まず利益。そして成長。(2/2)
なぜ売上高の成長は難しいのか。(前回はこちら)
それは、自社のサービスを買うも買わないも全てお客様の胸一つで、提供者である自分たちの都合で決定できることは一つもないからです。
苦境に陥った原因が自社製品・サービスの質の低さであったならば(そして残念ながらほとんどのケースでそれが原因なのですが)、まずそれを直し、再びお客様に選んでもらえるようになる必要があります。これは並大抵の努力では無理です。
競合が安い類似商品を出した、時流に乗り遅れた、産業分類ごと衰退した、別のビジネスモデルに完全に置き換えられた、事故を起こして顧客の信頼を失った、経営が意欲を失った、セールスチームの力不足、そもそも商品の質が低い等々・・・。
理由は無限に存在するので対策も無限に存在しますが、少なくとも私自身は、次のように考え、行動してきました。
(1)まず大前提として、トップラインを上げるのは経営の本来業務であって、現場の仕事ではないことを肝に銘じる
(2)なぜなら、現場メンバーの個々の頑張りで打開できる程度の問題であれば、会社は経営危機に陥らないからです。経営危機に陥ったのは、売上を上げるための全体「構造」がもはや機能しなくなったからです
(3)そして、売上を上げる構造は、全社横断・部門横断で構築する必要があるので、経営以外にそれを担える者はいないことを自覚する
(4)裏返すと、「構造」も作らずに営業や生産現場に発破をかける、あるいは脅したり無理な予算を持たせるのは無意味なだけでなく残酷であること。どんなに兵隊を追い込んでも、竹槍ではB-29を撃墜できないからです。それをやられると現場は、個別最適に逃げるか(自身や自部署のことだけを考えて、他を攻撃し始める)、嘘をつくか、辞めるか、謀反を起こすか。いずれにしても成果には絶対つながりません
(5)売上を上げるためには(あるいは、どんなことであれ成果を上げるためには)「リソースを徹底的に集中させる」ことがすべてのスタート。自分が弱者であることを自覚し、ほとんどのものを捨て、勝つ可能性の高い一点に絞って突破する構造を作り、それを定着させるのが経営の仕事
(6)例えば営業機能が社内に散在しているのであれば、それを統合する。あるいは売り物がとっ散らかっているのであれば、一番強い商品1つに絞り込む。カスタマージャーニーに問題があるならば、ゼロベースで見直し、自社でできないパートは捨てる。サーブすべき顧客層がずれたなら、いらない顧客は捨てる。この過程は多くの反発を生むので、腹をくくり、ぶれずに進む
(7)統合された営業機能、絞り込まれた商品、再編された業務プロセスが想定通りに機能するよう、制度上の担保をする(権限の持たせ方、予算の作り方、評価の仕方)。特に、経営判断で何かを捨てる以上、それを捨てさせられた人への、予算面・評価面・精神面での丁寧なフォローは極めて重要
(8)能力の低い若手や中途入社者でも成果を上げられるような「仕組み」や「型」を作ってあげて、その訓練を徹底する。特定の熟練したセールスマンや生産者しか成果を上げられない組織はスケールしないので、「トップラインを継続的に上げていく」解決にはならないことを肝に銘じる
(9)1つの突破口が開ければ、それが自然に次のセールスにつながる仕組みも作る(一点突破、全面展開)
(10)この取り組みがうまくいっているか、現実的なKPIを設定し、それを執拗に追い続ける。細かすぎるKPI、多くの加工が必要になるKPIは自己満足に陥るので避ける。必要なのは、「すぐに把握でき」「具体的なアクションにつなげられ」「結果につながる度合いの大きい」KPI。借り物のKPIは、役に立たないのに「それっぽく見える」ので、二重に最悪です
(11)その上で信賞必罰を徹底。仕組みに従わない者にはペナルティを与え、従う者を高く評価する。成功例を拾い上げ、全社の前で大いに賞賛する。これにより、ゆるぎない価値観を染み渡らせる。この段階になり、初めて現場の頑張りが全社業績を左右するようになります(これ以前は経営の責任)
(12)ここまでやっても成果が出ないのであれば、仕組み自体が間違っている可能性があります。その場合は経営の責任なので、誤りを認めて責任を取ることが必須。経営も信賞必罰は免れないことを明確にしないと、こうなります。そして、なぜ想定通りにいかなかったのか真摯に反省し、改めるべきを改めて、再度(6)からサイクルを回す
(ちなみに、(6)から(11)で作り上げた「成長のための構造的根拠」を壊してしまうとどうなるかは、ここで予言した通りです。)
売上高を伸ばすことはまさに経営の腕の見せ所。どんな会社、状況でも使える万能のソリューションはありませんが、「資源を集中させること」「そのために必要な全社的な変革を牽引すること」「反発を織り込み、ぶれないこと」だけは、すべての事業再生案件に共通しています。
「決断=断つことを決める」とはよく言ったもので、何かに集中することは何かを捨てることでもあります。そして、会社の何かを捨てることができるのは経営だけなので、まさにトップライン成長は経営の仕事になります。
愛着あるものを捨てること、反発されてもぶれないこと、成果が出るまで自分の正しさを誰にも証明できない状況にじっと耐えること。
これが難しいので、トップラインの成長は難しいのです。
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