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「免疫力」という言葉  新見正則

40年前にタイムスリップ

先日、慶應義塾大学医化学教室前教授の石村巽先生を囲む会がありました。
40年近く前、僕が医学部の学生だった頃
医化学教室に出入りしていました。
そこで酵素の生成や染色の実験を行っていました。
放課後や休日、ときどきは他の授業をサボって実験をしている日もありました。
そんな時間が妙に楽しかったのです。

当時指導して頂いた先生方にも久しぶりにお会いすることができました。
約40年前にタイムスリップして楽しい時間を過ごしました。
石村先生は京都大学医学部の御卒業で、
2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生の先輩です。

そんなご縁で、会の途中で
「本庶佑君のノーベル賞も嬉しかったが、新見君のイグノーベル賞も嬉しかった。乾杯をしよう!」と言われました。

当時お世話になった皆さんに乾杯をしていただき本当に至福の時でした。

オプジーボと本庶佑先生

本庶佑先生の研究はオプジーボの開発です。
免疫にブレーキをかけているシグナルを遮断すると
免疫力が向上するというものです。

全体の免疫力を上げるので、多くのがんに有効だと推論され、
そして実際に臨床試験で多くのがんに対して有効性が確認されています。

このオプジーボの登場で「免疫力」という言葉が
サイエンスの言葉として認められるようになりました。

当時は「免疫力」なんて超うさんくさい言葉でした

それまでは「免疫力」は怪しい言葉だったのです。
僕が医療バラエティ番組の元祖である「主治医が見つかる診療所」(テレビ東京)出演していた2006年当時は「免疫力」という文言が番組で使用されると
僕は免疫の専門家として「ちょっと困ります」と
ディレクターに注文をつけていました。

その理由は、免疫は未だに未知の部分が多く、
免疫の総和を量る指標がないからなのです。
そして免疫全体をアップさせるものなど
サイエンス的にはあり得ない時代でした。

ですから「免疫力」という言葉を使う時は、
エビデンスに欠けるサプリメントや健康食品などを連想させ、
なにやら怪しいイメージがいつも付きまとっていたのです。
免疫力は、健康力とほぼ同じようなイメージでした。

ノーベル賞で一気に世界が変わる

ところが、2018年
本庶佑先生がオプジーボの開発でノーベル医学生理学賞を受賞しました。
このオプジーボは免疫のブレーキを外す薬剤です。
免疫力を全体に底上げする薬剤です。

ですから、本庶佑先生のノーベル賞受賞後初講演のタイトルは
「免疫力こそがん治す力」
というもので、また
日本医師会での特別講演は「驚異の免疫力」というものでした。

本庶佑先生のおかげで免疫力がメジャーな言葉に

ついに「免疫力」という言葉は怪しい言葉ではなくなりました。
本庶佑先生はNHKの番組やインタビューでも
「免疫力」という言葉を使用されています。
つまり、免疫力という言葉をNHKも認めたことになりました。

生薬フアイアも免疫力を上げることが認められた

ご縁は続きます。
本庶佑先生がノーベル賞に輝いた2018年、
僕が以前から抗がん作用があるのではないかと興味を持っていた
生薬フアイアの1,000例規模のランダム化臨床試験の結果が
なんと一流英文誌GUTに掲載されました。

肝臓がん手術後の患者さん1,000人にくじ引きして
フアイアを飲んだ群と飲まない群に分け
生存率でフアイアを飲んだ群が勝ちました。
フアイアもオプジーボと同様に免疫力を全体に底上げする生薬です。
肝臓がんに明らかに効いたエビデンスを勝ち取りました。

1993年から中国では抗がん新薬として認可され、
肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がんなどで
保険適用されています。

フアイアのすばらしさ、不思議さ

そしてフアイアが素晴らしいことは
生薬らしく双方向に働きます。

免疫が低下していればアップさせ、
亢進していればダウンさせます。

オプジーボで危惧される免疫の過剰亢進は
フアイアでは起きません。


本庶佑先生のノーベル賞のお陰で「免疫力」という言葉は広く認知されました。
西洋薬のオプジーボと生薬のフアイアが
ともに免疫力をアップさせるという偶然が
40年前にお世話になった石村先生を中心に展開され
僕にはなんと貴重なご縁を感じた瞬間でした。




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