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結婚、そして苗字とか問題

マリッジサーティフィケート

新しい年を迎える頃にはつわりもようやくおさまる。DDのお母さんに作ってもらった滋養たっぷり、牛だしのワカメスープをいただいてようやく肉を食べられるように。韓国では産後にワカメスープを飲むのが伝統。産前産後の母体に必要な栄養がたっぷりらしい。何よりこころ遣いが染みる。ちなみに韓国人が誕生日にワカメスープを飲むのはこのときのお母さんに敬意を表して、ということらしい。

と、実はわたしたちこの時点で結婚はしていない。わたしはバツイチ子連れでカナダに住んでて、親権のこととかで簡単に結婚して一緒に住むというわけにはいかなかった。ケンカして一回別れて、ヨリ戻してから妊娠して、とまあいろいろあったのだけど、このすべてがあったからお互いのこともっと理解できるようになったし、大切にできるようになった。子供ができなかったらどうなっていたのかな、と思うところはあるけど自然な流れで入籍することになった。

北アメリカでは婚姻関係にないカップルが子供を持つのは一般的なことで、産まれる前に入籍しなくては!という日本のような慣習はないのだけど(カナダではコモンローといわれて普通のカップルと法的にほぼ同等に扱われる)、そこは保守的なキリスト教コリアンアメリカン、けじめ、大事らしい。
そして両親には妊娠を報告したのにわたしの子供たちにはいまだ伝えていない。キリスト教徒として子供には順番を守ってもらいたい、先に赤ちゃんができてもいいと思ってほしくないからまず結婚してから教えるとDDがこだわったから。
そんなこと言ってるうちにお腹がだんだん目立ち出して、子供から妊娠してるみたい、とか言われるように。これ以上隠し通せないし、子供たちの学校の都合もあるから2週間後にアメリカで入籍することになった。

式は子供が産まれて落ち着いてから日本で挙げよう、とりあえず市役所で入籍して家族だけでささやかにお祝いしよう、というのが当初の予定だった。それがやっぱりお世話になってる牧師さんに頼みたい、ということになってそしたら親しい友達も呼びたいとどんどん話が大きくなっていく。結局それって式じゃないのか。

州ごとに違うのかもしれないけど、DDの住む州ではまずシティクラークでマリッジライセンスを発行してもらわないといけないらしい。予約はオンラインで簡単にできて、わたしのマタニティヨガクラス後、ゆる〜い格好でシティクラークへおもむく。
普通の市役所だね、と思って中に入ったらあら?ここは一体どこなの?ウェディングドレスにタキシードの超華やかな男女がズラッと長いホールに居並んでいる姿に圧倒される。モデルみたいなゴージャスカップルもゾロゾロ。スタイリッシュなパンツスーツとか子連れでバッチリ決めてる人たちとか、なんとも目に楽しい。年明けだったからまだクリスマスツリーも残っていていっそうフェスティブで中と外とで別世界だった。そう言えばドラマなんかで見たことあるなあ、こういうことだったのか。こんなことならもっとおしゃれしてくればよかったよ…。

番号を呼ばれて受付へ。事前にオンラインで入力した項目の確認とあらためて細かい質問を受ける。二人ともバツイチなのでそれぞれ離婚証明書も提出。そして婚姻後の姓をどうするか問題。ここに来る直前まで相当悩んだ。変えるか?変えないか?

苗字、変えるか変えないか?

前の結婚のときは迷わず変えなかった。日本で外国人と結婚する場合、基本的に姓は変えられない。なぜなら日本国籍のない外国人は配偶者の戸籍に入れないから必然的に妻の姓も名乗れない、当然妻が夫の姓になることはない。だからそもそも手続き自体が婚姻届の提出であって、入籍ではない。それでも変えたい場合は家庭裁判所にわざわざ別途届けなければいけないらしい。外国人パートナーを持つ人のほとんどが苗字を変えているので、まさかみんなこんな煩雑な手続きをしてまで相手の姓になりたかったのか!と驚いたのを覚えている。

子供の苗字は二人の苗字をハイフォンでつなげたものにすることで合意していた。将来子供が学校に行くようになったら母親と子供の名前は同じだった方がいいと知人から聞いたとか、DDは変えて欲しがってるのが伝わる。わたしの意思を尊重するとはっきりとは言わないけど。ちなみにカナダでは子供と苗字の違うお母さんなんて普通で、わたしもそうだけどまーったく不都合を感じたことはない。それでも印象としては合わせ苗字よりは父親の姓を名乗る子が多い気がするのはやっぱり父権有利の慣習があるのかなあ。

自分の苗字に特段の愛着があるわけではなかったし、子供の頃から結婚したら姓が変わるもんだと刷り込まれてた。でもいざ結婚となったら変えることにものすごい抵抗があったし、離婚したことを差し置いても変えなくて本当によかったと思っている。なんでこっちが合わせなきゃいかんのよ。なんなら結婚しなくてコモンローにしとけばよかったという後悔はある。
だから今回も入籍にこだわる必要はなかったのかもしれないけど、アメリカではコモンローの法制度がないこと、彼が保守的なキリスト教徒ということもあって結婚というかたちを取ることに同意した。
それでもさすがアメリカ人、プリナップ(婚姻前契約書)はしっかし交わしましたわ。基本的にメインは婚姻前の財産目録で、離婚してもこれらの財産の分与はありません、という合意でしっかりしてる。

結局窓口に来ても決めていなかった。察したDDが窓口の人に気が変わったら変更できるのか聞いてくれる。今日はマリッジサーティフィケートの交付で、実際式をやったらあらためて届けが必要なので、そのときに変更することも可能よ、と言われる。

わたしが選んだのは、ハイフォンでつなげる新しい姓。長いし響きもいいとは言えないのだけど、新しい人生が始まるのに合わせてせっかくなら新しい姓を名乗るのもいいと思ったのだ。日本とカナダでは旧姓のままだし、アイデンティティを保てるというか、複数持って使い分ける感じ?あくまで完全に相手の姓に変わるわけではないということが重要だった気がする。どちらの名前もリーガルネームなわけで、どこにいたってどっちも間違いなくわたしの本名なのだ。

だったら相手も同じこと。DDはすでに英語表記でハイフォンの入る韓国名のファーストネーム、英語のミドルネーム、そしてファミリーネームだから、それにわたしの苗字をハイフォンで入れると長すぎる、仰々しすぎると言って変えなかった。それももちろん個人の選択だからとやかくいうことはないのだけれど。フルネーム名乗ることとかそうそうないだろ、長くて何が悪いのか。わたしだけ変えるんかい、というのにやっぱり引っかかるものがある。

ドレスがない

2週間前にも関わらず、いつも週末貸切パーティーなどで賑わうDDの家の近所のビストロバーを奇跡的に会場として押さえることができた。牧師さんやフローリストさん、カメラマンさんや美容師さんはDDの馴染みの方々にお願いし、快く引き受けてもらう。だけどドレスがない。そして指輪もない。

こちらではウェディングドレスは購入が基本。いまさら店舗を回る時間もないし、オンラインしかないだろう。メゾンのため息の出るような素敵なドレス、誰が着るの、この価格。手頃だけど安っぽく見えないラインのドレスを何着かオーダーする。が、このとき妊娠15週、式を挙げるのは17週。目立たないとはいえ、今まで履いていたパンツがだんだん窮屈に感じるようになっていた。果たしてサイズを上げるべきなのか、それともデザインで誤魔化せるか。
届いたドレスたちはどれもざんざん。ブカブカ、長すぎ、お直しする時間もない。胸の空いたデザインも挑戦してみたら、次女から「おかあさん、そのドレスを着るにはトゥーフラットよ」とダメ出しされる。全部返品。

それにしてもGoogleとかFacebookとかすごいですね、さっそくわたしがウェディングドレスを探していることを察知して、広告がそればかりに。その中でたまたまインスタの広告に現れたドレスが目に入る。ミディ丈だから裾切る必要がなさそう。ここまでの失敗でまだサイズを上げるほどではないということが分かったのでジャストサイズをオーダー。ウェストラインのくびれたスタイルではあったけどちょうどお腹の部分をカバーするように大きなフリルがあしらわれたデザインだったのでなんとかいけそう。そして広告モデルの膝下丈はわたしのふくらはぎ丈だったけど、お直ししないでこのままでいけるからよし!

指輪もない

交際が順調だった頃、サトミカワキタというハンドメイドの素敵なジュエラーのリングをお店で見つけ、連絡を取って工房まで下見に行った。DDはシンプルだけど個性的、あたたかみがあるデザインが気に入って、絶対これ、というモデルとサイズも確認していた。わたしも小さなダイヤがぐるりと一周する華奢なデザインのリングに惹かれた。
が、その後いろいろあって婚約破棄という事態になって結局オーダーすることはなかった。それを今、急遽連絡を取り在庫を確認してもらう。ラッキーなことにDDのリングは在庫がある。わたしの方はサイズがない。今からオーダーしても2週間では間に合わないのでサンプルを貸し出すことはできると言われるが、うーん、何かやっぱり違うかも。

工房を訪れてジュエラーの女らしく繊細な世界観に魅せられたのだけど、果たしてアラフォーのわたしに似合うんかい。20代だったら即決だったけど、やっぱり今は違うかな…。わたしの個人的な解釈だけど、華奢なジュエリーは女の子をもっとか弱く、守ってもらう存在に見せてしまう気がする。20代のわたしはそういうものを求めていたんだと思う。でも今はそういうのはいらないの。でもゴツくて強く見せてくれる戦うジュエリーももういらないかな。強くなくていいし、弱くなくていい。わたしにずっとしっくりくるものがいい。

なんて言ってたら結婚式前日。老舗ジュエラーの路面店に入り、奇跡的に自分サイズのリングに巡り合う。なんの装飾もないシンプルなデザインだけど、深みと華やかさのあるローズゴールドの色味が気に入った。よし、これにするわ。
結局ブランドも素材もてんでバラバラのリングになったけど、なんとなくマッチしてるし、満足。

結婚する

前の結婚では結納も式も新婚旅行も、両親顔合わせさえしなかった。まさかこの歳でドレスを着てバージンロードを歩き、牧師さんの前で誓いを交わし、指輪の交換をするなんて…。特に憧れやこだわりがあったわけでもなく、流れるままだったけど、結果的にとてもいい式になった。急だったにも関わらず50人くらいの人が集まってくれて、二週間前に決めたにしてはかなりうまくいって誰もそのことに気づかないくらいだった。

つわりで3キロ痩せたのでフェイスラインもスッキリ。東洋医学では髪や肌を潤すのは肝の血と考えられていて、生理の血と同源。妊娠中生理が止まることによって血がお肌や髪を潤す方にまわってくれるので何もしなくてもツヤツヤに。普通結婚式前にエステに行ったりダイエットしたりするんだろうけど、結果的に妊娠が天然エステになった。

子供たちには結婚式翌日、妊娠をアナウンス。結婚したとたんに赤ちゃんができるという印象を与えて衝撃だったみたいで、こんなんでいいのか?と疑問。日本より性教育とか進んでると思ってたけど、分断のアメリカ、保守層は日本より保守的だ…。






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