第65話 「ものづくりの起源」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年2月5日掲載分)

蓼科での生活もあっという間に3ヶ月。先日、自分たちの住む八ヶ岳山麓の観光スポットを把握しておこうとあちこちドライブ散歩をしている時に、黒曜石をテーマにした博物館を見つけました。


八ヶ岳の北エリアには良質な黒曜石の産地があり、3万年も前から旧石器時代の人々が加工してナイフや矢じりとして使っていたそうです。

大昔のものづくりはどんな様子だったのでしょうか。想像が膨らみます。


遠い昔、ヒトは森で木の実を取り根を掘り、時には捕まえた動物を食べたり皮を剥いだりしていました。しかし素手だけではなかなか大変で都合が悪いことが多かったでしょう。


ある日、群れの中の誰かが辺りの木の棒や石を手の延長として使いはじめます。道具の誕生です。やがて少し器用な者がそれに手を加え工夫し、より便利な道具を作り出します。ものづくりはそうやって始まっていったのだろうなと想像します。


ものづくりは生活の中の様々な問題の解決方法のひとつであり、同時に人間を人間らしく方向付ける最初の一歩でした。不便な事柄を何とかして便利に快適にしたいという意志がヒトをものづくりに向かわせたのです。


木で槍を作り、石で斧を作り、土を捏ねて器を作り火を使い、そして様々な道具を駆使してヒトはやがて家をも作るようになったでしょう。

最初は皆で協力してモノを作り共同で使っていたのが、そのうちその作業を得意とするものが専門に取り組むようになってきます。


モノに愛着を持ち模様を刻み、より洗練された使いやすい道具や器を作ろうと工夫を重ねるうちに固有の意匠が生まれ、それを欲しいと思う他の者との間で取り引きが生まれます。お互いの持っている物の価値を比べ交渉し、物々交換も盛んになっていったと思います。同じ品物を作っている人同士で競争意識も生まれたことでしょう。


時が経つにつれ、シンプルな道具や器であってもその便利さだけではなく、美しさも比較されるようになってきただろうと想像できます。


人間がものづくりを通して生活を便利にし、そしてそのモノに美しさまでも求める事は非常に興味深い事です。動物などには無い人間だけの欲求だと思います。


八ヶ岳産の黒曜石で作られた矢じりなどの道具は、その美しさと価値を認められてブランド化し、縄文時代には遠くは北海道など日本の各地にまで運ばれたようです。

縄文時代の職人たちは何を思い、何を語りながら黒曜石を刻んでいたのでしょうね。

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