伊豆天城山でハイキング-42
ホテルの部屋が利用できるのは15時以降。今はまだ14時だけど一通りのお散歩を終えてしまい、どうしたものかと悩む二人。
旅行中の暇つぶしほど、どうしていいのかわからない時間はない。
なら仕事しようかな。
多くの人はバケーションとなれば仕事のことなど忘れてしまいたいだろう。だけどキャンピングカーで長期旅行をする私たちは暇を持て余している時以外でも仕事のために時間を割くことはよくある。
「今、君は休暇中でしょ。パソコン閉じて」
チームで仕事をしているたぁはいつでも他のメンバーのことが気になってしまう。旅行先でチャットミーティングに参加をして、他のメンバーからそんな言葉をかけられたのは一度ではない。
予定ぎゅうぎゅうのせっかちな旅行はしたくないから、のんびり旅行をしている。だからこそ合間にパソコンを開くことに抵抗がないのかもしれない。
気になる仕事を確認するだけでも気持ちは落ち着くし、時間の有効活用にもなって一石二鳥だ。それに今の私はやらないといけないことが溜まっている。
自営の身、いつでも休めるけどやらないといけないときはちゃんとやらないと。
ホテルに戻ると受付スタッフは他の人を対応中。時間つぶしにあたりをうろちょろしているとマッサージ室、そして卓球部屋を見つけた。
おっ!?
受付が空き、私たちの番が来た。
「荷物、ありがとうございました」
「部屋の準備はできていますので、いつでもどうぞ」
まだ一時間近くあるのになんて嬉しいことを言ってくれるんだろうか。
だからと行ってすぐに部屋に向かうのはちょっと気が引けるから・・・・・・
「卓球をやってもいいですか」
「あぁ、はい。どうぞ」
聞けば無料で利用できるらしい。
あっざーすっ!
荷物とともに部屋の鍵を受け取り、エレベーターに乗ることなく直接卓球室へと向かえば、たぁは当たり前のように後ろから付いてくる。
私たち、二人そろって卓球好きです。
卓球台だけが置かれた卓球のためだけの部屋にやってきた。荷物を端に押したらすぐにラケットを握る。
「眩しい」
青いおめめのたぁさんは肌だけではなく眼球も日光に弱い。
一度、太陽光をしっかりと受けたその目を見たら、青さはライトスカイブルーまで薄まり瞳孔は極限まで閉じていた。
彼を窓側に行かせて背で光を受けてもらう。向かいから太陽光を受けることになった私はというと、それほど眩しく感じず問題ない。
さぁ、やるわよっ。
カコン、カコン。
カコン、カコン。
「そのパス助けてないよ」
今日もゲームをするより二人仲良くずっと打ち続けていたい。
競争嫌いの私たちは相手にとって不利な球を返すよりも、辛い位置からもよいパスを返して互いを褒め合うほうが好きだ。だけど、いい流れが続いている時におかしな球を返してくれば文句は言うし、言われる。
「今のボール打たないで」
たぁの悪い癖。それはバウンドしてないボールも打ち返してしまうこと。それが原因でボブ(たぁの弟)とゲームをしたときに幾度となく失点に繋がった。シングルで戦っている時は「どうぞご勝手に」だけどダブルスをしている時にこのミスが続くと本当に腹が立つ。
ラリーの時に打ち返すから癖になっている。のに、本人は直そうとしない。だからさらにむかつく。
「そのボールはたぁがとって」
たぁの悪い癖、その2。
変な場所にボールが飛んでくると彼はスマッシュで返してくる。当然、それがコート内に戻ってくることはない。
問題:どうして彼は返せないボールを打ち返してくるのか。
答え:落ちたボールを拾うのが面倒だから。
むかつく。
「そのボールはのんのせいでしょ」
確かに変なボールを打ったのは私だけど、あなたの変なボールを私はいつでもちゃんと拾っている。何も言わずにだまって拾い続けると彼はずっと不要なスマッシュを打ち続ける。だけどそのボールを自分で拾わないといけないことになれば、止める。
他人より自分主義のお国さんのあるあるだ。
「今、回転かけたでしょ」
「かけてないよ」
いやっ、かけたな。
ならばと私も高校生の時に培った予測とは逆の方向へとボールを打ち返す。
「今、わざとでしょ」
「そう」
笑いながらも、お互い思ったことは口に出す。
薄手のロングパンツを二枚持ってきたと思ってハイキング中にららにパンツを貸したけど、実は一枚しか持ってきてなかった。昨晩中に洗濯しようと思ったけど肝心の洗濯機が見つからず、今は厚手のパンツを履いている。
そんな中、アドレナリンを放出しながら卓球に打ち込むから汗が止まらない。この状態に同じように興奮しているたぁからはやめる気配なんて見えない。窓は締め切ったまま、どうしようか。
あっ、天の救い。
この部屋にはエアコンがある。
すぐさま、冷房を付けて・・・・・・。
さぁ、続けるわよ。
あれっ、仕事は?
完璧に忘れてた。
まっ、いっか。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
無空真実の電子書籍です。よろしくお願いします。
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