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市民タイムスリレーコラム掲載記事集

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長野県松本市の市民タイムスという新聞で、2015年6月から2021年5月まで、毎月1回コラム記事を担当していました。 自分自身、もう一度読み返してみたいなという気持ちもあったの…
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記事一覧

第68話 「お世話になりました。」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年5月5日掲載分) 2015年から6年間に渡って書かせていただいたこのリレーコラム、僕の担当は今回が最終回となります。 長かったような短かったような。もう6年も経ったんだなぁと感慨深く感じています。 もの作りの人だから何か面白いことを書くのではないかとスカウト?されてのスタートでしたが果たしてそれらしい話ができたでしょうか。 「木と音と人と」。そんなもったいぶったテーマで書き始めたコラムですが、案外多かったのはお酒や食べ物の話だっ

第67話 「人気職業ランキング」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年4月5日掲載分) 今年はあちこちで早めの桜の開花が見られたようで、そんな話題が暖かな陽気と共に幸せな気分を運んできます。でも例年と違いすぎる気候には何となく不安もあります。うららかな季節が続いてくれると嬉しいけれど、その後に長く過酷な夏なんて事にならないだろうかと少し心配です。 ともあれ春は新しい季節の始まり。相変わらずのコロナ禍ではあるけれど、進学や就職で新たな環境でスタートを切った人も多いでしょうね。おめでとうございます。

第66話 「人間と自然」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年3月6日掲載分) 八ヶ岳の緑の中をドライブ中に、突然視界に現れた真っ黒なソーラーパネル群に違和感を覚えたという話を以前このコラムで書きました。 僕自身は太陽光発電自体には全く反対というわけではありません。むしろ原子力発電に比べたらかなり安心できると思っています。ただその設置場所についてはよく考える必要があると思います。 緑豊かな八ヶ岳の山すそを人工的な黒い太陽光パネルが覆い尽くすのはやはり残念なことと思いコラム記事を書いたの

第65話 「ものづくりの起源」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年2月5日掲載分) 蓼科での生活もあっという間に3ヶ月。先日、自分たちの住む八ヶ岳山麓の観光スポットを把握しておこうとあちこちドライブ散歩をしている時に、黒曜石をテーマにした博物館を見つけました。 八ヶ岳の北エリアには良質な黒曜石の産地があり、3万年も前から旧石器時代の人々が加工してナイフや矢じりとして使っていたそうです。 大昔のものづくりはどんな様子だったのでしょうか。想像が膨らみます。 遠い昔、ヒトは森で木の実を取り根を掘

第64話 「牛の歩みも千里」

(松本市民タイムス リレーコラム 2021年1月9日掲載分) 明けましておめでとうございます。 皆さん今年はどんなお正月でしたか? めでたいけれど油断の出来ない、初詣も新年会も実家への帰省もままならないという今までにない新年の始まりでした。この事態は数ヶ月では終わらないなという雰囲気が見えてきた年明けだったと思います。皆さんもくれぐれも気をつけて日々をお過ごし下さい。 さて丑年の2021年、僕は60回目の誕生日を迎えます。実は今年は僕にとっていろいろとアニバーサリーな年

第63話 「脱皮」

(松本市民タイムス リレーコラム 2020年12月9日掲載分) 前回のコラムにも書きましたが、我が家と我が工房は11月始めに蓼科に引っ越しをしました。 「引っ越し」といっても実際は荷物を運んだだけで、その後しばらくは何度も松本に戻って工房の片付けや引き渡しをしたり、住んでいたマンションの売却手続きをしたりとせわしない日々が続きました。 蓼科工房の荷物の整理や機械類の整備が終わって実際に楽器作りを再開できたのはやっと12月1日。10月の半ばに最後の楽器発送を済ませてからほ

第62話 「蓼科移住」

(松本市民タイムス リレーコラム 2020年11月10日掲載分) 予定通り計画が進んでいれば、皆さんがこのコラムを読んでいる11月10日には僕は茅野市民として蓼科中央高原で暮らし始めているはずです。 11月最初の週に工房と住居の同時引っ越しという一大イベントを済ませ、ぐったりしながらもホッと胸をなでおろしている頃だと思います。 1年前に「セミリタイア」という題のコラムを書きました。自分なりのセミリタイアとして「いつかはもう少しゆったりと自分の”モノづくり”ができるようにな

第61話 「我が家にオルガンがやってきた」

(松本市民タイムス リレーコラム 2020年10月10日掲載分) 初めて見た時、そのオルガンは薄っすらと埃をかぶっていた。 古材屋の2階で、年代物の戸棚や古道具に囲まれてまるで古びた家具のようなふりをして静かに佇む木製の足踏みオルガン。最初に見つけたのはうちの細君で、ピアノの経験もある彼女はそのこぢんまりとした素朴な雰囲気に惹かれたらしい。 「これ、どうだろう?」という声に呼ばれて近づいてみる。 鍵盤を押さえながら木製のペダルを踏んでみると、スースーと風が漏れる音に混じ

第60話 「旬のサンマ」

(松本市民タイムス リレーコラム 2020年9月10日掲載分) 9月。夏日が続く信州ですが朝夕は幾分穏やかになりました。 7月の長雨で日照不足が心配だった稲も、今は無事に穂が色づいて頭を垂れてきています。  田んぼや畑仕事には直接の関わりがない自分でも、やはり作物の実りは心が浮き立つような幸せな光景として目に映ります。 道路脇の田んぼの黄金色を見て、何とも言えない嬉しさとともに作物を苦労して育てている皆さんへの感謝が湧いてきます。 9月は実りの季節の始まりです。1年を通

第59話 「熟年から熟成期へ」

   (松本市民タイムス リレーコラム 2020年8月11日掲載分) 2ヶ月ほど前、夜中にぼんやりとテレビを眺めていると何やら美術に関する番組をやっていました。 画面にはかなり年配の男性。長い棒の先に付けたチョークで、床に広げた大きな紙にゆっくりとしかし大胆に何か抽象的な絵を描いています。やがて下絵を書き終わると老人はハサミでその形を切り抜いていきます。この型紙はその後染色工房に運ばれて壁を覆うような大きな作品に仕上げられて行きました。 僕はこのテレビ番組で初めて柚木沙

第58話 「梅雨と木材」

7月、梅雨。雨の日が続いています。 工房周りの雑草たちは絶好調で生き生きとしていますが、楽器作りとしては毎日湿度計から目が離せない嫌な季節です。 フル稼働の除湿機は半日で水タンクが一杯になり、工房内の湿度は50%程度を目標にしていますがうっかりするとすぐに大きく超えてしまいます。神経質な湿度管理は木材の寸法変化を防ぐためです。 よく「木は切り倒した後も生きて呼吸を続けている。」と言われます。実際は木材が生きているわけではなく、湿度を吸ったり吐いたりする様がまるで生きている

第57話 「漁師とビジネスマン」

先日、工房で働いていた従業員が最後の出社日を迎えました。 少し寂しくなりますが、これからは人を雇わず妻と2人だけで小さな工房を営むことになります。 今まで僕の我がままに付き合って一緒に苦労をしてきてくれた歴代のスタッフには心からの感謝を伝えたいと思います。至らぬ社長だったけれど、一緒に仕事をしたことで少しでも楽器作りが面白かった、楽しかったと言って貰えたら本望です。 昨年11月のコラムにセミリタイアの事を書きました。こういうことは口に出すと動き始めちゃうもので、その後状況

第56話 「ToGoで楽しもう」

世はコロナ禍の真っ只中。新聞に「コロナ」の文字が無い面を探すのが難しいくらいです。残念ながら当面はウイルス感染に気を付けながらの生活が続きますが、そんな中でも少しでも楽しみを見つけて過ごしたいところです。 さて季節は立夏。5月ともなればそろそろTシャツが気持ちいい時期になってきます。山も緑になり始めスーパーでも大きなタケノコを見かけるようになりました。そうなると楽しみなのは山の幸。 不要不急な外出は控えると知りつつも、山菜の販売にも貢献せねばという屁理屈を胸にマスクと消毒

第55話 「音楽の役割」

4月。新しい季節の始まりですが、今年は残念ながらいつもと違うスタートになりました。 世界中でこの数ヶ月に7万人もの人がコロナウィルスの感染で亡くなっています。本当に信じられない事です。 今までに人類は多くの災害に遭い、その度に皆で力を合わせ手を取り合って乗り越えてきました。でも今回のこのウイルスは人が手を繋ぎ合うことが難しい災害です。世界中の都市が閉鎖され分断され、国同士もお互いに疑心暗鬼になっています。 それだけでなく、一旦感染してしまうと家族同士でさえ触れ合えません。苦