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伊豆天城山でハイキング-44

丁度よい温度でもずっと浸かっていればのぼせてくる。だけどまだこの至福な露天風呂タイムを楽しんでいたい。
お風呂の端に座り、体が完全に冷めてしまわないように足だけはお湯につけて、波打つ海の音と景色を楽しむ。寒さを感じたらまたお湯にお湯に浸かる。


それを何度か繰り返し満足してから部屋に戻るとすでに16時を過ぎていた。
ドアの鍵は開いていて、たぁは景色を見ながらギターを弾いていた。

「お風呂、ゆっくり楽しめた?」

「うん」

「鍵持っているからって焦らなかった?」

「大丈夫だった」

それが嘘だとしてもそれは彼の気遣い、これ以上同じ質問を繰り返すのはやめよう。優しい旦那さんで良かった。


17時から屋上にある貸切展望露天風呂の予約をしている。しばらく時間があるからいい加減、進めなくてはいけない仕事に手を付けよう。たぁはずっとギターを弾いている。

「ねぇ、隣のホテルの駐車場にばっかり車が来て、僕たちのホテルの駐車場にはほとんど止まらない」

チェックインの際に受付スタッフさんは言っていた。

「今日は混み合っていますから」

数組のお客さんとは会ったけど込み合っている雰囲気とは違う。
そういえば、私たちは歩いてきたし、チェックインしていた人も車じゃなかったと思う。
混んでいないに越したことはないのに、なんだか寂しくなるって、「隣の芝生は何とやら」状態だ。


与えられた時間は有効に使いたい。家族だけで利用を許された屋上露天風呂の制限時間は25分だ。着替えまで終わらせて17時25分には出ないといけない。

こういう時、ルーズになり切れない私は緊張する。


16時55分、一階の受付に貸切露天風呂の鍵を取りに行くと、籠の中にそれは置いてあった。手に取り、最上階を目指す。エレベーターは4階までしかいかず階段を上っていくと小さなドアがあり、ここが目的地だ。

鍵を持っていた私がドアを開けようと穴に差し込むものの、うまいこと動かずたぁにお願いする。彼の方が頭は柔らかく、力持ちだ。

ガチンっ。

ちょっと鈍い音がした後、無事、ドアが開いた。

脱衣所は三人でいっぱいになってしまうほどに狭い。二人だとしても家族じゃなくちゃこの空間を共有する気にはなれない。お風呂はというとジャグジーを思わせる白い八角形のバスタブ。

ちょっぴりミスマッチな感じが・・・・・・。

そう思ってもたぁと二人で露天風呂を楽しめる機会なんて滅多にないから、ポジティブに目を向けよう。

お風呂からは下の階にある女性風呂とほとんど同じ景色が見える。


2人で波音を聞きながら、ゆったりとした時間を過ごすけど、なんだか落ち着かない私。

「ここに時計がないから時間がわからない」

「ここから見えるよ」

たぁは出入り口のドアの上を指差した。
そこからは脱衣所の時計がお風呂に浸かりながらでも見られるようになっている。

なんて賢い作りだことっ!

うん、まだ時間は十分ある。

それに気づけば心にゆとりが生まれ、しっかりと景色とお湯を楽しめるようになった。


17時過ぎの夕時、空はほんのりうす暗くなり、オレンジがかっている。

あっ、そういうことかっ!

一階のエレベーター乗り場の前に日の出時間が書いてあった。今は太陽ではなくほんのりと白い月が見えている。ということは、ここから海から上る朝日を楽しむことができるんだ。

もし日の出時間にお風呂を貸し切っていたら最高の時間になったのに。

そう、悔やんでも仕方がない。

たぁとお風呂に入る機会を与えられただけでも素敵な時間に違いない。


いい子な私たちは17時25分前には洋服を来てお風呂を後にし、私だけが一階に鍵を返しに行った。
その時、ちょうど受付の人が貸切露天風呂のファイルを開いていたので、チラ見してみると確かに予約でいっぱいだった。

予約は朝の6時からできるようで、朝日が期待できるこの時間にもしっかりと予約が入っていた。

またここに訪れる機会があれば、今度は何時に貸切露天風呂に申し込めばいいのか、もう、わかったもんね。



主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



これまでのお話


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