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読み手から作り手へ!趣味全振り人間による出版就職🍋

0. はじめに

はじめまして、今春から光文社に入社予定の内定者🍋です。

光文社の採用面接では「古典新訳文庫」「新書」を志望していました。私の就活経験を、(きっと)出版社志望のあなたに役立てていただきたく、このnoteをつらつらと書いております。

ちょうど一年前になるでしょうか、かくいう私もまたこの「光文社新入社員note」の読者でした。「出版社に就職したい!」と意気込んでみたはいいものの、右も左もわからないひよっこだった去年の3月(今もずっとひよっこですけどね…)。量も質もヘヴィーな出版・マスコミ系のESを毎週のように四苦八苦して書き連ねていました。ですがいま思うと、これといった強い実感がともなうこともなくただ漫然と取り組んでいたように思います。徒手空拳とはまさにこのことでした。

そのうちに近づく光文社の締切り。ES執筆のために光文社の採用ページを夜な夜な徘徊していると、あなたがいま読んでいるこのnoteに行き当たりました。出版社に行きたいという気持ちだけが先走りし、具体的な術を持っていなかった私。そんな人間にとって、このnoteは出版社就職のための証言に溢れた貴重な場所でした。先輩方の記述を貪るように読んだことは、もちろん言うまでもありません。

だからこそ、就職活動を終えて、そのnoteを引き継ぐようにしていまここに文章を書いていることに不思議な感慨があります。この文章を、出版社を目指すあなたが、いまここで読んでいるということにも、また。

ある文章がいつどこで宛先にたどり着くかは予測できません。ネットやSNSに幾多もの言葉が溢れ返る現代は、以前にもましてその傾向は強い。ですが、言葉はそれを必要とする人の岸辺に自然とたどり着くのだと思います。そして、そのとき初めてその言葉の終着点は決定されるのかもしれません

個人的に敬愛する詩人パウル・ツェランは、そのような言葉をロシアの詩人オシップ・マンデリシュタームに倣って「投壜通信」と呼びました。

壜(びん)に詰められた手紙を海へ放つ。もちろん宛先は決まっていない。強いて言えば宛先は、それを海辺から拾い上げ、壜から手紙を取り出し、そこに書き込まれた文章を読み始めた「あなた」にほかならない。

そんな岸辺を目指して、宛先のない手紙を送るようにこの拙い文章をネット空間の海に投げ入れます。願わくば、その宛先があなたであらんことを。




1. かんたんな自己紹介

とまあ詩的なことを書きましたが、以下、美しいことを書く筆力はございませんのでご了承いただきたいです。ですが、できるだけ粗雑でもリアルな手ざわりの文章を目指して。

自己紹介が遅れました、あらためて🍋と申します。私の簡単なプロフィールはこんな感じです。

東京の文系大学院の修士課程を今年修了する24歳
出身: 埼玉県
趣味: 読書、映画、音楽、サッカー(とくにプレミアリーグ)など
アルバイト: ファミレス、アパレル、書店、レンタルDVDショップ、博物館など
サークル: バンドサークル
資格: 英検2級

出版社内定には、何か特別な経歴が必要なのか?」とお考えの方も多いかと思います。ですが、(少なくとも)私には留学経験などなければ、長期インターンの経験もありませんでした

各企業のESの資格欄を書くたびに、高校生のときにとった英検2級を書かないと何も書くことがない、運転免許すらもっていないという悲惨なありさま…。もちろんTOEICなんか一度も受けたことありません。OB訪問は一度もせず、インターンも1dayを2社ほど。ビジネス戦闘力でいうと限りなく弱小。ヤムチャぐらい弱いです。証券会社やコンサルに行こうものなら、ワンパンで即KOです。

そんな私にも少しばかり誇れるもの(?)がありました。自分で言うのもアレですが、それが「かなり多趣味である」ということ。というか、そうであることを心がけてきたとも言えるでしょうか。ここからは自己紹介もかねて就活前の私について少しばかりお話しさせていただきます。というのも、この「守備範囲の広さ」「好奇心旺盛さ」は、私の出版就職で少なからず大きな役割を果たしたからです。

2. 就活前の私――趣味全振り人間

「出版社に行く人はいったいどんな人なのか」と疑問を持ってらっしゃる方は多いと思います。面接やESでも、就活生の興味関心の範囲と深度を測る質問はもちろん多い。そのため、私が就活を始めるまでのバックグラウンドを簡単に説明しておこうと思います。端的に言えば、それは「趣味全振り人間」でした。

私は小中高とサッカー部に所属していました。中学生の頃は県大会決勝にて埼玉スタジアムのメインピッチでプレーするなど、それなりのアウトドア人間でした。文化的な生活や思考とはまるで無縁な人間だったといってもいいと思います。

転機は中学2年生のころに訪れました。ある日、近所のBOOK OFFにて偶然手に取った2冊の本。今でも覚えていますが、100円均一コーナーに置いてあった、村上春樹『風の歌を聴け』と村上龍『限りなく透明に近いブルー』。なぜその2冊を手に取ったのかと言われると、おそらく国語の便覧の作家紹介をぼーっと見ていたからだと思います。授業中にまったく関係のないページをぱらぱら眺めることがよくありました。けっこう、こうした些細な出来事がその人の一生を決めていたりするものです。

この短い文学作品を読み、曰く言い難いものを感じた私の手は、その後さまざまな本に伸びていくことになりました。海外文学との出会いも、この延長線上にありました。高校生の頃には、練習試合の合間に汗臭いサッカー部の部室でカフカの『審判』を読んでいるような、かなりおかしな状態になっていました。

光文社の古典新訳文庫に初めてふれたのも、その頃でした。就職先や進路など具体的な将来のことは特に考えず、大学ではもちろん文学部に進学することになります。大学進学以降は、国内外の文学のみならず、哲学や現代思想、芸術理論などの本を熱心に読み耽りました。

本棚にあるもので好きな海外文学を10冊選んでみました。面接では『カラマーゾフの兄弟』を推していましたが、実は『悪霊』のほうが好きだったり…。日本の現代文学もよく読みます。

本との出会いのほかに大きなものがあったとすると、それは音楽映画です。

中学生の頃から邦楽だけでなく、US・UKロックをはじめいろいろな音楽を聴き始めました。お小遣いの大半をCDやレコード代にあてていた高校生の頃には、頻繁にレコード屋に行っていました。ほかにもヒップホップやR&B、ジャズ、アンビエント。海外の音楽レビューサイトを英語の勉強がてら読んだり、海外アーティストのライブに足を運ぶにつれて楽器に興味を持つように。それが高じて、大学ではバンドサークルに所属して、ギターを始めました。

映画をたくさん見るようになったのも高校生から。両親の影響もあって、高校生の頃からさまざまな国の映画を見ました。大学進学後は、暇があれば都内のミニシアター系の映画館(Strangerやイメージフォーラム、シネマヴェーラなどが個人的なオススメです)に足繁く通い、年間200本近くの映画を浴びるように見ました。

結果的に学部2年生以降では、映像表現について勉強できる学科に進級。ある講義で鑑賞したホロコーストに関する長大なドキュメンタリー作品に強い衝撃を受けた私は、ホロコーストと映像表現の問題に関する卒業論文を執筆。その論文で奨励賞をいただいたこともあり、そのまま大学院へ進学しました。

就職活動前の私の状況は、ざっとこんなところです。読書・音楽・映画。このトライアングルは、ほぼ私の大学生活そのものと言ってもいいと思います。

…まずいですよね、あまりにも働く様子が見えない。文化系・サブカル系の趣味に全振りしすぎたがゆえの危うい自閉感。実際、学部4年生のときは、就活はまったくやっていませんでした。研究を続けたいという気持ちはあったものの、大学院への進学には「この生活をズルズル続けていきたい」というモラトリアムも少なからず働いていたように思います。

趣味の多さ、守備範囲の広さ、好奇心旺盛さ。私の行き当たりばったりの広く浅い興味関心をいいように言えばそうなるのかもしれません。しかし、それが十分な武器になる業界があります。それが他ならぬ「出版社」なんです。

バンドサークルは、新旧問わず国内外のバンドを隔月のペースでコピーするサークルでした。
ギターとヴォーカルをやってました。

3. 出版就職ってどんな感じ?

いらぬ自分語りがやや長くなりましたね。ここからが本題。出版就職に関する具体的な話をしていきたいと思います。まずは就活を始めた時期から。

(1) いつから就活を始めた?

就職活動を意識し始めたのは、修士1年生の7月ごろ。なんとなく出版・マスコミ・メディア系の会社に入ることができればと、情報を収集し始めました。文系の大学院で同期も少ないので、私の就職活動はどこか孤軍奮闘の趣がありました。いや、ただ怠惰なだけなんですけどね。

私が最初に頼ったのが、大手出版社や通信社に内定をもらっていた先輩方。話を聞いて見よう見まねで2社ほどサマーインターンに応募してみるも落選。臭い物に蓋をするかのように就活を一時的に記憶から抹消。できる限り研究と遊びに勤しみました。

秋に入り「さすがにまずいな」と思い立って、あまり興味もない教育業界と印刷業界の1dayインターンに参加。この頃はまだ就活生というより、就活生のコスプレ感がありました。マイナビ・リクナビなどを一通り入れて、それなりに就活生感は出てきましたが、12月までそれ以外には特に何もせず。1月から志望業界のES締め切りが迫ってきたので、これも見よう見まねで応募。面接対策も業界・企業研究もほとんどしないまま、就活のスタートラインに。


(2)どんな業界、どんな出版社を受けた?

結論から言うと、ESを出した企業は、出版・マスコミ・メディア系の会社から30社ほどで、そのうち出版社は10社ほどでした。出版業界の構造を知るためにも出版取次も併願していました。

特に出願する出版社は、自室の本棚をざっと眺めて「自分の人生と関わりが大きい出版社」を条件に選んでいました。そのほうが、志望動機や自己との関係を明瞭にしやすいからです。私の場合だと、国内外の文学作品や新書、思想書などをよく読んできたので、自然とそうした出版社が多くなりました。ですが、ファッション誌や音楽誌、映画などのエンタメ誌にもある程度ふれてきたので、とにかく「総合出版社にいきたい」という気持ちは強かったです。

ESを提出した企業のうち7割ほどは面接まで進むことができました。しかし、問題はここから。いまでも思い出します、某出版社の一次面接。私の就職活動における初めての面接でした。

皆さん、よくネットや参考書などで「面接は自然体がいちばん」という意見をよく聞くかと思います。これはあながち間違いではありません。しかし、これには条件があります。それは「一定の受け答えや志望動機、自己像の提示などを血肉化していること」です。

これがまったくできていないまま臨んだ初の面接。プレゼン課題が終わり、面接官の「あなたはどんな本が作りたいですか」という初歩的な質問に、「自然体がいちばん」を真に受けた私はこう答えていました。


「えー...みんなが広く読んでくれる本ですかね...」


終わってますね。こんなテキトーな人、どこも採用してくれません。本が好きであること、多趣味であること、こうしたことはESで全面に押し出していました。しかし、私は「読み手」の視点しか持っておらず、「作り手」の視点を決定的に欠落させていました。どんなにその出版社から出るコンテンツが好きでも、これではただの「いいお客さん」でしかありません。もちろん、一次面接で落選しました。

この件があって、さすがに深く反省した私は、頻出質問や業界・企業研究などを6〜7割方固めて面接に挑むことにしました(当たり前ですけどね)。

「自然な受け答え」とは、何も準備しない、ということを意味しません。「自然さ」とは、ある程度の型や形式をしっかりと持ったうえで、その条件下で初めて可能になります。それは即興演出やアドリブも、台本が前提であるのと同じです。型からの逸脱のためには、まずその型を習得しなければならないのだと思います(自戒をこめて…)。

(3)出版社のES はどのように対策していた?

ESの執筆もまた、実際の面接をイメージしながらその前段階を自分で作っておくフェーズだと私は考えていました。いってみれば、自分という対象の地図作成です。面接の前段階から、自分が動きやすい地理的座標を自分で立ち上げておく。そうしたほうが面接官もこちらを把握しやすいし、こちらとしても動きやすい。つまり、ESと面接は不可分です。そのため、ここからはESのみならず、面接の対策としても読んでいただけると幸いです。

では、具体的な出版社のESについてお話ししたいと思います。

先ほど、趣味の多さや好奇心旺盛さが、それだけで武器になるのが出版社だと言いました。出版社のESでは、それを遺憾なく発揮する、これに尽きると思います。しかし、それを「できるだけ解像度を高めて」おこなうこと。この「解像度の高さ」とは、以下の三つに左右されると思います。それが、「読み手」「作り手」「具体性」です。ひとつずつ見ていきましょう。

① 読み手
出版社を受ける方々であれば、誰でも思い入れのあるレーベルや雑誌、書籍などがあると思います。私でいえば、光文社では「古典新訳文庫」「新書」でした。聞いたところによると、けっこうこの二つを同時に志望する就活生は多いそうです。

では読み手としてESには何を盛り込めるか。それは「その本と自分との関係性を明確にする」という点だと思います。

雑誌にせよ書籍にせよ、出版物は読者のライフスタイルと分かち難く結びついています。「この本を読んで、実際に〇〇してみた」「この企画にふれて、〇〇が変わった」。そうした経験はきっと誰にでもあるでしょうし、出版物の魅力はそれに尽きるとも思います。

いち読者として本にふれる際、そこから受ける印象や感想はけっして同じではありません。自分だけに突き刺さるような文章、本によって変容した日常や人生の捉え方。そんな個人的な経験を誰もが持っている。

本と自分のライフスタイルの関係性、その後の生き方の変化などを顧みるだけで、十分な志望動機になりますし、面接でもアツく話すことができます。本の感想やレビューをどこかに書きためておくのもいいかもしれません(私はこれをけっこうやっていました)。

出版社のESには「好きな本やコンテンツを教えてください」という質問がよくあります。その際、そのコンテンツと自分との関係性をわかりやすい物語形式などで記憶しておくことが大切であるように思います。

光文社の古典新訳文庫で私的イチオシの一冊。とくに最終章の娘へ向けた手紙は涙なしには読めません…!

② 作り手
作り手側の視点に立つこと。これが個人的に出版就職でいちばん必要なことだったように思います。とくに私のように本が好きで出版社を受ける人は、終始読み手の視点であることが多い(ふたたび自戒をこめて…)。簡単にいえば、商業的な観点がなさすぎる、ということでしょうか。

読み手の主観的な視点に固執しすぎると、自分が好きなものや興味関心以外が見えなくなりがちです。もちろん総合出版社はさまざまな本を出しているため、そのすべてをフォローすることは難しい。

しかし、「自分の志望するもの以外にどんな本を出しているのか」「いまどんなことに力を入れているのか」「出版社としてのカラーはどんなものか」。こうした観点から徐々に視点を客観化していくと、おのずと少しずつ作り手側の視点が見えてきます。

私が具体的におこなっていたこととしては、「大型書店をすみずみまで歩くこと」でした。

皆さんには、ジュンク堂書店や紀伊國屋書店、丸善書店などが馴染み深いでしょうか。大型書店は「読者にいまいちばん読まれている本」あるいは「出版社がいまいちばん売りたい本」の文字どおり一大市場です。書店で「いまどんな本が売れているのか」「なぜそれが売れているのか」「誰がそれを読んでいるのか」といった大まかな情報を掴んでいるだけでまったく違う。実際に購入してみるのもいいですし、少し立ち読みしてみるのもいい。

たとえば、私は池袋のジュンク堂書店に、どこの棚にどんな本があるのかを把握するほど通っていました。「新書」を志望していたので、各出版社の作風や傾向、著者の違いなどを確認し、実際に気になるものがあれば読んでいました。

志望する出版社とは異なっていてもかまいません。他社の傾向やそこで売れている本を見ておくだけで、「他社ではこのような本が売れているので、ここではこんな本を出したらどうか」という提案にもつながります。雑誌や週刊誌など、疎いジャンルも実際に少し読んでおくだけで、いざ面接で話を振られても対応できます。

こうすることで、読み手としての主観的な視野が相対化され、出版業界全体への客観的な視座を持つことができます。トークイベントや書籍のフェア、電子書籍などとの関係から書店を考えることもできますし、帯文やポップなどに注目することで、出版社の販促活動も知ることができます。「あ、この小説、映像化もされてるんだ」みたいに。すると、本に関する身体知が勝手についていく。

また出版社のWebサイトやSNSアカウントを見るなどもしていました。出版社や編集長へのインタビュー記事などが上がっていれば、それを読んで「作り手の視点」を学んでいました。雑誌にあまり興味がなかったのに、いざ編集長のインタビューなどを読むと「面白そう」とか思ったりするので、まったくわからないものです。

③ 具体性
「読み手」「作り手」と見てきましたが、やはりESには「具体性」が必要です。「どんな本が作りたいのか」「著者は誰がいいのか」「なぜその著者がいいのか」。この企画に関する質問は、ESのみならず面接でももちろん聞かれます。私みたいに「えー...みんなが広く読んでくれる本ですかね...」とか言ってられません(三度自戒をこめて…)。

私は具体的な著者の名前とテーマをできるだけ多くESに書き込んでいました(固有名詞はやはり説得力があります)。思想系だけでなくファッションやスポーツなども想定して。ひとつの企画に魂をこめるのも素晴らしいですが、出版就職ではある程度の柔軟性興味関心の広さが求められます。守備範囲の広さを表すためにも、いろいろなことに興味があることをESの段階で示しておくことが重要だったように思います。

実際、入社前の研修からすでに「興味関心を広げる生活習慣を持つこと」の重要性は、社員の方々から頻繁に言われることがあります。そうした態度を身につけておくことは、出版社で働くということと同義なのかもしれません。

具体性といっても、べつにガチガチに考える必要はありません。漠然と「この人にあんなことを書いてもらったら面白いんじゃないか」というアイデアの種を(理由も含めて)できるだけ多く携えておくことが大事。出版社の特色との兼ね合いも念頭に入れつつ。

また「古典新訳文庫」であれば、私は「いまその本を新訳する必要があるのはなぜか」をじっくり考えました。たとえばアルベール・カミュの『ペスト』のように、時勢の影響によって再び紐解かれるようになる古典も少なくありませんから。


(4)出版社の面接はどのような対策をしていた?

ESで「解像度の高い地図作り」をしておけば、あとは面接に行くだけです。先ほど「6〜7割方固めて」面接に挑んでいたと言いましたが、基本事項以外はぼんやりと把握しておく程度でした。言いたいことの要点だけ掴んで、あとは現場の空気感に合わせようという感じ。というのも、出版社の面接は、基本的に双方向的な対話がベースだからです。そこが一般企業の面接と大きく違うように思いました。たぶん、行ってみるとすぐわかります。

ですが、個人的に一貫して心がけていたこととしては2つほどあったかと思います。

①相手を楽しませること

②できるだけ素でいること

この二点です。どういうことでしょうか。

①相手を楽しませること
利他精神とまでいうと言いすぎかもしれません。ですが、自分の経験や志望の熱意、好きな本の話題など、どんなことを話すのであれ「自分が楽しそうに話していること」はやはり大事だと思います。相手を楽しませるには、まず自分が楽しむ必要がある。

わかります、私も緊張しまくりでした。実際に面接官の方々が楽しまれていたかどうかはまったく定かではありません。ですが、企業側も「あなたを落としたい」というネガティヴな理由ではなく、「あなたを知りたい・採用したい」というポジティヴな理由から面接をおこなっています。だからこそ、相手の質問の意図などを汲み取る余裕を持ちながら、楽しんで面接に臨むこと。これはとても大切かなと思います。

「相手を楽しませること」は、少し意味を変えれば「相手にわかりやすく説明すること」にもつながります。私のいわゆる「ガクチカ」は卒業論文とバンドサークルでした。とくに前者の卒論のテーマは、ホロコーストの芸術表象や芸術理論など、専門外の方々にはやや説明しづらいテーマを扱っていました。

そのため、面接で「なぜこのテーマを選んだのか」「どのようにして研究をおこなったのか」という質問に簡単に答えられないことが多々ありました。ですが、できるだけ誰にでも共感できるようなきっかけや平素な言葉を心がけること。こうすることで、話も広がり、研究に対する熱意も理解していただくことができたと思います。

簡単にいえば、これは「相手への配慮」ということになるのかもしれません。本作りを手がけるときも、読者への配慮が必要なように。わざわざ時間を割いていただき、自分の話を聞いてもらえる機会なので、理解されないとやはり悔しい。そうした後悔を残さないためにも、「相手を楽しませること」は大事なことだと思います。


②できるだけ素でいること
「相手を楽しませながら、できるだけ素でいる…?」 やや難しいことを言ってますよね。でもこれ、矛盾しているようでしていないんです。「相手を楽しませる」といってもなにも手品やらアクロバットを披露しなさいとか、相手に媚びなさいとか、そういうわけではありません。相手の存在をしっかり把握しながら、自分自身でいること。端的にいえばそれは「対話すること」を意味するのだと思います。

覚えてきたことをただ披露するだけでは、相手の存在の否定になってしまいます。つまり、対話ではなくなってしまう。出版社の面接では、学業や課外活動からは推し量れない人柄を見るための意外な質問も多いです。そのため、へんに取り繕わずに、普段思っていることや直感的に感じたことを話す方が、自然と「対話」という場を醸成できたりします。回答に困ったときは、「うーん、難しいですね…」と言ってじっくり考えてもいい。

ですが、やはりこれも先述したこと、つまり「一定の受け答えや志望動機、自己像の提示などを血肉化していること」が前提だと思います。そうでないとただ受け答えがテキトーな失礼な人間になってしまう。ですので、ある程度の型を作ったうえで「できるだけ素でいること」が、「対話」の場を作る際に重要であるように思います。

採用からずっとお世話になっている人事の方が仰ってくださったのですが、私は「堅いように見えて実は柔らかい」というような印象を持たれていたそう。ギャップとまでは言いませんが、一見して想像がつく印象を裏切るものは、できるだけ素でいないと出てこない。人間は本来、複数の側面を持つものです。そうした人間的な魅力を見てもらうためにも「できるだけ素でいること」は大事だと思います。

私は6月に光文社から内々定をいただく前に、ありがたいことにすでに他の2社から内定をいただいていました。やはり心の余裕などは、この「相手を楽しませること」「できるだけ素でいること」には必要なのかなと思います。そのためにも、いちばん志望する企業に合わせて就職活動のモチベーションを上げていくことが理想的です。


(5)筆記試験はどのような対策をしていた?

「相手への配慮」とか言っている人が、長々と面白くもない文章を書いております…。すいません、最後によく採用イベントなどで聞かれる筆記試験の対策についてだけ。

結論からいえば、「あまり対策をしていなかった」というのが実情です。

出版社の筆記試験はおそらくひとつの正解に答えるものではありません。どちらかというと、作文という形式を通して、「あなたの世界の見方」「あなたは何を面白いと感じているのか」といった、きわめて個人的な視点を見るのが筆記試験だと思います。その人の個性を見たい、というのが狙いでしょうか。

そのため、正直にただ真面目なことを書いて正解を求めても面白くありません。ここでも「相手を楽しませること」が大事。実際、同期の内定者に話を聞いたところ、それぞれがまったく異なる形式で作文を書いていました。小説や評論、エッセイなど、どんな形式でもかまいません。読み手の姿を想像しながら、とにかく相手を楽しませるように文章を書く。

筆記試験といえば最終面接で、役員の方に「君の書く文章はとても映像的だね」と言われたことを印象深く覚えています。映像と文学の関係性などの研究をしていた影響もあったのかもしれません。比喩や描写を意識的に使って書いた文章が、狙いどおりに受け取られていることに少し嬉しくなりました。

ちなみに私は卒論で7万字、修論で14万5000字を書いて指導教授に良い意味で(悪い意味かも)ドン引きされたことがあります(「相手への配慮」なんてまるでありませんね…)。そうした経緯があったからか、長い文章を書くことに個人的な抵抗はそれほどありませんでした。

「あまり対策をしていなかった」とは言いましたが、やはり日常的に文章をインプット・アウトプットすることは大切です。読書はもちろん、ネットニュースやSNS、YouTubeなどでも構いません。付箋を貼りながら丁寧に本を読んでみる、普段読まないような記事や動画などにふれてみる(私はコントと漫才ばっかり見てました)、気になったことをスマホのメモ機能でもいいので書き溜めてみる。こうしたことの習慣的な積み重ねかと思います。これ、ESや面接でもかなり生きますよ。

Webテストは参考書を1冊、一般常識問題などは各月の時事問題をまとめているウェブサイトを読んでいました。また新聞社やテレビ局も受けていたので、そこでの対策が出版就職で偶然役立ったということもあります。結局のところ、正直何が役に立つのかが予測できないのが、就職活動なのかもしれません。逆に言えば、どんな些細な経験も武器になるのが就職活動、とくに出版就職なのだと思います。


あなたの等身大で勝負!


4. 終わりに

ここまでおつき合いいただき、ありがとうございました。少しでもお力になれたでしょうか。「投壜通信」と銘打ったこの文章を締め括るためにも、私の出版就職でのエピソードを最後に。

朝イチで臨んだ、光文社の最終面接。かなりハイになっていたので、いまとなっては何を話したのかあまり定かではありません。ですが、役員の方からいただいたある質問を、どういうわけかよく覚えています。


「あなたは自分を勝負強いと思いますか」


私はとっさに「勝負強いと思います」と言っていました。なぜかはまったくわかりません。その後に少しの沈黙を挟んで、なぜ自分が勝負強いかを苦し紛れに述べたように思います。しかし何を言ったのかもまったく覚えておらず…。本当に根拠のない自信だったと思います。

ですが、こうした根拠のない自信は出版就職で必要だったのかもしれないと、いまになっては思います。ただでさえ倍率の高い出版社。落ちたら「まあ仕方がないな」と思うしかない。ですが、一方で「自分を採らないだなんてもったいない」というなんの根拠もない自尊心は持っておくべきかもしれません。「あなた」の価値をいちばんわかっているのは、ほかならぬ「あなた」だからです。

光文社から内定をいただく前、私は他の某出版社の最終面接に落ちていました。そのときもまた朝イチの1人め。役員がコの字型にずらりと並んだ薄暗い部屋で、「文芸誌の発行部数はいくらか」「表現の自由についてどう思うか」という難しい質問に歯切れの悪い回答ばかりで、不完全燃焼で終わってしまった。そのときはさすがに凹みました。勝負強くなんか全くなかったわけです。

とはいえ、その出版社を後にする路上でも、電車内でも、自宅でも「自分を採らないだなんてもったいない」という気持ちだけはずっとありました。べつに勝負強くはないが、勝負強くはありたい。その根拠のない自信が、光文社の最終面接で私に「勝負強いと思います」という回答をさせたのかもしれません。

就職活動中、辛いことも多々あるかと思います。ですが、たとえ否定されたとしても、自分の可能性を卑下せず、「根拠のない自尊心」を持ち続けてください。繰り返しになりますが、「あなた」の価値をいちばんわかっているのは、ほかならぬ「あなた」だからです。

図らずも長大な文章になってしまいましたが、私の拙い経験談をここまで読んでくださって本当にありがとうございました。光文社でお会いできることを心待ちにしています、この投壜通信があなたの岸辺に流れ着くことを願って。


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