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どうする、出生前診断


2回目のアポ、出生前診断

はじめての超音波検査を受けた翌週、2週間ぶり、2回目のミッドワイフとのアポイントメント。今回もアマンダでハキハキ、サクサク進めてくれて頼もしい。胎芽と心拍を確認できたから安心していいと言ってくれてホッとする。前回の面会ではまだ始まってなかったつわりだけど、このときにはもうけっこう辛くなっていた。それでも上の子ふたりの妊娠時よりはマシだけど…。弱音を吐くと、薬を処方できるという。え、いいの、妊娠中に薬飲んでも?ドキラミン・ピライドキシンという薬でドキラミンは抗ヒスタミン剤で、ピライドキシンはビタミンB6のことらしく、妊娠中でも安全らしい。薬を飲むまでいかなくていいかな、と思ったけど念のため処方箋だけはもらっておくことにした。

そして聞かれたのが出生前診断について。わたしの住むオンタリオ州では血液検査と超音波検査を組み合わせて遺伝子疾患をスクリーニングするコンバインドテストが保険でカバーされ無料で受けられるという。
ちなみにカナダでは妊娠出産にかかる費用は全て健康保険でカバーされ無料。なので医療費を抑えるために日本に比べ通院回数や超音波検査を受ける回数は最小限となっていて、最初に行った病院で3ヶ月まで診察、検査なし、というのも本当のところ文句は言えない。妊娠が確定するまで自費だった日本に比べてありがたい。

さてそのコンバインドテスト。このテストではダウン症、トリソミー13および18の染色体異常の確率をアルゴリズムによって割り出す。その適正率というのがダウン症で85%から90%の確率、つまりもしも結果が陽性だった場合に9割型信頼できるということ。これもまあまあ高そうではあるけど、もう一つのNIPTという選択肢も説明を受ける。

NIPT(noninvasive prenatal testing)とは血液検査だけでコンバインドテストと同じ遺伝子異常をスクリーニングできるテストで、なんといってもその正確さが99%と極めて高いのが特徴。ついでにもう性別も判明するらしい。こちらは受けたければ自費となるけど、もしもコンバインドテストで陽性だった場合に追加の検査として保険が適用され、無料で受けることも可能らしい。
NIPTを受けるか受けないかに関わらず、コンバインドテストに含まれる超音波検査でテスト目的以外に赤ちゃんについていろいろ分かることもあるので受けておくのをおすすめされる。赤ちゃんが順調に育っているのか目で見て確かめたかったので受けることにした。

NIPT

ミッドワイフのアポのあと、DDに電話で相談する。果たして自費でN IPTを受けるべきか?検査費用は大体500カナダドルと結構高い。DDは受けてくれ、と即答。お互いに歳なので胎児の障害に関してはやはり前々から不安が大きかったのは伝わっていた。そしてもし障害があった場合は産むのを望んでないことも。
わたしたちが高齢だから、障害を持つ子どもを将来に渡り責任を持って面倒を見ることができない。ただでさえ子どもがふたりいて、さらに別居していて、障害児を育てる余裕がわたしにない。理由はある、理性的な理由が。いのちを選別することに関してDDに迷いはなかった。この人は本当に現実的な人だから。わたしはどうかというと。育てることが難しいのは分かってる。でもだからって、こうしてお腹に宿ってここまで生きてきたいのちを自らなかったことにすることなんてできるんだろうか。複雑な気持ちを抱えたままNIPTを受ける旨、アマンダに電話で伝える。

コンバインドテストのレクイジションはアマンダにお願いすることができたけど、NIPTに関してはミッドワイフの職務権限がなく、ファミリードクターに別途請求しなければならないらしい。こういうことはこれからもちょくちょく出てくることになる。コンバインドテストは11週から13週の間に受けるのに対して、NIPTは早ければ10週にも受診可能だという。ということは来週にもできるのか。すぐに予約を取るために病院に電話する。

スムーズでストレスのないミッドワイフの対応に比べ、病院はすべてがフラストレーション。まず電話に出ない。やっと出ても予約できるのは1ヶ月以上先だという。それじゃ意味ないし、だいたい会う必要ないのでレクイジションだけ出してほしいというとファミリードクターに伝言するから折り返しの電話を待てという。で、こない。週末を挟んでしまってこれは忘れてるな、と思ってまたかける。出ない、待つを繰り返したあと今度は別の受付の人で機転をきかせてくれ、今ちょうど手の空いていたファミリードクターと電話を繋いでくれる。といっても彼女の下についている研修医で結局ファミリードクターと直接会うことも話すこともなく、やっぱりミッドワイフにしておいてよかったと改めて思う。こういうことも医療費タダだから、と決して怒らないのよね、カナダ人は。
事情を説明するとすぐにレクイジションを用意するから少ししたら病院の受付に直接取りに来てくれという。やれやれ、ようやく話が進んだわ。

無事に病院でレクイジションを受け取り、検査を行っている民間のラボに受診を申し込む。そして10週に入ってすぐに検査を受けに行った。簡単な血液検査だけで終わり、結果は1週間から10日以内にファミリードクターから直接連絡があるという。今は12月に入ってすぐ。ということはクリスマスまでには結果が分かっているんだ。クリスマスプレゼントでうちの両親やDDの両親、わたしの子どもたちに赤ちゃんのこと報告できるかもしれないな。
と、思ってはいたのだが。

コンバインドテスト

結局1週間待っても病院から連絡はなかった。まあ10日くらいとも言ってたし、来週かなあ。素直に待つわたし。
そうこうするうち、12週に突入し、NIPTの結果を待たずにコンバインドテストを受ける日になった。血液検査と超音波検査の2ステップだったので1日で終わらせるよう休みをとって臨んだ、が。朝から猛烈な吹雪で運転も恐ろしいほどでウーバーでクリニックへ向かう。つわりの吐き気に加えてウーバーの運転手さんの香水だか体臭だかがもうたまらなく辛かった。

2回目の超音波検査では、前回黒くて丸い影だった赤ちゃんが、まだ頭が大きいけど人のかたちをしていていたく感動した。異常はないですか、大丈夫ですか、と不安でいっぱいのわたしに技師さんは、詳しい見解を医師を通さずに伝えることは止められているんだろうけど、「あるべきものはあって、なくていいものはない、正常に見えるわね」と言ってくれた。写真をプリントしてもらって暖かい気持ちでクリニックをあとにする。ああ、ちゃんといるんだわ。育ってるんだわ。
同じビルのラボで血液検査を無事済ます。吹雪で検査場まで検体を運ぶ輸送機関がストップするかもしれないから今日は無理かもよ、と最初に言われたけどその最中わたしの検体の受け取りまで受付OKとのお達しが本部?から入りなんとか間に合わせることができた。

コンバインドテストでは何を見るのか。血液検査では血しょう中のプロテインPAPP-Aとβ-hCGの値を測定する。胎児にダウン症などの染色体異常がある場合、前者は低く、後者は高い値が出ることが多いからだ。超音波検査では胎児の横顔から首のうしろの肉の厚さを測る。やはり染色体異常のある場合、ここが厚くなる傾向があるからだという。こうした値に年齢などその他のリスクを数値化し、かけ合わせた数字が結果となるらしい。
もらってきた超音波写真の、赤ちゃんの首のうしろを凝視する。なんか、大丈夫そうに見えるけど。ダウン症の赤ちゃんは鼻が低く、ペタッとしているらしいけど、鼻筋もないとはいえないほどには確認できる。ネットで異常のある写真とない写真を拾い出しては比較してみる。正常に見える。大丈夫、大丈夫。

コンバインドテスト、陽性

NIPT同様、テスト結果を待つことは覚悟していたけど、意外にも翌週すぐにミッドワイフから電話があった。アマンダではなくて彼女とチームを組むもう一人のミッドワイフ、アンジェラからで、電話で話すのがはじめてだったけどやはりハキハキして明るい。といっても声から想像する人柄が明るいのであって、声のトーンは決して明るくなかった。どことなく緊張が走る。
「先週のテストの結果なんだけど、ハイリスクだったわ」
予想外の言葉に頭が真っ白になる。ハイリスクって言った?
固まるわたしにアンジェラがしっかりと、諭すように言葉を続ける。
「ハイリスクって言っても132分の1の確率で陽性っていう意味なの。だから決して決定してるわけじゃないのよ、そうじゃない確率の方がずっと高いのよ。」
「超音波の結果を見る限り、ダウン症には見えないの。だからトリソミー13か18の異常かもしれないけど、そっちの方が偽陽性の確率が高いのよ。」
どちらにしてもNIPTの結果の方がずっと正確だから、そっちの結果を待つしかない、と言われ、テストは受けたけれどまだ病院から結果を知らせる連絡がないことを伝える。それを聞いてアンジェラの方から病院に連絡をとってくれると言ってくれた。
頭がぐるぐるする。トリソミー13って?18って?どうなるの、どういう意味なの?どちらの場合も自然に流産したり、赤ちゃんが無事に産まれたとしてもすぐに亡くなってしまう可能性が高いという。

こんなこと、考えもしなかった。若い頃に比べてリスクが高くなってるのは分かってた。でも、まさか。強烈な不安と、受け入れられない気持ち。132分の1って確率は高いの?低いの?
DDから電話があったから、大丈夫だと思うけど、って前置きしてさっきの電話の内容を伝えた。電話の向こうから緊張が伝わる。冷静に聞いてくれたけど、現実的でリスクから目を逸らさない人。こういうとき、もう最悪のことを考えてるのが分かった。だからきっと大丈夫、とは言わない。代わりに「何があっても愛してるから」って言ってくれた。

受け入れられない。信じられない。それから何も手につかず、部屋に一人こもってずっとネットを漁り続けた。英語のサイト、日本語のサイト、なんでもいい、安心させてくれる情報を求めてた。
この妊娠は最初から不安だらけだ。待つことが苦しい。




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