伊豆天城山でハイキング-45
部屋に戻ってちょっとゴロリ。荷物を片付けてパソコンを閉まっているとあっという間に夕食時間の18時になった。同じ階にあるお食事処に行こう。
入り口には名前が書いてあり、そこで靴を脱ぐ。
「今日は混み合っている」
チェックインの時にそう聞いて、屋上露天風呂の予約もいっぱいだったのに用紙は三組分しか用意されていなかった。まぁ入り口はもう一か所あるからそこにも同じように並んでいるのかもしれないし、素泊まり利用者もいるのかもしれない。
担当のスタッフさんが声をかけてくれてテーブルまで案内してくれる。
なんだか贅沢。
案内された個室にはテーブルの上に二名分の食事が用意されていた。
昔から他人の仕草や声を気にせずにプライベート空間でゆっくり会話と食事を楽しめる個室が好きだ。
自然と私が奥の席に、たぁが廊下側の席に座った。
うん、これで合っているみたい。
理由は私のほうにアワビが、そしてたぁの席には牛肉が用意されているからだ。
予約の時、食事内容を確認すると「和牛」の文字があった。贅沢な逸品だけど、私は牛を食べない。少しならまだしも食べすぎると消化不良を起こし、気分が悪くなってしまう。折角の旅行中にそんな思いはしたくないので、事前に牛を別の食材へと変更してもらえるようにリクエストを出しておいた。和牛が何に代わるのか知らなかったけど、今、答え合わせができた。前菜にも気を使ってくれたようだ。
「このアワビ、まだ生きてるよ」
お皿の上でひっくり返されたそれは這いつくばる場所を探すようにウニョウニョ動ている。
その様子を撮影していると食事担当のスタッフさんがやってきて、本日のお品を説明をしてくれた。
「アワビは網の上に置いて、五分ほどすると動きが止まりますのでその頃が食べごろです」
「わかりました」
焼いてくれるのかと思ったけど自分で焼くシステムなのね。ちゃんと食べごろがわかるか心配だわ。
「お飲み物は何かご用意いたしますか」
卓上メニューには地ビールがお勧めと書いてある。
「地ビールを二つお願いします」
「かしこまりました」
丁寧に接してくれるとまるで社会的地位がアップした気分。
ありがとう、全国旅行支援キャンペーン。
スタッフさんが姿を消したところで、おてての皺と皺を合わせて「いただきます」。
「何これ、すっごくおいしい」
たぁが丸い目をさらに丸くして驚いている。その手に持たれているのは前酒。飲んでみるとピーチリキュールだった。
「本当だ。味がすごく濃いね」
「これ買って帰りたい」
「後でスタッフさんに聞いてみよう」
さて、地元野菜のマリネ・パフェ仕立てを食べてみるか。
うーん、この赤いジュレって多分トマトだよね。
私、トマトが嫌いです。
だけど何事も挑戦とばかりに口にしてみると、小さいおめめが大きく開いた。
ジュレからはトマト特有の香りが漂ってこず、おいしく食べられるっ!
トマトはスープやソースなら食べられるけど生だと食べられないことが多いだけに、冷えたこれをパクパクいただけることが嬉しい。
克服できたのではなく、シェフの腕のお陰だとわかっていても自分が誇らしいわ。
スタッフさんがビールを届けてくれたタイミングで聞いてみる。
「すみません。この前酒はホテルで購入できますか」
「ちょっと待っていてくださいね」
しばらくすると料理長さんが来てくれた。焼けたお肌に明るい髪の毛、いかにも“伊豆でサーフィン満喫しています”感が隠せない。
「申し訳ないのですが、こちらは販売していません。もし気に入っていただけたのならもう一杯お持ちしますが」
周りには公言するなといわんばかり口の横に手を添えて、私たちに聞こえるようにそしてわかるようにアピールしてくれた。
この特別感にちょっとワクワクしちゃうよ。
「是非、お願いします」
お家に連れて帰れないなら、優しさに甘えさせていただきます。
だって本当においしんだもの。
部屋は個室でも入り口は開いている。斜め向かいの部屋にはカップルの姿が見える。そして大部屋からははしゃぐ子供の声が聞こえてくる。だけど左右の部屋から声などは漏れてこない。
効率性を考えてすべてのお客を近くの部屋に並べずに、声が聞こえないように配慮をしてくれているおもてなし、最高です。
さすがだわっ、ザ・ニッポン。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
無空真実の電子書籍です。よろしくお願いします。
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