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鋸山に行って来たよ-17

これまでのお話

お寿司幸福タイムの後、セブンイレブンに立ち寄って明日の朝食とちょいとしたつまみとハイボール缶を購入。お腹がパンパンなのにそれでも部屋飲みのお供を望むのは既に酔っぱらっている証拠。

部屋に戻って動画配信サービスでサバイバルゲームのようなものを見る。どうやらシーズン途中からだったようでルールが良くわからなかったけど、ダラダラ時間つぶしするには丁度良い。

浴衣の袖から顔を出す左手にはハイキング中に柵で負傷した擦り傷とあざが出てきた。

何かと怪我が多いトホホな私。

番組が終わった9時頃、たぁはお眠だと言う。
今日はしっかり動いて、早めの夕食でお腹も満たされた上にお酒も回っている。気持ちはわかるけど私は酔っぱながら体を暖めたいと温泉に行くことにした。

部屋のドアを開けると入り口に新しい浴衣、タオル、シーツ、ポットが置いてあった。

「このご時世ですので、部屋のそうじは遠慮させていただき外に新しいものを置いておきます」

チェックインの時にそう言われて、「それは翌朝に届けられるもの」だと思ったけど、既に準備してあってちょいと驚いた。

 
お風呂は幸い他の人がおらず独占入浴。

ヘヘヘ、ラッキー。

お湯は相変わらず熱めなので全身浸かるとすぐにポカポカになり、だけどもう少しゆっくりしたい私は足だけで浸けて腰掛けた。

壁側に詰まれた岩の上には厚手の紙のようなもので上部が仕切られている。
壁の反対側は男風呂。向こうからお湯を体にかける音が聞こえきて、覗き防止のために後に設置されたものだと勝手に推測。

上部が塞がれていなかった頃、それは話し声が届きやすかったことだろう。

「殿方、年はいくつでありませぬ?幅は十(とう)まで読んでよし」

急にリズムに合わせて言葉がすらすらと頭に浮かんできた。自分から発せられた言葉なのになんだか不思議。十まで幅を読んでいいと言うのが面白いな。

若い男性は自分を大人に見せることができ、年老いたものはちょいと若く見積もることができる。

顔や体が見えないからこそ、こちらも答えを元に想像で楽しめるってわけか。

するとまた別の言葉が私から発せられた。

「名はなんと申します?真の名には興味はありませぬ」

また面白いこと言うじゃん、私?

私の口から出てきている言葉だけど、それを楽しんでいる私がいる。まるで酔っぱの体を使って別の人が言っているみたい。

真の名に興味がないのは、ずっと続く関係は望んでいないってことだよね。

創業は江戸時代末期1854年のこの旅館。宿場として使われた頃にはいろんな出会いがあったことだろう。

女風呂から聞こえてくるリズムに合わせた誘い文句。

もし向こうから返事がなければ断られた証拠、返事があれば先へと進める。
だけどその答えに興味がなければ今度はこっちが返答しない。
 
そうやって駆け引きが生まれて、その後の行動が決まるってこと。

まさか向こうの風呂には聞こえないように、酔っぱな私はそのリズムと言葉が気に入り、小さな声で歌っては体を暖めたて、お風呂を後にした。

部屋に戻ると布団に入ってオーディオブックを聞きながら眠たそうなたぁがいる。戻ってきた私を見届けて安心したのか彼は目を閉じた。

「暖房付けたままにする?」

三月半ば、夜はまだ寒い。

「いいよ、消して」

そうだよね、寝ているたぁは湯たんぽのように暖かくなるもんね。
私は本を読んでからしばらくしてから電気を消した。

ハイキングでたくさん太陽を浴びたせいかぐっすり眠り、深夜2時、トイレに行きたくて目が覚め、たぁも同じ時に目を覚ました。

「暑いのか寒いのかよくわからない」

掛布団の上には毛布がかかっていて、それが丁度良い時もあれば体温が上がると熱くなりうまく寝られないらしい。深く寝られていた私は「そうかなぁ」と思いつつも、トイレで用を足して戻ってくると同じ状態になり、寝付くのに時間がかかってしまった。

やっと深い眠りに就いた頃、子供たちが騒ぐ声、そしてそれを注意する大人の声が聞こえた。その声で目を覚ますと声は止んでいた。

またウトウトすると今度はドアを叩く音がして起きるとまたその音は止む。

その後も部屋全体が斜めになってぶら下がらないといけなくなったり、クイズの番組のような司会者が隣に立っていたり、だけど目を覚ませば部屋で寝ている。

いたずらされている。

私、小さい頃から見る方なんです。

こういうことはたまにある。初めての経験ではないけど久々だ。

ここの宿は古いながらもスタッフさんも気さくでおもてなしを感じられ温泉までの渡り廊下は趣があってど良い旅館だと思った。そしてこう私に興味を示し、なんらかの現象を与えてくるエネルギーも決して悪いものではないと思うけど、明日もハイキングを控えた身、そうじゃなくともこういうことをされるのは好ましくない。

布団に横になったまま瞑想をもって解放を試みるも、疲れた眠気漂う体ではうまくいかず、シータ状態になった時、自らがパラレルワールドに引き込まれてしまったことを痛感。

その後も何度も変な世界へと呼び込まれるから眠りに就くのが怖くなる。こういう経験を小さい頃から繰り返してきたから、今でも夜一人で寝ないといけない環境は苦手。

時計を見たら4時半だった。

もうすぐ朝がやってくる。もう引き込まれてもいいや。

諦め精神が良かったのか、生の気が陽の気へと変わったからか頭はいつもよりもぐるぐると回っていたけどどうにか眠りに就くことが出来た。

目覚ましを設定したのは7時。6時50分に目を覚まし、明確な頭で昨夜のことを思い出したらなんともすごい夜だったなぁと実感。
ここ最近、こういう体験をしていなかったこともあり、魔除け石であるアメジストを持ち歩くのをやめていたけど、やっぱり泊りの際は必衰アイテムだなと思い知らされた。

たぁも目を覚ましたので、夜に起きたことを伝える。彼は霊現象など全く関係のない世界に生きていたけど、私と時を過ごすようになってからはポルターガイストなど一緒に体験するようになっている。

「いたずらされた」

様々な世界を行き来したことを話す。

「パラレルワールドだね」

まさか彼の口からも同じ言葉が出てくるなんて。

そんな彼は温度調節に手こずって、私同様うまく寝られなかったらしい。

多分、エネルギーの混迷が彼をそのような状態へと巻き込んだのかもしれない。

後一夜、ここで過ごす予定なんだけど・・・・・・。


【無空真実よりお知らせ】

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

11月22日にAmazon Kindleより電子書籍を出版いたしました。

私のんとたぁが彼の母国であるニュージーランでハイキングやキャンピングカー旅を楽しんだ旅行記です。

日本とは異なる環境下で旅する二人。
今回も自然に触れながらゆっくりとした時間を過ごしていくことで頭の中のモヤモヤを解放へと導くことが出来ました。

夫婦喧嘩やとんだすったもんだ、瞑想での気づき、そして自然が与えてくれる豊かな時間まで、模索して生きる二人の旅をどうぞお楽しみください。




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