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伊豆天城山でハイキング-48

女子風呂の暖簾をくぐると脱衣所に一人の女性がいた。縦に4つ並ぶボックスを一人で使うシステム、彼女は一番下の箱にスリッパを入れていた。

あっ、そうやるのね。

素知らぬ顔をして真似する私。こうやって人は気取っていく。

今すぐにでもお湯に浸かりたいけど、4つもあるボックスのいずれにも鍵はなく、他の人が脱衣所にいる状態で無防備に部屋の鍵を置いておきたくない。

まぁ、“信じる者は救われる”精神で「何も問題がない」と思えばその通りになるんだろうけど、都会育ち、そうは教育されていない。
だからと言って、彼女が脱衣所を出るまでここにいるというのも変なので、バックの奥の方に忍ばせて風呂場へと向かう。

体を流して、内風呂で温まった後に露天風呂へと向かう。
外の気温もお湯の温度も下がり、月はだいぶ上へと移動した。月光に照らされた波を見ながら、再びその音へと耳を傾ける。

ゆったりのんびり、今日という日の終わりに癒されたいけど、心配性な私は脱衣所に置いた部屋の鍵が気になる。
先ほどの女性は椅子に座って何かをしているようだ。私が風呂場へと向かった時はすでに浴衣へと着替えていたけど、寝る前のケアにいろいろと時間がかかっているのかな。

あまり気にしないように心掛けながらも、三度ほど確認すると彼女はずっと同じ場所に座ったまま。

40分ほどお湯を楽しんだ後、脱衣所に戻るとなんと彼女はまだそこにいた。

私が40分、お風呂に浸かっていたってことは・・・・・・

彼女は40分以上、脱衣所にいることになる。

一体、ここで何をしているんだろうか。

今はスマホを見ている。そこまでして部屋に戻りたくないのかな。

バックの中に鍵はちゃんと入っていた。

ホっ。

私は早々に部屋へと戻ろう。


電気が消された暗い部屋でたぁは静かに寝ている。準備を終えて、久々に彼の背中にピタッとくっつく。

そうそう、コレコレ。

シングル布団をくっつけた割れ目に悩まされることなく、後で自分のベッドへと戻ることなど考えずにやっと一緒に寝られる。

彼のぬくもりを直に感じる。これが私の幸せの在り方だ。

昨日は暖房を付けたまま寝たせいで、夜中に起きてしまった。今日は同じ失敗はしないと消すと、すぐに睡魔がお迎えに来てくれて深い眠りへとついた。



翌朝6時に目覚ましが鳴る。今日を思って頭が動く。

日の出は6時8分だったはず。

昨日はぐっすり寝られ、朝日への期待もあってムクっと起きて、ベッドを後にする。
カーテンを開けると外はオレンジ色に染まり始めている。ホテル前の堤防には二人の女性がいたので、自分たちもその仲間に入ろうといそいそと甚平を来て、部屋を出る。

一階の受付には誰もいない。そして堤防の前には先ほどいたはずの二人の姿もない。車だけが多く止まっている静かな朝だ。

振り返ってホテルを見ると、4階の露天風呂が目についた。

「えっ、ここから露天風呂って丸見えじゃん」

私はお湯に浸かって体が火照るたびに、ベランダに腰かけては海を見ていた。

もしここから上を見上げた人がいたならば、もれなく私の裸も見ることになったのか。

今更だな。とりあえず後でお風呂に浸かるときだけは気を付けよう。

旅中、快晴続きだったけど今朝は雲が多く、海から上って来る太陽は見られそうもない。

11月上旬だけあり、朝は冷える。
目の前に見える海景色と波の音に五感を預けて癒され続けていたいけど、寒さが体の芯へと伝わってくる。

あっ、太陽が見えた。

とりあえず目的は果たした。部屋へと戻るか。

6時半になると太陽光は海へと伸びて大きなその姿が雲合間からはっきりと見られた。

朝食前に二人してお風呂に向かう。
今朝は二人仲良く家族風呂に浸かりたかったけど、清掃中だったのであきらめてお互いの性別に分けらえたお風呂へと向かうと、既に二人の女性が入っていた。
一人の女性が露天風呂を楽しんでいたのでその時は邪魔せずに内風呂から海を臨み、彼女が出た後、何事もなかったかのように露天風呂へと向かう。


最後のお湯を十分楽しみ部屋に戻るとすでにたぁはいた。

聞けば男性風呂にはグループがいて、人も多めだったようだ。

あらら、ちょっぴり残念。



主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話


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