マガジンのカバー画像

詩の場所

92
小山伸二の詩の置き場所です。
運営しているクリエイター

#petry

文学b

文学b

秋の声が届いた
図書館で借りた物語のなかで
登場人物は
自分のノートを破り始める
お行儀のいい生活はやめにします
これからは本音で生きたいから

言葉にならない感情を
埃まみれのフラスコのなかでかき混ぜる
ランドセルを背負ったギャングたち
爆発もなければ
煙も出ない
世界なんてウンコだよ
わざと声に出して
はしゃぎながら中央線に飛び乗ってくる

国立五小を卒業した女子が
大人になってドイツで暮らし

もっとみる
文学a

文学a

大型クレーンが乾燥した冬に立ちならぶ
国立競技場建設現場
編集者は夢中になってシャッターを切っていた
会議室のベランダ
百年の出版社
ぼくは作家の亡霊を眺めている
暗い会議室
いまも
中上健二が
大きな背中を丸めて
小さな文字を書きなぐっている

半島からやってきた物語
大団円を殺せ、と呟いたのだったか
つよい酒をあおって
岬から
船を漕ぎ出した
おおきな翼をつけて
ゆっくりと
海を打ちすえて

もっとみる
戦後

戦後



蜜柑の山からみえる海
しずまりかえる島を歩く
ひとかげもなく
ひとり戦後の歌をスマホで聴く
若いひとたちのいる場所から離れて

いつかとおい場所に
きみとふたりで行ってみたかった
あかるい街の通路で
ステップ踏んで

本たちも眠る
建物を吹きぬける風を感じるために
いまこそ口ずさむ詩句を懐から出そう
きみの
月のひかりの本棚に並べるために

世界を抽象してみせてよ、と言ったねきみ
新宿の雑踏

もっとみる