鋸山に行って来たよ-24
これまでのお話
階段を上り終え、展望台の場所までやって来た。
おぉ、観光雑誌などでよく見かける崖ですね。
ここには二つの崖があり、まずは手前から行ってみよう。
山際にポツンと飛び出たそこに行くまで足場はそう良くない。
「ここ怖い」
前にいるカップルの男性が呟いた言葉が私の耳に届いた。
あぁ、そうだ。私は高所恐怖症だった。
「怖い」という言葉を耳にしたことで自分の恐怖症が表面化し、背筋に冷たい何かが走る。
そういえば風も強いね。
突き出たここは後ろの広場に比べて風が届き、一層私をドキドキさせる。
それでも恐怖心より好奇心が先行している私は、どうにか自分を柵で守られている崖の端まで連れて行き、崖下景色の撮影を試みる。
まっさか、さぁーまぁーにぃ、堕ちて
じゃなぁーいっ!!!
高所恐怖症の特徴、持っているものすべて、そして自らの身すらも下に落としたくなる衝動に駆られるのをどうにか抑えて、シャッターを切る。
なんだかよくわからない写真だけど、私にとっては自分の勇気と行動に満足な一枚なのです。
そして崖の横を見ると
あの地獄覗きの崖がある。
「もう無理、安全な広場に行きます」
たぁにそう告げた後、早々と踵を返し広場へと戻り、気持ちを一旦落ち着かせてから山頂展望台へと向かう。
展望台の下には広場があるからそう恐怖を感じずにてっぺん来れた。下には先ほどドキドキ体験をした崖が見える。
あんな場所に身を置いていたかと思うだけでまた恐怖心が蘇るよ。
「崖で男の人が『怖い』って言ったから、私も怖くなっちゃった」
「信じちゃだめだよ」
たぁはまさかの答えを笑いながら告げてきた。
だけど度胸試しはまだ終わらないんだよね。
よしっ、地獄覗きの崖へと向かうか。
怖い、怖いと言いながら自らそこへと向かう自分と言う人間の気が知れない。
崖先までは岩を削って作られた凹凸を歩いて進まないといけない。
前を歩くおばあちゃんは杖をうまく使いながら進んで行く。彼女も地獄覗きを体験したいという好奇心に魅せられた一人だろう。
どうにか崖の上までたどり着いた。
ぴゅぅぅぅぅ~。
先ほど同様、強い風を感じて怖さが蘇る。
地獄覗きを楽しむためにはここから崖の先まで下っていく必要があるけど、なぜだか数人たむろしているここからそこへと向う人がいない。そうなると私の歩も止まる。
いやぁ、富士山が綺麗だなぁ
なーんて、写真撮ったりしちゃって。
一心不乱に自分のことを思ってここまで登ってきた。
そういえば、たぁはどこ?
後ろを振り返るも彼の姿はない。時間つぶしもかねてちょっと待ってもやっぱりやってこない。すると一人の男性が崖先へと向かい、先ほど私たちがいた崖先にいる人に向かって手を振った。
崖から崖への挨拶はなんとも達成感に満ちたものだろう。
彼が姿を消した後、崖先には人がいない。
狭い場所、混み合った状態なんて嫌だ。
折角ここまでやって来たんだ。
行くなら、今でしょっ!!
心を奮い立たせて進む。
風がさらに強くなる。
だけど好奇心は地獄覗きを求めている。
パシリッ。
崖下あたりの景色を撮り、そして柵に邪魔されない広がる景色を撮る。
恐怖心と強風でスマホ落とさないように気を付けるので精いっぱいだった。
写真を撮り終えたら、恐怖心に体全身が満たされて動けなくなる前に退散だ。
登って来る人との入れ違いに若干苦労しながら下ると、広場にたぁの姿がある。
「ずっと待っていたんだよ」
「あんな怖い場所行かないよ」
なんですとっ!
たぁが立っている場所からは地獄覗きの崖先が見える。
「あそこの端まで行ったんだよ。写真も撮ったの」
「えっ、気づかなかった」
へっ?
私も勇姿すらも見ていなかった・・・・・・と。
仕方がない、これが彼の個性である。
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