰めることで結晶化させ、遠心分離でにがり分を除去しています。現在のにがりは、煮詰めて塩の結晶を除いた残りの液体と、遠心分離機で分離される液体を混ぜ、濃度を調整して製造するものが多い。海水加熱法では硫酸イオンが残り、カルシウムは硫酸カルシウムとして凝固してしまいます。この場合のにがりの成分は、マグネシウム、ナトリウム、カリウムの順の陽イオン含有量となる。イオン交換膜法では、硫酸イオンが除去され、カルシウムイオンが残留します。

天日採塩法

製塩法のひとつ。塩田(えんでん)にためた海水を太陽熱と風で濃縮し、塩を結晶させる方法です。雨量が少なく、空気の乾燥している地方に適しあ製塩法。天日法。日本は多雨多湿なため、採用しにくい製法。広い土地がつかえる海外では、海水を陸に引き込んで1、2年放っておけば塩の結晶が採れます。

画像2

インド、タミル・ナードゥ州の塩田
Sandip Dey, CC 表示 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=22577934による


煎熬採塩法

煎熬採塩法(せんごうさいえんほう)。採鹹塩田。鹹水を生成するための塩田を採鹹(さいかん)塩田といいます。日本の塩田は、歴史上すべてが前述の採鹹をおこなうためのもので、煎熬(せんごう。煮詰めること)して塩を得るための釜があわせて設置されていました。海岸に設けられたこれらの施設は、古くは「塩浜」と呼ばれた。日本語における「塩田」という言葉は、明治以降、登記上の地目(ちもく)として塩浜を「塩田」といったことに始まります。この製塩法の成立期には、日照時間が比較的長い地域(瀬戸内地方や能登半島など)で大きく発達しました。古くは農家の余暇の副業として自家労働によって行われ、煮詰め用の製塩釜は多くは共同使用でした。次第に需要が拡大し、事業規模が大きくなってくると、製塩は専業化し、やがて一軒前(「いっけんまえ」。江戸時代の塩業において海水(鹹水)のくみ上げから一貫した塩田での製塩作業が可能であった生産者)とよばれる一貫生産体制を導入する大手業者が出現しました。そのような業者のもとでは、「釜屋」という鹹水を煮詰めるための専門施設が塩戸(作業単位)ごとに1戸付属していました。

気温が低く日照時間の短い冬場などにおける大量生産は長らく困難でしたが、枝条架装置(流下式塩田)の開発によって天候や季節、自然現象などにある程度は左右されなくなりました。

画像3

流下式塩田の例(赤穂市立海洋科学館の復元塩田の枝条架)
663highland, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36804264による

1972年からは、イオン交換膜を用いた電気機械による製塩が主流になります。

イオン交換膜法

イオン交換膜法(いおんこうかんまくほう)とは、「塩を特別にすくいあげることのできる膜」を使い、海水から「塩の成分だけを取り出す」方法です。海水中の塩は、「塩素イオン」と「ナトリウムイオン」という電気を帯びた粒になっています。イオンには、プラスかマイナスの性質があり、プラスであればマイナスの電気に、マイナスであればプラスの電気に引きよせられます。塩素イオンはマイナス、ナトリウムイオンはプラスの性質があるので、海水に電気を流すと、ナトリウムイオンはマイナス極へ、塩素イオンはプラス極へ移動します。この性質を利用したのが「イオン交換膜製塩法」です。


大きな容器の中に海水を入れ、プラスイオンしか通さない膜とマイナスイオンしか通さない膜を交互に置きます。 ここに電気を流すと、塩素イオンとナトリウムイオンは、それぞれが逆の方向に移動し、膜に止められます。すると図のように、膜と膜との間に濃い塩水ができる層と、薄い塩水の層とに分かれるのです。 これで濃い塩水がとれます。 この海水を、従来の平釜より効率のよい真空蒸発釜で煮詰めて作られるのが、食塩です。この膜が「イオン交換膜」です。

日本ではかつて水銀法と隔膜法が使われていたが、それぞれ人体に有害な水銀とアスベストを使っていたことから、水銀法は1986年6月、隔膜法は1999年8月に姿を消し、これ以後すべてイオン交換膜法となっています。

「イオン交換膜製塩法」を行ったのは、日本が初めてでした。 現在でもこの方法を用いた製塩方法は、日本と韓国くらい。天候に左右されず、24時間製塩していられるため安く、また、安定的に純度の高い塩が作れる合理的な製法。


藻塩焼き

古代の製塩法。藻塩焼きは『万葉集』等に「藻塩焼く」などと表現されているところからこう呼ばれています。しかし、その実態ははっきりとわかっていませんが、藻を海水の濃縮工程(海水のついた藻を天日に干し、その上から海水を注いで表面に析出した塩を海水で溶かす)に利用したものとする説が有力です。宮城県の御釜(おかま)神社では、毎年7月に「藻塩焼神事」(もしおやきしんじ)が行われ、その製塩法を現在に伝えています。


塩専売法

1905年(明治38年)の創設以来、塩の需給と価格の安定に寄与してきた塩専売制度。1997年に廃止。現在は『塩事業法』という法律のもと、原則自由の市場構造へと移行しています。

1905年 塩づくりの原料を海水に頼る日本では、古くから塩浜法が行われ、江戸時代には瀬戸内に入浜式塩田が発達し、全国の約8割の塩を生産していました。

明治の開国後は、日本の塩も国際市場の影響下に入り、品質に勝り低価格な外国の塩への危機感も高まり、国内塩業の育成・保護するため、製塩技術の改良や価格の低廉化が急務となりました。日露戦争(1904–1905年)のための膨大な戦費の調達に苦慮した明治政府は、国内塩業の基盤整備と財政収入を確保するために塩の専売制導入を検討し、1905年6月から塩の専売制度を実施しました。

1919年になり、塩が生活必需品であり塩価を低く抑えなくてはならない反面、その生活税的な性格は国民生活に苦痛を与えるとして廃止論も出されました。

種々の論議の結果、国内製塩業のさらなる育成を図る一方、生命の糧である塩の価格をできるだけ低廉にし、安定して国民に供給することを主眼とする制度に改革することになりました。塩の専売制度は、収益主義を捨てて「公益専売」として再出発し、1997年の塩専売制の終焉まで引き継がれました。

1985年、たばこの専売制が廃止され、日本たばこ産業株式会社が発足しました。塩事業は、日本たばこ産業株式会社に置かれた塩専売事業本部によって専売制が継続されました。

行政改革・規制緩和への流れの中で、1989年、大蔵大臣からたばこ事業等審議会に対し「今後の塩事業の在り方について」の諮問(しもん)されます。1995 年、その答申(とうしん)が大蔵大臣に提出され、専売制の廃止し、原則自由の市場構造への転換が図らます。1997年4月、92年間続いた塩専売制度は廃止さました。


岩塩

画像4

Didier Descouens - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6896661による

岩塩(がんえん)は、鉱物として産する塩化ナトリウム。岩石名でもあります。海底が地殻変動のため隆起するなどして海水が陸上に閉じ込められ、あるいは砂漠の塩湖で、水分蒸発により塩分が濃縮し、結晶化したもの。この現象はアメリカのデスバレーやボリビアのウユニ塩湖のように現在でも見らます。

岩塩は他の岩石より軽いため、地層の圧縮を受け絞り出されるように地層中で岩塩栓あるいは岩塩ダイアピルと呼ばれる盛り上がり構造をつくります。この構造の近くで石油が溜まりやすい。

岩塩の多くは無色または白色に近い淡い色をしていますが、産地によっては青色、桃白色、鮮紅色、紫色、黄色などの様々な色を有します。こうした岩塩の結晶の色は、ミネラルや硫黄、有機物の混入や、地層中で長期間にわたって放射線を浴びることによって生じた格子欠陥などによる一種の構造色です。そのため水に溶かしても無色。

岩塩の用途

食品や工業原料、また彫刻素材やシャンデリア材料として用いられます。世界中で産出される岩塩の約半分は、ヨーロッパ、北米で融雪剤として使用されます。赤外線を扱うレンズやプリズムにも利用されます。

焼き塩

焙烙(ほうろく)やフライパンで煎った食塩。焙烙とは、素焼きの土鍋の一種。炮烙・炮碌とも書き、炒鍋(いりなべ)とも言います。

焙烙

精製度の低い食塩には塩化マグネシウム(にがり)が含まれ、吸湿性や苦味があります。煎ることにより水分が飛び、塩化マグネシウムは酸化マグネシウムに変化します。酸化マグネシウムは吸湿性がないため、食塩はさらさらした状態になり、苦味もなくなります。食塩の精製度が高いものや、固結防止のために炭酸マグネシウムを添加したものは焼き塩にする必要性はあまりありません。赤飯にかけるごま塩に用いるほか、食卓塩としてサラダにかけたり、てんぷらのつけ塩などに使います。


参照










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?