伊豆天城山でハイキング-35
数時間後に昼食を食べることを思いながらもお腹いっぱい、おいしい朝食をいただいた後、一人に一枚支給された無料コーヒー券を使ってコーヒーをいただくことにしよう。
二人家族の私たちは二枚なのに三人で来たささ家族は四枚持っている。
昨夜、ささは私の隣の列で研修中のスタッフの元、のんびりゆっくりとチェックインをしていた。
「三人なのに四枚もらっていいんですか」
「いいからもらっておきな」
そう言ったのは私だ。
スタッフにこれ以上、無駄なストレスをかけたくもなく、かけられたくもなかったからだ。
コーヒーマシーンの横には穴があったので、私はそこにチケットを投入して、スタートボタンを押した。
みんなが焦った。
「カップがないよ、カップが」
「えっ、えっ、えっ」
だってカップは機械から出てくるんじゃないの?
私の頭にはコーヒーの自動販売機が浮かんでいた。
シャーーーーーー。
皆の予想通り、無情にもカップが置かれていない受け口にコーヒーが流れ落ちる。
何においても無駄遣いが嫌いだ。
なのに、とんでもない無駄遣いをしてしまっていることに心が動揺しながらも顔を上げると機械の上に案内があった。
「受付にてチケットと交換してカップをもらってください」
私がチケットを入れる場所だと思い込んだ穴は紙コップを捨てるゴミ箱だった。
受付へと顔を向けるとスタッフさんも苦笑い。どうやらこの失敗、私だけではないようだ。だからこその注意書きだったんだろう。
そうだと思いたい。いやっ、思わせてください。
私の背よりも高い場所に案内が表示されていたら、文字が絵に見えてしまう私にとってそれはもはや背景である。
「ごめんなさい」
「大丈夫ですよ」
そうって彼は私に紙コップを一つくれた。
もう一度、スタッフさんにごめんなさい。
もう一度、無駄にしてしまったコーヒー豆とお水、そしてコーヒーを作るためにかかったすべての労力にごめんなさい。
「僕はいらない」
たぁは朝食でコーヒーを二杯飲んでいた。
「でも折角だから」
そう言って、たぁの分と合わせて二杯のコーヒーを注ぐと、ささ家族は一杯のコーヒーと三本のビー玉ラムネを持っていた。
「コーヒーを飲めない人はこれに替えられるんだって」
コーヒーを得意としないららのために受付で尋ねたら、そう言われたそうだ。
「何それっ?知っていたら私たちもラムネにしていたよ」
なんだかトホホ。
二人になってからたぁに言われた。
「どうしてゴミ箱にチケットを捨てたのか不思議だった」
もし捨てようとしている瞬間にそれを言ってくれたら違う今があったかもしれない。
後の祭りだけど。
互いの部屋に戻って荷物まとめと食後のリラックスタイム。10時がチェックアウトなので9時50分に駐車場で待ち合わせをすることにした。
たぁはすぐにギターを弾き始め、私は荷物をまとめてからパソコンを広げる。数週間後に3冊、4冊目となる本を二冊同時に出版したい。この旅行を迎えるにあたって瞑想をしていた時に「パソコンを持っていくといい」と言われれていたのでちゃんと準備をしておいた。
大詰めを迎えている時の人の集中力はすごい。
のんびりと流れるギターミュージックをバックにどんどん進めていく。待ち合わせ時間ギリギリになって、パソコンを閉じてバックにしまい、外に出ようとする私と見て、余裕をかましギターを弾いていたにも関わらず、準備が終わっていないたぁは一人で焦る。
彼はなんでも私に依存する癖があり、口うるさく言わないと彼は準備ができない。なのに口うるさく言われることを嫌がるから困ったもんだ。
今日もちゃんと部屋を出る時間は伝えておいたけど仕事に夢中だったから、それ以降は何も言わなかった。
「ちゃんと言ったのに。先に行ってるよ」
置いていくことだって一つの教育だ。
約束時間ちょうどに外に出るとららが歩いてくるところが見えた。彼女も他の二人を置いて出てきたようだ。
「飛行機や新幹線に乗るときは時間を守れるんでしょ。どうしてそれをいつもやらないの?」
遅刻癖があるささ家族に待たされることは一度や二度なんてもんじゃない。それがほとんど習慣化して、謝りもしなかった時期だってある。昨日の準備のノロさもあって、昨夜、そう伝えたことを彼女だけは覚えていたようだ。
だけどららは車の鍵を持っていなかった。遅れてくるメンバーを待つために時間潰しするのはもう嫌だったので、後からすぐに出てきたたぁとららを残して、チェックアウトをするために受付へと向かう。
幸いお客さんはおらずスムーズに行うことができた。外に出ると小走りでこちらへとくるささがいた。
駐車場へと戻って、最初に下りる私たちの荷物を先に出せるように荷物を詰める手伝いをしていると、ちょうど終わった頃にささが戻ってきた。
思ったよりも時間がかかったな。
「チェックアウト大変だったの?」
「うん、前に学生の団体がいて、支払い時になってから集金を始めから、それが結構時間がかかって」
あぁ、たまに出くわす嫌な場面だ。
受付の人も集金を待っている間に、後ろに並んでいる人の手続きに取り掛かればいいのに。
今日はこれから伊豆熱川に向かう。次のホテルのチェックインは午後14時。ささ家族は「釣りを楽しみたい」と言っていたので、それまで便乗させてもらおうと思ったけど、今はそんな素振りは全然見せない。まぁ、散歩や海を見ていれば時間はうまく過ぎていくことだろう。
車に乗り込むとドライバーシートに座っているのは、なんと“らら”。
ゲッ?
今日も彼女の運転?
なーんて、思っていても口には出せない。
なぜなら彼女は俄然やる気だからだ。
それを知った私とたぁの心拍数はちょっとだけ早くなった。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
【無空真実よりお知らせ】
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Amazon Kindleより二冊の電子書籍を出版いたしました。
人生を模索しながら生きている二人の旅をどうぞお楽しみください。