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ものづくりが本当に売るべきものは何だろう

1990年代の半ばか、あるいは後半だったか。。。とにかくだいぶ昔の話です。

確かどこかの飲み屋のカウンターでたまたま隣り合わせて1度だけお話しした男性がいました。僕もまだ30歳代半ばの頃。時代はインターネット(ホームページ)黎明期。
彼は木曽方面(だったと思う)で陶器を作って暮らしていると言っていました。
物作りを志して技術を習得し、工房(釜)を持ち目標としていた生活を始めて何年かが過ぎたのだけれど、実際は生活は楽ではない。

そこへインターネットというものが出現して、彼は「これだ!」と感じたそうです。その時、僕もまさにそう感じていた頃でした。

「今まではお金をかけなくては雑誌や新聞に広告も出せなかったし、沢山の人達に自分のやっていることを知らしめることは難しかった。でも、『インターネット』が出現して、ネット上のショッピングモールも流行り、また自分の『ホームページ』を作れば、『世界中の人達』が見に来てくれる。これでもう『田舎』を恐れることはない。都会と肩を並べて商売ができる」

彼はそう思ったそうです。
それでせっせと「ホームページ」を作り宣伝をしました。

しかし、実際は思ったほど彼の陶器は売れなかった。
彼は言いました。

「所詮、茶碗ですよ。」
「多少の意匠の違いこそあれ、ネット上の写真とかで見ればただの茶碗。どれだけ熱意がこもっているか、工夫をしたのかなんてことはなかなか分かって貰えません。どこのサイトでも似たようなものが売ってるんです。結局は安くないと売れない。」

酒の酔いも手伝って、彼と僕の議論は長く続きました。

「結局のところ僕ら『物づくり』は、商品を売らんかなのやり方ではダメなのじゃないだろうか。僕らが売らなくちゃならないのは、分かって貰わなくちゃならないのは、『自分』、あるいは『自分の生き方、考え方』ではないだろうか。」

「田舎に住んで自分が目指すものを作りたい「自分」が居る。
『どんなことを考えて、何を目標として日々生きているのか。』
それに共感してもらい、それを納得してくれた人がその品物を購入してくれる。それしか差別化の方法は無いんじゃないだろうか。」

そんな話をかなり夜更けまでしたのを覚えています。

結局深夜まで飲んで酔っ払って「じゃあね」と別れ、それっきり。
彼がどこの誰だったのかも分からないままです。
でも、この時の話はすごく深く僕の心に刻まれて、今だに僕の根本的な考え方になっています。

なんだか、今夜はふとそんな昔のことを思い出しました。

時は流れインターネットやSNSが当たり前になり、ネット上のショッピングモールで溢れんばかりに品物が売り買いされる中、その中で自分の作ったものが埋もれてしまわないように、どうやってアピールして行くのか。

共感し、共感される中でどうやって自分の個性を差別化して行くのか。
無理をして自分を見せるのではなく、あくまで自然体で居ながら差別化をし個性を出して行く。

大きな課題ですね。

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