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デジタルで小売は再生できるか(2/2)

前回の続き)

■出店者がリアルタイムで商品価格を変更できる機能もある。これによりキャンペーンの内容やフェーズに応じて価格を変えたり、正式発売前にリアル店舗での価格弾力性を試すこともできる。この実験機能は出店者に非常に好評で、これだけを試したいというブランドもあるくらい。

■オンラインからオフラインへの送客効果測定は、大きな課題。その逆も然り。これは認めざるを得ない。プロモーションコードなどを使ったキャンペーンメールなど、従来型の仕組みに頼っているのが現実。

(竹内コメント:これについてはやっぱりな、という印象。)

■在庫は基本的に店頭にあるので、購買後そのまま持って帰れる。支払いは当然のことながらクレジットカードのみ。

(竹内コメント:オンライン購買に誘導するのかと思っていたので、これはびっくり。自分も、手のひらサイズの自動追尾型ドローンカメラをその場で購入。$160。)

ちなみにショッピングバッグは、個別のブランドのものではなくb8taのもの。

■電動自転車や電動スケートボードなどの大型商品についてはスペースの関係上置いていないので、直接出店者のサイトで買ってもらうことになる。店頭でタブレットを使って購入してもいいし、b8taのサイトを介さず、直接出店者のサイトで購入して貰ってもいい。

■(b8taのサイトを介さないと出店の効果測定ができないのでは?との問いに対して)確かにそうだが、出店者の自社サイトにおいて「どこで当社の製品を知りましたか?」という質問事項を設けているので、それでトラックしている。

(竹内コメント:ここは意外と心細い答え。オンラインでの購買に誘導する思想があまりない?)

■出店区画のディスプレイ等については、基本的に全て統一している。自由に装飾したりPOPを掲出したりはできない。

ちなみに、タブレットで「Buy Now」を押すと「店員が来てあなたのオーダーをお伺いしますので、今しばらくお待ちを」とのメッセージが表示され、それでいて誰も来ないので、こちらから店員に声を掛けるなど意外と最後の詰めが甘いな、という印象もありました。

Macy'sの狙い

Macy'sは、b8ta出資の狙いをこう語っています。

“Macy’s is in the experience business. We’re always looking for new formats that allow our customers to discover and connect with our products and services in-store in a way that drives engagement with our brand,” said Hal Lawton, president of Macy’s. “We’re pleased to deepen our partnership with b8ta that will provide the technology engine for The Market @ Macy’s. This will allow us to scale The Market @ Macy’s concept faster, furthering our goal of bringing more excitement and fresh experiences into our stores.” 

最近はどんな企業も「we are in the experience business(我々の商売は「体験ビジネス」である)」と自身を位置付けますが、Macy'sも同じですね。皮肉ではなく、これは全く正論だと思います。それが実際のアクションにどう反映されるかは、また別の問題ですが。

「店頭での顧客体験をよりエキサイティングで新鮮なものとするため、b8taとのパートナーシップにより、『The Market @ Macy's』コンセプトを進化させていく」と決意を語っています。

b8taは小売の顧客価値を露わにする

自分から見てb8taが興味深いのは「小売の顧客提供価値をむき出しにするポテンシャルを秘めているから」です。

b8taの凄みは、誰でも数クリックで実店舗に出店できるというビジネスモデル以上に、「デジタル側の人間から見た小売の当然あるべき姿」を実現しようとしていること、すなわち「小売店舗は(歴史的に特別な使命を担っていた経緯はあるにせよ)あくまで商流における1チャネルに過ぎず、他のチャネルと同様に、ブランド側が期待する認知、態度変容、コンバージョン獲得能力を備えていて当然だし、その能力は常に計測・改善されなければならない」という思想を実践していること、にあります。

eコマースであれば当然に求められる成果を物理店舗にも求める構造を作ることで、物理店舗であってもそのチャネル特性に応じた成果を上げない限り、他のチャンネルとの比較で予算配分できなくなる世界をもたらそうとしているようにも見えます。

b8taは小売を救えるか?

では、b8taはMacy'sを、あるいは小売を救うことができるのでしょうか?

自分としては「さすがにそこまでのインパクトはない」と思います。

小売目線で見るとb8taの提供価値は、オフラインでのプレゼンスを欲しがるブランドと物理店舗をつなぐことで、店舗がマネタイズしきれていなかった物理トラフィックを収益化する機会をもたらすこと、すなわちトラフィックすら十分にマネタイズできてなかった店に、少なくともトラフィック分のマネタイズ機会を提供していること、に見えるからです。

もちろん、出店者目線で見ると、顧客行動データの集積による商品力の改善や、テクノロジーによる接客力の向上により、「トラフィックのコンバージョン率(CVR)を上げる」ことも価値になるでしょう。ただ、それは他のオムニチャネル・ソリューション・ベンダーもやっていることで、b8taの最大の差別化、最大の価値は「好立地(=店前通行量の多い)の物理店舗に出店できること」に尽きると思います。

そして、もし「物理トラフィックの追加マネタイズ機会の提供」がb8taの最大の価値であるとするならば、そもそも物理トラフィックに乏しい、立地の悪い小売店舗は手伝うことができません

b8taがやっているのは、既存の店前・店内通行量のマネタイズやCVR改善であって、独自に客を連れてくることではないからです。

集客力、店前通行量に乏しい店では、そもそもオンライン専業のブランドからカネが取れないのでマネタイズできないし、トラフィックがなければCVRを改善しても収益化できないので、b8taが救える小売業者は、残念ながらかなり限られる、というのが自分の意見です。

結局、小売の顧客提供価値とは何か?

結局、小売業の顧客価値は、商品の目利きでもなく、メーカーとの価格交渉力でもなく、ブランド(のれん)でもなく、単純に立地であるという確信に自分は至っています。

正確に言うと、立地がもたらす物理的な店前通行量、トラフィック。

「店は、いいところにあって、人がいっぱい通りゃ、それでいいんだよ」という、身も蓋もない現実を、b8taはさらに露骨に示しているように見えます。

「小売業者にとって出店こそが最大の販促であり、最大の付加価値である」ことは広く認識されていますが、それ「だけ」が価値と言われると小売経験者は釈然としないかもしれません。自分自身、小売に携わっていた経験があるので「そんなに簡単に言い切っていいの?」というためらいもあるのですが、

- アメリカの小売が瀕死の状況にあり、

- その中にあって、好立地の店舗については、b8taのような仕組みで再生させようとする試みが生まれていること、

- それ以外の立地の悪いモールなどについては、反転の兆しもないこと、

- むしろモールという業態自体が消滅しそうになっていること、

を勘案すると、少なくとも現時点ではそう結論せざるを得ません。

一方、「目利きやのれん、売り場作りのノウハウもあるだろう」という人は、(日本においては)よく新宿伊勢丹メンズ館を引き合いに出しますが、本当に立地とは別にそれら固有の価値あるのであれば、例えば伊勢丹の松戸店だって閉鎖に追い込まれることはなかったはず。

伊勢丹メンズ館は、新宿にあったからその目利きをマネタイズできたのであって、「目利き」「ブランド」等々には、立地を離れて独立して存在するだけの顧客価値はなかったといえます。

まとめ

b8ta店舗で実用されている個々の技術はそこまでのものはありませんし、オンライン/オフラインでの顧客統合能力もかなり心細いレベル。

さらに、小売業者としての本来的能力(マーチャンダイジング、陳列、在庫管理、売り場作り、接客力)はまだかなり低いと思います。

それらは時間の経過と共に克服できると考えているのか、あるいはそもそもそんなに重要ではないと割り切っているのか分かりませんが、小売業者としての本来能力に乏しいプレーヤーが、小売業に革命を起こしていることは示唆的です。

Retail-as-a-platformという考えも非常に面白いので、今後も定点観測を続けようと思います。

#くじらキャピタル #事業再生ファンド #デジタルで小売を再生 #b8ta

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