じさつとたましい16
3時がすぎた。
昔学校に行くことができなかった頃、
3時を過ぎたら眠りについていた。
3時になると新聞屋さんがやってきて、
朝が来たのだと安心できるからだった。
あの頃は、神のように扱わないとキレてしまうAから、
私も何かを受け取ってしまっていたようだった。
同級生に比べて何もできない、誇れるものがないと思うようになっていた。
それでもしっかりとネクタイを締め、学校には通えていた。
しかしある日、教室が水の中になった。
授業中に息が出来なくなった。
起立、礼、着席の動作も息が苦しくてままならなくなったのだった。
家で寝ていると、金縛りにあった。
別に何かが見えたわけではないが、
何かが見えるような気がして恐怖でたまらなかった。
そうなると、丑三つ時というものに
金縛りになろうものなら、本当に見えてしまうと
夜が眠れなくなったのだ。
3時は安心な時間になった合図だった。
しかし、今日は3時を過ぎても寝ることはできない。
ろうそくの様子を見に行った。
足が冷気を浴び過ぎたのか、足が成長痛のように少し痛くなってきた。
成長痛のような痛みに、懐かしさを感じつつ
Aの顔をぼーっとみた。
相変わらず口が半開きで、唇が乾いていた。
Aは昔、わたしの憧れだった。
滅多に雪が降らないこの土地に、珍しく雪が降った日、
5歳だったわたしは熱を出して寝込んでいた。
少しでいいから外に出たいと、母にせがむも
頑なに禁じられ悲しみでいっぱいだった。
しばらく眠ってから起きると、
母が微笑みながら、冷蔵庫を開けてごらんと言った。
冷蔵庫には、雪のうさぎが入っていた。
Aが作ってくれたのだった。
Aもまだ、周りの目を気にする力より
自分の目でみた好きなことをする力を優先できていた時期だったのかもしれない。
実はそんな時期もなかったのかもしれないが。
Aの半開きの口の中に向かって、
「死んじゃえ」
と呟いておいた。
自分では一言呟いただけのつもりだったが、
後に父親から1人でぶつぶつ話していたと聞き、
Aにむけてだいぶ何かを言っていたのだと知ったのは
それから何年も経ってからであった。