最近観た映画8本『ナミビアの砂漠』『シビルウォー』
最近観た映画の感想!相変わらず胎教に悪い映画ばかり観てる。ネタバレあり。
① ナミビアの砂漠
主人公のカナは基本的に社会を諦めてて虚無。
……なんだけども、山中監督がインタビューで「自分が「好きだな」と思える主人公にしたいと思っていました。どんなに駄目な人間だとしても、気高い部分があって、そういうところが見えてくるような人物に。」と言っていた通り、私には芯がある女性にうつった(虚無との矛盾を孕んでるのがまたいびつ!)。
いろんな人の解釈を見て得た3つの発見。
① 入れ子構造のバグver.
定点カメラでナミビアの砂漠のライブ映像を観るカナ。そんなカナの生活を、ライブ映像のように観ている私たち。その映像のなかで、暴力を振るう自分を客観的に観ているカナ。バグみたいな入れ子構造になってる!他人の人生を(ときに早送りしたりして)消費するのが当たり前になってる自分に気づかされる。
② 個人<社会を生きてる
中絶に対して、彼氏は「オレ個人の問題」と捉えてるけど、カナは「無責任な男(全般)の問題」として捉えて怒ってる。カナのなかでは、個人的な問題は社会につながってる。
③ Z世代の誤解
Z世代って安定思考で公務員になりたがったり、映画を倍速で観て「答え」だけ知りたがったり、何かと生き急ぎがちなイメージ。でもカナみたいにままならないまま日々を何となく生きてる人がほとんど説。だし、それでいいのだ!
② あんのこと
河合優実つながりで、アマプラにきてたので観てみた。毒母からネグレクトとDVを受ける女の子・あんが、家を出て社会的自立を試みる話。実話ベースらしく、観るのがキツい映画だった……
毒母が目立っていたけど、その背景にはたしかに毒父の存在もあるはずで、あんが母親を殺せなかった理由をなんとなく想像する。
万引きしないで手に入れたノートに日々「丸」をつけるあんが愛おしくて、このまま安全な家で心穏やかに暮らしてってね……と願ったけども、そううまくはいかなかった。
空にかかるブルーインパルスの煙は、コロナ禍における公助の空虚さに対する皮肉だと受け止めたけど、アトロクで「リスカの跡では?」という解釈を聞いて、なおさらキツい描写に感じた。ん〜〜キツい……!
③ 対峙
高校銃乱射事件で子どもを殺された夫婦と、事件後に自殺した加害者の両親が、ときを経て対峙する話(キツいと言いつつ重いのばっか!)。
最初は冷静に話そうと試みるんだけど、だんだんヒートアップしていく両夫婦……
被害者夫婦は加害者夫婦を赦せなくて当然だと思う。私だって子どもを無差別に殺されたら「絶対に赦さん」と思いながら生きていくと思う。だけど、「絶対に赦さん」と思いながら一生生きていくことも、じつは難しいことなんだろう。これは当事者にならないとわからない境地だ……
そして加害者夫婦も、息子の死に対して被害者夫婦と同じくらいショックを受けてる。なのに、「加害者側」という一点で感情の整理をしてこられなかったのも事実。
映画の最後、ふたつの夫婦が少しだけ過去から解放されたように見えたのが救いだった……
④ 魂の殺人
こちらはフィクションではなく、実際に加害者との「対峙」を試みるドキュメンタリー映画。
幼少期に父親から性暴力を受けていた女性がときを経て父親と対峙するんだけど、ほしい言葉はなかなかもらえない。さらに、いまだにお母さんが助けてくれないことも彼女たちに重い影を落としている。父親の夢を見る、電車に乗れない、お風呂に入れない……といった後遺症も、安定剤を飲んでごまかしながら過ごす。何十年も。
なかには、加害者と対峙したり、安全に話せるコミュニティに参加したり、法律を変える活動をしたりと本人が何十年もかけて努力した結果、サバイバー(性暴力被害者)からスライバー(性暴力被害者としての苦しみを乗り越えた人)になった人もいた。スライバーになると、過去のできごとに憎しみや悲しみを抱かなくなって「終わりのないと思っていたトンネルをくぐり抜けた気分」になるらしい。
さっきの『対峙』の映画と同じく、何年も時間をかけて傷と向き合ってきた人にしかわからない境地なんだろう……自分の傷を癒すだけでも大変な作業なのに、次の犯罪が起こらないよう働きかける彼女たちには敬意しかない!
⑤ 赦し
これも『対峙』や『魂の殺人』に近いテーマ(こんなんばっかり観ちゃう……)。同級生にころされた少女の両親が、7年ぶりに加害者と法廷で顔を合わせるサスペンス。
加害者の証言のなかで、被害者だと思っていた娘が、じつは加害者をいじめていたことが発覚する。
親がいくら「真っ直ぐないい子」だと思っていても、子どもには知らない一面があるものなのかも……??
⑥ 能登の花
イタリア人の映像作家が、都内でイタリアンレストランを営むイタリア人女性とともに、能登の震災の炊き出しボランティアに行くドキュメンタリー映画。
現在進行形の問題だからピリついた映画だと思っていたけど……笑顔まじりで当時のことを振り返る住人もいた。
「自然が牙をむくこと」は、この世の何よりも恐ろしい!そのときは運命を受け入れるしかないけど、生き伸びたんなら彼らのように前向きに復興の道を探れる人でありたいなと思うなどした。
⑦ A film about coffee
妊娠中でコーヒーが飲めないので、雰囲気だけでも楽しみたくて観たコーヒーのドキュメンタリー(いきなりのほっこりムービー!)。
米・ブルーボトルのような「サードウェーブコーヒー」の源流は、日本の喫茶店文化からきているのだそう。
インスピレーションとなった名店喫茶として、村上春樹も愛した表参道の「大坊珈琲店」が紹介されていた。
すでに閉店してしまったけど、ちょいちょい出張珈琲店をひらいていて、2019年に2日間限定で復活したときには各地からファンが押し寄せたそうだ。一度飲んでみたい……
⑧ シビルウォー
もしかしたらあるかもしれないアメリカの内戦を描いた映画。A24史上いちばんお金かけてつくったらしく、セットも爆発も大胆。映画館で観ると、爆音こわすぎ!
ところで、「この時代になんで白黒のフィルムカメラ?」と思いきや、この町山さんの解説が超くわしかった。
リーのモデルはリーミラーという女性で、モデルから戦場カメラマンになった人だそう(マンレイのこの作品のモデルがリーミラーとは初耳!)。
リーミラーはナチスの収容所でも撮っていて、そのとき撮った死体の山の写真が、ジェシープレモンスら演じる軍人による死体の山のシーンの元ネタになっているんだとか(ちなみに映画のラストの笑顔の写真も元ネタの写真があるそう)。かなりリーミラーの写真から影響を受けてつくられた映画なんだなという新発見!
アメリカはいま大統領選のさなかで、それぞれの正義が暴走すれば内戦もまじでありえると思う。それをリアルに想像できてしまうような、怖くて考えさせられるシーンいっぱいあるよ。でも、映画のなかよりも現実世界のほうがヤバくね!?という実感があって、観たあと何も言えなくなった……現実が映画を超えるなよ……