
鋸山に行って来たよ-11
これまでのお話
不安定な階段を上って行く。
中央が凹んでいたり、段差も安定しないので足元をしっかりと見て、手すりがあればちゃんと掴まり、滑らないよう、こけないよう、そして体のバランスを崩さないように気を付けながら上って行く。
夢中で登り続けると石切り場跡が出てきて、その横がちょっとした眺望台になっている。
階段ばかり見てきた目を海の広大な景色で癒そうとそこへ向かうと案内板がここが「ラピュタの壁」であることを教えてくれた。
ちょいとひらけた場所に他に人はおらず、混み合う場所を嫌うたぁはここの落ち着いた雰囲気を気に入っていた。


ほおっておくと自分から動き出しそうもないので、「そろそろ行こうか」と声をかけてさらに階段を上って行く。
ここにも毛虫のような木の葉は落ちている。その正体を知っているから驚くことはないけど、虫嫌いが初めて目にしたら(体はともかく心の中では)飛び上がること間違いないだろう。
上へ上へと導く階段がやっと終わりと告げるとそこは日本寺の北口だった。でっかい門が立っているけどその周辺には寺を通らずに進んで行けるスペースは見当たらない。
なんだか雲行き怪しいな。
だけど事実が分からずに諦めるよりかはとりあえず質問をしてみよう。
「ここからフェリー乗り場にはどうやっていけますか?」
「ロープウェイ」
たぁが隣で訂正する。
あっ、どうしてフェリー乗り場なんて言ってしまったんだろう。
「ロープウェイ乗り場に行きたいんですが」
「一人700円です」
受付にいるおじさんは即答する。
「あの、日本寺は明日見る予定で、今日はただロープウェイで下りたいんです。抜ける道はありませんか」
「ここは観光道路となって一人700円必要です」
そうかぁ。
ならばたぁが言っていた別案を聞いてみよう。
「そのチケットは明日も有効ですか?」
「チケットは日ごとなので明日の分は明日、支払わないといけません」
やっぱり。
なら次こそ尋ねるワードはフェリー乗り場で合っている質問をしてみよう。
「ここからフェリー乗り場に下れる道はありますか?」
「この先の道を下れば行けますよ」
そういえばサインがあったような。それを見てフェリーとロープウェイが頭の中で混合したのかも。
「歩いて下るとどのくらいかかりますか?」
「40分くらいですかね」
「ありがとうございました」
さっきは誤って進んでしまった道を今度は間違えずに下るとそこにはデカデカと私たちが行くべき道が記されていた。

初めて訪れた場所、時には再訪した場所でもルールが変わり、思っていた通りには進まないことがある。
「ロープウェイ乗り場まで行けなかったね」
「なんか四国のお遍路みたい。お遍路もだいたい無料なのに、場所によっては観光バスが入ってきて、すごく“お金、お金”って感じる時がある」
たぁは以前、四国に住んでいてスケートボードでお遍路を回ったというユニークな履歴を持つ。
大好きな神社仏閣でちょっとしたずるさ(というかお金で解決する)で気落ちした雰囲気、数年前に日光東照宮を訪れた時に似ているな。
以前は周辺の神社仏閣と合わせて拝観パスを購入出来たのに、しばらく経ってから訪れると神社仏閣ごとに拝観料が必要になり、支払う額が大幅に増えたことで、すべてを回ることを諦めた(今はNIKKO MaaSなるものが出来たみたい)。
その上、以前のパスと同じほどの額を支払って東照宮に入るとディズニーランドも驚く混み合い。写真を撮りたくて立ち止まる客に他の客が文句を言うし、そうはどう見ても、感じても心癒される場所ではなかった。
まぁ、ここは低山なので登りすぎて疲れ切っているわけではないし、40分ほどで下れるなら歩くことには問題ない。
そんな私たちをなだめるように今にも花を咲かせそうなぷっくりとした芽がアピールしてくる。

ありがとう。
岩を削って作られたような狭い階段の下からカップルが登って来るのが見えたのでちょいとしたスペースのある場所で待つ。
彼女に続き、彼も上ってくるのかと思いきや、彼女を振り向かせて写真を撮り始めた。
おいおいおいおい、何やってんだよ。
後ろで人が待っているじゃないか。
それに私たちが上で待っていることに気づいているんでしょ。
撮影後、空気を読んだ彼は急ぎ足で登り、待っている私たちを通り過ぎる時に彼が一言言って来た。
「これでピザ分が消化できました」
「まだ足りないんじゃないですか」
あっ、やっちまった。
即座に答えてから軽く後悔。
頭の回転は速い方だとよく言われる。返答するまでに頭はこんなことが浮かんだ。
・彼らも私たちと同じピザ屋さんでランチを食べたんだな。
・ピザにはたくさんのチーズが乗っていたからカロリーはそれはそれは高いことだろう。
・ここの山は低山であり、階段は多くとも荒い道でも激しい山道でもない。
・だからそう簡単にカロリー減らないでしょ。
・それに「どんだけ待たせるんだよ」
結果、冷たい言葉が即座に発せられてしまったんだ。
「あぁ」
彼は静かに返してきた。
心の器が小さい自分の素直さが怖いわ。
彼のちょいとした落胆の声を聴きながらすれ違った後にちょっぴり後悔。
ごめんね。
無空真実の電子書籍です。よろしくお願いします。