麦子さんの心がほどけて-②
前回からの続きです。
しばらく警戒モードの日々が続きました。
訪問する。
ギロリと見る麦子さん。
く「こんにちは😊
リハビリです。今からマッサージをしますね。
足が固まってしまわないように少し動かしたり、マッサージをしてほぐしていきます。
足、ちょっと触りますよ」
警戒モードバリバリの麦子さん。
でも、まだ拒否するところまではいってません。
受け入れてもないですが。
じーっと様子見しています。
く「もし痛かったら教えてくださいね。
すぐにやめますからね。
麦子さんが嫌なことは絶対にしないですからね」
麦子さんには「痛い、やめて」という権利があって、そう伝えてくれればすぐにやめる意志があることをまずは伝えようと試みる鍼灸師くー。
初めてことなので、とにかく手探りです。
麦子さん、無言のままじーっと聞いているようです。この時はもう目を瞑っていました。
麦子さんは、脳梗塞で右半身に少し麻痺が残っています。
そして、右の足首は転倒骨折しあらぬ方向に向いたままくっついてしまっているので、どう触られると痛いのかも分かりません。
痛みがありそうなところは少し慣れてくるまではあまり触らないようにして、まずは触れられてもあまり不快ではなさそうなところから始めました。
そして、その間は必要以上にグイグイいかないようにし、ゆったりとした空気感とたまにのんびりした声音で軽く声をかける程度にとどめ、ゆ〜〜っくり撫でさするようにして軽擦していきます。
く「ここ触りますよ。イヤな感じないですか?
イヤな感じがしたらすぐにやめますからね」
私の口から出来るだけ優しい音が出るように、ゆっくりしたリズムにことばをのせ、そして、態度でイヤのサインが出ていないかも確認し、慎重に丁寧に施術。
口でイヤと言ってくれるとは限らないので、わずかなサインも見落とさないように気を配ります。
訪問鍼灸では20分間の時間が与えられているんですが、この頃の麦子さんは20分マックスにさせてくれることは少なく、開始後10分もすれば
麦「もういいでしょ」
と言って、スパっと打ち切るという状態でした。
前任者が強い拒否にあっていたことを知っていて私に引き継ぎとなったので、上司も無理強いはしなくてよいと早目に切り上げることを許可してくれていました。
なので、時間は余っていましたが、麦子さんがストップをかけるとそこで終了にするようにしていました。
この頃はとにかく信頼関係を築くことが私にとっての最優先事項でしたので、麦子さんがNOと言っているのに無理強いすることは
「コイツは私の言うことをまるで聞かない。私の言葉を無視する。信頼出来ないやつだ」
と感じさせてしまうんではないかなと思っていました。
私だったらそう思います。
なので、信頼を築く第一歩として、
麦子さんの望みをしっかり理解しようと意識していました。
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