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鋸山に行って来たよ-26

これまでのお話


展望台前広場から山頂まで400m。
階段を下っていくと名もなき石切り場がある。岩場は草木に覆われ、荒れた状態。
ここでは声を発するとうまいこと響く。他人の迷惑を考えなければ山頂近くのカラオケステージだ。

上り坂の途中で一人の男性がお酒に匂いを漂わせながら休憩していた二人組が後ろからやってきた。

彼らも同じ道を進むんだね。

広場を離れてから急に人が減った。折角、広いスペースがあるんだから別のグループと近くで歩く必要はない。抜いてもらうことも考えたけど彼らの歩みはそう早くないので待つことなく進むことにした。

だけど先は一人が通れるほどの階段道で、私もたぁも膝に負担をかけないように一段一段両足をついて下っていくから後ろから来る彼らとの距離がどんどん縮まる。だけど上りになるとどっと差が開いて声も姿も見えなくなるのに、まだ下りになると姿を現すを繰り返しながら進んで行く。

「僕ここ好き」

太陽光がばっちりと届くものの、多くの木々に囲まれたなだらかな尾根道に(二人組の姿がたまに気になるものの)二人だけ。たぁの好みの場所は私にとってもお気に入り。
自然に囲まれた歩きやすい道が多い関東ふれあいコース様様だ。

目の前に白い建物が見えてきた。

これが山頂かな。

と思ったら道は建物へとは向かわずに右へと伸びている。

なんだか木の根や枝がすごいことになっている。

人間が作り出すカオスは嫌いだけど、自然が生んだ混沌には惹かれてしまう。

素直な私たちは導かれるままに土道を歩いて階段を上っては木々の合間に海なんて見たりしながら進んでいったら12時50分、鋸山山頂に辿り着いた。

男性が一人ベンチに座っている。しばらくすると後ろからあの二人組がやってきた。

「こんにちは」

声をかけてくれたのでもちろん私たちも返す。

「こんにちは」

互いの存在は知っていても挨拶を交わすのはこの時が初めてだった。

木々に囲まれながらも広場の前は開け、広大な自然の景色が広がっている。

木材で出来た山頂標識がちゃんと後ろにあるのに、この景色をわざと邪魔しているのか、ここがどこなのか明確に伝えたいのか、それにしては質素な白い山頂標識がいい味を出している。

広場には狛犬様がいて、小銭と一緒に十字架が刻まれた貝の置物まである。

広場には5人。もしここで休憩せずに進めば他のグループと距離がおけると思い、ベンチに座ることなく前進するとすぐ後ろから二人組もやってきた。

うまいこといかないもんだね。

ここから林道口まで1.4km。
写真を撮りながらのんびり進みたいし、後ろからずっと話声が聞こえるのも嫌だ。
100mほど進んだら階段になったので、彼らに抜いてもらうことにした。
 
匂いを漂わせていた年上の男性は標識の矢印を無視して前進する。

「そっちに行くんですか。林道口はこっちですよ」

そう伝えると、すぐに方向転換し矢印に沿った道へと消えて行った。
とりあえず間隔を空けるためにしばらく待とう。

「上から写真撮るからかわいい顔して」

時間を潰している時、たぁがそんなことを言ってきた。
自分なりにかわいいと思われる顔をやってみる。

「違う」

別の顔を作ってみる。

「違う。それじゃない」

もう一度試す。

「違う」

そう言って彼は笑う。

「どうして上から撮影したいの」

「観音様の前で、『かわいいショット』って言って、撮影したでしょ。それが欲しいの」

あぁ、セルフィしてた時だ。

「あれば自分で画面見て撮影しているからたぁのカメラに向かってやるのは難しいよ。たぁ、やってみてよ」

彼も試してみたけど、やっぱりセルフィのようにうまくいかず、結局、変顔大会になってしまった。

二人だけで自然に囲まれているとこんな勝手なことしているから歩みはノロいけど、時間つぶしは得意だよ。

気がついたら彼らの姿は見えなくなっていた。



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