伊豆天城山でハイキング-31
しばらくするとささたちもやってきた。
レストランに向かうと「荷物はこのテーブルにおいて置いてください」と案内書きがあったので、貴重品だけ取ってバックを置く。
席は団体ごとに分かれていて、互いが気にならないような気遣いが見られる。
案内されたテーブルにはすでに豪華な食事が並べられていた。飲み物メニューを見ているとららが言ってきた。
「多分、わからないと思うけど、地酒ってどれがお勧め?」
はい、ご名答。
「わからないよ」
「そうだよね」
「店員さんに聞いてみれば」
ささの受付を担当してくれた女性スタッフが来た際にららが尋ねてみると、彼女は困った顔をして固まってしまった。
「ちょっと待ってください」
そう言って、すぐに別の従業員に声をかけた。
「向こうをお願いします」
「私は今、こっちをやっているので自分で対応してください」
そう、返答されてしまった。
「研修中だからね」
ささの言葉にみんなで納得。
だけど研修中の彼女は戻ってくることなく、声をかけられた従業員が来ることもなく時間だけが経っていく。仕方がないので近くを通った男性従業員に尋ねると丁寧に回答してくれたので、ららは無事、地酒を選べ、それ以外はビールを注文するとすぐに持ってきてくれた。
「カンパーイっ!」
そして
「いただきまーす」
さぁ、食べるぞ。お腹は十分に空いている。
まずは前菜として用意されている大好きな揚げナスを口に運ぶ。
あれっ?
確認のため、山芋がかかった煮つけを食べている。
やっぱり。
多分、食事は予約時間よりも早めに並べられていたんだろう。温かいというよりぬるい。
残念。
でも思えば、それは予約サイトの評価に書いてあった気がする。それでも味はおいしくて特に味噌漬け豚肉串には目を見開いた。
是非、熱々でいただきたかった。
疲れていても仲良し家族は話が尽きず、ららは気づいているのか気づいていないのか話盛り盛りで何かと自慢げに話していた。こんな風に外でも話しているのかと思い、心配になってささに聞いてみると「だって、言ったってしょうがないし」と返答が来た。
そうか、面倒なのか。
対応の仕方は人それぞれだ。だからこそいろんな人にあって成長ができるってもんだよね。
ビールを飲み終わった私はハイボールを飲みたい。種類は山の合目で示された濃さから選ぶことができたので「一番飲みやすい」と書かれていた(確か)七合目を注文すると、思ったよりも濃かった。
でも味はおいしいから、どんどん飲んでしまう。
「今日のハイキングで山を嫌いにならないでね」
天城山、急ぎ足で下山している時にささに何度か言ってしまった。
山を好きになってもらえるようにと登山に誘ってこれまで調子よくきていたのに、今日一日ですべてがおじゃんになってしまいたくない思いからだった。
無事、登山を終えて、ひとっ風呂浴びて、おいしい食べ物に囲まれた今だからこそ聞いてみよう。
「今度はどの山に行こうか?」
「今は考えたくない」
ガーン、ガーン、ガーン・・・・・・。
「でもぽうが帰ってきたら、みんなで信越トレイル行くでしょ」
それは連泊ハイキングを意味する。
「私、自信がないから待ってみる」
えぇ。
「テント泊だけじゃなくて途中で宿も使えるし、ずっと尾根を歩くからそう大変じゃないと思うよ」
「毎日、お風呂に浸かりたいもん」
あぁ、それはわかる。私もそれがネックでためらった記憶がある。
「だけど、その先にしかない体験を楽しむことができるよ」
達成感や持続する勇気、そしてかけがえのない自然。だけど彼女は首を縦に振らない。
そういえば、昨夜、夕食後に星空が見たいと言ってペンション隣の広場にみんなで見に行ったよね。
「山中に泊ると何にも邪魔されない星空が見られるよ」
「いい」
あぁ、今日という一日が彼女の山に対する興味を後退させている。
「一度、一泊二日で行ってみようよ」
「えぇ」
しつこい甲斐のせいで、「いや」から「えぇ」までは進展したぞ。時間はたっぷりある。いつか叶えられたらいいな。
食事を食べ終わりそうなときにご飯とみそ汁が運ばれてきた。
「えっ、このタイミングで?」
素直なたぁは口に出して驚き、それは私も同感だった。
残すのが嫌いな上に、まだまだお腹に空きがある私は残っていた料理とともにすべていただいたけど、たぁが口にすることはなかった。
帰り際、気持ちよく声をかけてくれた女性従業員の方に言う。
「伊豆の女性ってお酒が強いんですね」
なぜなら飲みやすいと表示されていたハイボールは濃く感じられ、昨夜のノースインの女将さんも「お酒が好きだ」と言っていた。
私の言葉に語弊はなかったようで、彼女は満面の笑みで声を上げて笑ってくれた。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
【無空真実よりお知らせ】
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Amazon Kindleより二冊の電子書籍を出版いたしました。
長年にわたり心の深い場所に重たいしこりがあり、一時は「もう真から笑うことはできないんじゃないか」と思ったほど。
だけど日々の生活や旅行を通じ、一筋の光が現れてちょっとずつ自分を取り戻し続け、今回の旅は私に人生の節目を与えてくれた。
神話の土地から届くエネルギーを通して、私は一体、何を体験できて、何を知れるんだろう。
準備は整った、さぁ旅にでよう。
人生を模索しながら生きている二人の旅をどうぞお楽しみください。